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経験と反省を生かして掴んだスペイン撃破、同じベクトルを加速させた指揮官の決断

超ワールドサッカー / 2022年12月4日 22時45分

写真:Getty Images

「自分たちができるということを信じ続けてチーム一丸となって最後まで戦ってくれたことが良かった」

試合後にそう語ったのは森保一監督。日本代表がスペイン代表に逆転勝利し、世界中を驚かせた試合の直後だった。

カタール・ワールドカップ(W杯)は日本にとって、7大会連続7度目の出場となった大会。1993年にアメリカW杯予選を戦う日本の一員として森保監督はピッチに立ち、「ドーハの悲劇」と呼ばれる苦い経験をしている。

それから29年。厳密にはドーハではないが、近郊のライヤーンにあるスタジアムで2度の歓喜を味わうこととなった。

4月1日、カタールW杯の組み合わせ抽選会が行われ、2014年のW杯王者ドイツ代表、2010年のW杯王者スペイン代表との対戦が決定した。その後、大陸間プレーオフを勝ち上がったコスタリカ代表とも同居することが決定。コスタリカは2014年のブラジル大会でベスト8に入っており、日本よりも良い結果を残している。

誰もが非常に苦しいグループに入ったと感じ、世界の風潮もドイツとスペインの勝ち上がりを信じて止まない声が多数。“新しい景色”としてベスト8以上の結果を残すと4年間言い続けて来た中、戦前から日本国民には暗いムードがどこかに漂っていたのは事実だろう。

さらにメンバー発表がされた11月1日、長年エースとして支えたFW大迫勇也(ヴィッセル神戸)やMF原口元気(ウニオン・ベルリン)の名前はなし。メンバー選考に関しても、様々な議論が起きていた。加えて、9月にDF板倉滉(ボルシアMG)、FW浅野拓磨(ボーフム)が重傷を負ったかと思えば、メンバー発表後にDF中山雄太(ハダースフィールド・タウン)がアキレス腱断裂の重傷でプレー不可能になるなど、多くの困難が大会前に待ち受けていた。

しかし、その苦難を乗り越えたのが日本。世界を驚かせたが、日本人の多くも驚いたに違いない。その驚きを2度も与えたのは、国民が無理だと諦めかけた“新しい景色”を選手と監督、スタッフは諦めていなかったからに他ならない。

◆同じ過ちを繰り返さなかった指揮官の判断

では、スペイン代表にいかにして勝利したのか。もちろん、選手たちのメンタリティは重要であり、第2戦のコスタリカ戦で敗れたことが、良い方向に転んだとも言える。やるべきことがハッキリしたこと、余計なことを考えずに選手、スタッフ全てが同じ意識を持って戦えたことは何よりも大きいはずだ。

一方でスペインも負ければ敗退の危機さえある状況。1位通過を避けたという憶測も出ているが、そんな悠長なことは言っていられるはずがない。結果的に、もし同時開催の試合でコスタリカがドイツに勝っていたとしたら、スペインも敗退だったのだ。

ただ、前半の戦いを見て、スペインの選手たちにはどこか余裕があったとは思える。先制に成功し、日本には立ち上がりこそゴールに迫られたが、ほとんどの時間を自分たちが支配していた。ハーフタイムに気を引き締められたとは言え、ドイツに勝った日本はまぐれだったのではないかという思いが、無意識のうちに1ミリでもあったのかもしれない。

一方で、勝利しか目指していない日本としては、2点を取るという明確な目的が生まれた。そして、指揮官は堂安律(フライブルク)と三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)を後半頭から投入。結果として、この交代策がハマり、堂安の同点ゴール、堂安のパスをラインギリギリで三笘が折り返し、田中碧(デュッセルドルフ)が詰めるというゴールに繋がった。

焦ったスペインはその後は前半同様に支配していくが、日本の勢いに面食らった部分が大きく、効果的な攻撃は出せていなかった。選手交代で流れを変えに行ったが、それでもこじ開けられなかったのだ。

森保監督はこの試合で2つの大きな決断を過去の失敗から学んで行ったように思う。1つは後半頭の堂安と三笘の投入だ。

その反省というのは第2戦のコスタリカ戦。日本はこの日のスペインのように押し込み続けていたが、ゴールを奪えず。後半に伊藤洋輝(シュツットガルト)、浅野を投入し、その後に三笘、伊東純也(スタッド・ランス)、南野拓実(モナコ)と攻撃のカードを切った。

ゴールをこじ開けに行きたいが故に、個人で突破できる三笘と伊東、前線でボールを終える浅野、そして3バックに変更することも考慮して伊藤を入れた。ただ、伊藤は同サイドの三笘をうまく使うことができず、またゲームを組み立てる選手がいないことで、攻撃の形を作れなかった。三笘や伊東の仕掛けはあったが、単発に終わることが多く、結果としてミスから失点して敗れていた。

一方で、スペイン戦は、前半なんとか耐えた中、久保建英(レアル・ソシエダ)に代えて堂安、長友佑都(FC東京)に代えて三笘を選択。システムを変えず、ゴールを奪わなければいけない展開で、よりゴールに直結できる選手を投入した。それが後半立ち上がりの連続ゴールに繋がったと言える。

加えて、スペインが攻撃に出るためにアンス・ファティとジョルディ・アルバのバルセロナコンビを入れたタイミングで、鎌田大地(フランクフルト)を下げ、冨安健洋(アーセナル)を投入。その冨安は、期待に応えスペインの左サイドを完璧に封じ、最後の手として打ったルイス・エンリケ監督の策を潰すこととなった。極め付けは、田中に代えて遠藤航(シュツットガルト)を投入し試合をクローズしに行く冷静な判断。全ての交代カードが、ポジティブに働いた。

強豪国との真剣勝負という点では、森保監督は4年前のロシアW杯のラウンド16・ベルギー代表戦もコーチとして経験しており、流れを選手交代で変えるというものを目の当たりにし、悔しい思いを味わった。その経験も、しっかりと生かしているような気がしてならない。

◆1年半前の苦い記憶を払拭

そしてもう1つが、スペインというチームに対する準備だ。

記憶に新しいところではあるが、2021年の東京オリンピックで、日本代表は準決勝まで駒を進め、メダル獲得に近づいたことで大いに湧いた。その相手はスペイン。このW杯にも多くの選手が出場しているが、そのチームを率いていたのは森保監督であり、吉田麻也(シャルケ)、遠藤、酒井宏樹(浦和レッズ)はオーバーエイジとして戦った。

この試合と同様にスペインの攻撃にさらされながらも耐えていた日本。そして90分をゴールレスで終え、延長戦に入っても粘っていたが、マルコ・アセンシオの一撃に沈んだ。結果、3位決定戦ではメキシコに敗れてメダルを逃すことになり、あと一歩のところでどん底に落とされることとなっていた。

ちなみに、その大会前にもスペインと親善試合を行なっており、世代別のチームであったとはいえ、1年半で3度目の対戦となったのだ。

まさかW杯で同じグループになるとは想像していなかったが、組み合わせが決定してからのスペイン対策は長い間練っていたはずだ。そして、吉田が試合後に明かしたように、「3バック、5バックでしっかりハメに行って、後ろは我慢するというプランでした」とコメント。それまでの2試合とは異なり、3バックのシステムで最初から戦えたことは、大きな一手だったと言える。

[4-3-3]というスペインのシステムに対し、今大会で採用していた[4-2-3-1]はシステムの噛み合わせが悪い。前線の3枚に対して4枚で守るといえば1人多くなりそうだが、実際には5人を4人で守るという形に変わる。そのため、どうしても選手が足らず、攻撃の選手が下がり、6枚にして守る形になってしまうことが多い。

一方で、3バックにすれば、前の3枚に対して3バックがつき、サイドの選手をウイングバックが見て、インサイドをボランチの2枚が見ると言う形に。そうすることで、ボール奪取から攻撃に転じる時に前線に3枚残る可能性があり、ウイングバックも高い位置にいるために、攻撃参加しやすいと言うことがある。

堂安のゴールもそれが生きた形であり、前線からのプレスに対してスペインが繋いだところを伊東が競り合うと、こぼれ球を堂安が拾ってシュートした。2点目も堂安のパスを折り返した三笘はウイングバックの選手であり、後ろにポジションを取っていたら、あそこにはいなかっただろう。準備はしていたものの、これまで実戦ではほとんどやってきていない3バックのシステムを決断して採用し、それまでの準備に選手が応えた結果が、2つ目の金星となったと言える。

◆クロアチアにはどう戦うべきか?

ではクロアチア戦はどう戦うのか。クロアチアは[4-3-3]のシステムで、中盤のボール奪取力が高い上に、攻撃時には非凡なパスセンスを持つルカ・モドリッチ、マテオ・コバチッチ、マルセロ・ブロゾビッチが揃っている。加えて、イバン・ペリシッチのように、サイドから切れ味鋭い個人技を見せる選手もいるだけに、ドイツともスペインとも全く違う難しさが生まれるはずだ。

システムで考えれば、スペイン戦と同じような形をとることも考えられる。ただ、アジア最終予選を戦ったより守備を意識した[4-1-4-1]というシステムにすることも考えられるだろう。中盤を3枚同士で戦わせ、遠藤、守田、田中を並べる形。ウイングに伊東を置き、中でもプレーできる鎌田、南野、久保の誰かが左に入る形になるだろう。

ただ、4バックといえど、3バックにできるメンバーを選択することになるはず。板倉が出場停止となるため、吉田と谷口彰悟(川崎フロンターレ)がセンターバックに。左が長友、そして右サイドバックに冨安を置きたいところだ。

冨安は右サイドバックをやりながらも、3バックの右としてプレー。守備時と攻撃時でシステムを変える形が出せれば、プレスをかけながら、ボールを握って試合を支配していくという戦い方もできるはずだ。

クロアチアとの対戦経験は過去3回。うち2回は1998年のフランス大会、2006年のドイツ大会とW杯で戦ったのみ。もう1回は1997年のフレンドリーマッチと、今に生かせる情報はほとんどないと見て良い。

ただ、4年前には決勝にまで進んだ実績があり、その経験値がある選手が大量にいる。決して楽な相手とは言えないクロアチア。森保監督は何を用意するだろうか。

《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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