球界のドン逝去とJリーグとの確執/六川亨の日本サッカー見聞録
超ワールドサッカー / 2024年12月27日 21時0分
読売新聞グループ本社の代表取締役主筆の渡辺恒雄氏が19日午前2時、都内の病院で死去した。98歳だった。“野球界のドン”であり、「最後の独裁者」を自称した渡辺氏には数々の武勇伝がある。
04年当時、近鉄とオリックスの合併が表面化し、球界の再編成騒動が起きた。当時、巨人軍のオーナーだった渡辺氏は10球団による1リーグへの移行を主導。12球団の維持を希望する選手会と激しく対立した際は、「たかが選手」と発言して物議を醸した。
サッカー界とは、Jリーグ誕生の際にクラブ名から企業名を外して地域名にし、東京はNGという方針に当時の川淵三郎チェアマンと対立。94年12月には「一人の独裁者が空疎な理念を振りかざしてもスポーツは成り立たない」と川淵チェアマンを批判して世間の耳目を集めた。
Jリーグ誕生以前のJSL(日本サッカーリーグ)時代から、親会社からサッカー部への支出は会社の宣伝費か福利厚生費で経費扱いだった。しかしクラブ名から企業名を外すと経費として落とすことができず、親会社の持ち出しとなってしまうことに反発したのだ。
渡辺氏がJリーグと対立したのはクラブ名だけではない。試合の放映権をJリーグが一括管理することにも強い嫌悪感を示した。野球界は放映権を各球団が持っていた。とはいえ、いまの多チャンネル時代と違い、1960~80年代に民放やNHKでテレビ放映される試合は巨人戦に限られていた。それもシーズンを通じてほぼ全試合が日本テレビをメインに生中継されていた。
パリーグの試合が放送されるのは日本シリーズくらい。巨人戦は読売グループにとって“ドル箱”であり、セリーグの巨人以外の5球団もその恩恵に預かっていた。巨人戦のチケットは入手が難しいため、「読売新聞に変えて3ヶ月の契約をしてくれたら、巨人戦のチケットをプレゼントします」と販売店は拡販の材料にするほどのプラチナチケットだった。
これに対しJリーグは、特定のクラブの試合にテレビ放送が集中することを避け、全クラブの試合が均等に放送されることを目的に、放映権とグッズなどのキャラクター権、選手らの肖像権はJリーグが一括して管理。収益は全クラブに均等に分配する方針を出した(それまでサッカー専門誌は自社のカメラマンが選手の顔写真などを撮影して、シーズン前に選手名鑑を付録で付けていた。しかし開幕から数年後、選手の顔写真は肖像権を管理するJリーグフォトから購入しなければならなくなったため、増刊号を出すようになった)。
Jリーグの英断により、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の“巨人化”は阻止することができた。このため読売新聞と日本テレビは98年にクラブへの支援から撤退。1969年に当時の読売新聞会長だった正力松太郎氏が創設した読売クラブは国内でプロ化の先鞭をつけ、ヨーロッパ型の育成クラブとして誕生した。先見の明があったのは確かだが、親会社の撤退は寂しいものだった。
時代は移り、Jリーグの試合はDAZNの独占契約となり、地上波では優勝のかかった試合がNHKで放映されるくらい。スマホやタブレットで視聴できるのは便利だが、誰もが気軽に見られる民放の地上波で放送されないのは、これもまた寂しいし、新しいファン層の獲得にもマイナスとしか思えない。
ただ今年は11月3日のFC東京対湘南戦をテレビ東京が放送した。民放キー局が地上波全国ネットでJ1リーグの試合を中継するのは02年の仙台対鹿島戦以来22年ぶりの快挙であり、テレビ東京での試合中継も05年のFC東京対神戸戦以来19年ぶりだった。
できれば来シーズンは、民放の地上波でJリーグの試合中継が増えることを願わずにはいられない。そして最後に“仇敵”だった川淵氏(Jリーグ相談役)の渡辺氏への追悼メッセージを紹介したい。
「Jリーグ開幕当時、クラブの呼称問題などで侃々諤々(かんかんがくがく)の論戦を繰り広げたことが懐かしく思い出されます。渡辺さんとの論争が世間の耳目を集め、多くの人々にJリーグの理念を知らしめることになりました。恐れ多くも不倶戴天の敵だと思っていた相手が、実は最も大切な存在だったのです。まさに渡辺さんはJリーグの恩人。心から感謝しています」
文・六川亨
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