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韓国長編小説「父の革命日誌」日本語訳が出版 「ようやく歴史の重圧から解放」著者チョン・ジア氏インタビュー

よろず~ニュース / 2024年3月24日 11時20分

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チョン・ジア著「父の革命日誌」(提供:河出書房新社)

 1990年に長編小説「パルチザンの娘」でデビューし、韓国で大きな反響を読んだ作家チョン・ジアが2022年、実に32年ぶりに発表した長編小説「父の革命日誌」の日本語訳が2月に発売された。

 物語は韓国・求礼(クレ)で生まれ育った女性「アリ」が、パルチザン(共産ゲリラ)として闘争に身を捧げた父の突然の死を受け、喪主として帰郷することから始まる。弔問に訪れる人々を前にすると、アリの感情は過去と現在を行き来する。父へのいかんともしがたいアリのつまびらかな胸中に、思わず心揺さぶられる一冊だ。

 チョン氏自身の家庭環境をベースに書き上げられた本作が韓国で発表されると、戦争を知らない若い世代から多くの支持を得てネット上で話題に。そして2月、日本語訳が出版されることとなり、これを記念してチョン・ジア氏にインタビューを実施、本作への思いを振り返ってもらった。

 まず、十数年ぶりに大作を書き上げた時の心境を改めて尋ねると「解き放たれた気分だった」と表する。「私は物心ついた時から〝パルチザンの娘〟という肩書があり、重圧がありました。でも『父の革命日誌』を書いたことでようやく歴史の重みを捨てて、ただ一人の人間〝チョン・ジア〟としての人生が歩めるんだ、そんな気持ちになりました」と晴れやかな思いを明かしてくれた。

 チョン氏は「パルチザンの娘」から「父の革命日誌」発表までに、3冊の短編小説集を発表している。そんな中でも、長編小説を書こうという思いはずっと心に秘めていたという。「何度か(長編小説を)書こうとは思いました。でも長編を書くためには、いろいろな登場人物が必要となります。その一人一人を立体的に生かす作業・能力が、当時の私にはまだなかったんですね。表面的なことだけではなく、それぞれにリアルな人間性を持たせるために、これだけの時間がかかってしまいました」

 本作を読み進めるにつれ「アリ」の感情にすっかり共感してしまい、それゆえ、激しい感情の起伏に襲われた。そのことを伝えると、チョン氏は「小説を少しでも楽しんでもらうための〝戦略〟を3つ立てたのですが、それが役に立ったようですね」とほほ笑んだ。

 「戦略の1つ目は『面白いストーリー展開にする』ということ。現代の若い世代は、深刻なものや歴史的なものに興味がない傾向にあるようなので、とにかく『面白さ』を心がけました。そして2つ目は『冷静に、普遍的なものを書く』ということ。今でも韓国では〝社会主義者・左翼〟という言葉を聞いたり見たりしただけで、それを避けてしまう人がいます。その方たちに読んでもらうために、あえて娘を登場させて『父と娘』の構成にしました。3つ目には、『ユーモアを入れること』。田舎の人たちのユーモアは、決して面白いものではないですし、笑っていい話なのか正直戸惑うものばかりなんですが(笑)、村の人たちの生活を描く上では外せないものだったので、ブラックジョークとして受け入れてもらえるよう、注意しながら取り入れました」

 見事その術中にはまり、あっという間に読み終えてしまった。しかしその戦略にハマる事は、決して心地の悪いものではなかった。「自身にふりかかった苦しみに耐え抜いた人たちは、人生に勝利した人たちだと思うんですよ。悲しみに打ちひしがれることなく生きていく、これが人生なのだと思いました。そんな人たちを、作品ではリアルに描きたいと思いました」

「父の革命日誌」で、心に積もり積もった両親への思いをようやく吐き出せた

 「父の革命日誌」は小説というジャンルによって、チョン・ジア氏の人生に起きた事実が書かれた作品だ。作家として、その事実を書くということについての心境を聞いてみた。「『パルチザンの娘』を書いたときは、作家として両親の人生を記録することがパルチザンの娘として生まれた私の〝義務〟だと思っていました。なのでこの作品を書いたことで、背負ってきた責任と義務を果たせたと思っています。それに加えて、今回の『父の革命日誌』は、私自身の心の中に積もり積もっていた両親への思いが、ようやく吐き出せた作品でもあります。パルチザンの娘という差別を受け、レッテルを貼られた人生を作品にしたことで、心の負担は軽くなった気がします」

 そんな「父の革命日誌」が国境を越えて日本語に翻訳され、異文化の人々に読まれることについて、率直な気持ちを伺った。「日本ではこの一人の男(父)の話が、どのようにして受け止められるのか、それがとても気になります。歴史的文化の違う人生を歩んだ人の話を理解するのは、難しいことです。でもこの物語はそれ以前に、人種や国に関係なく人間の話です。誰かを理解したいし理解してもらいたい、愛したいし愛してほしいという、人と人がふれあいながら生きていく話を私は書いたつもりです。そして何より本作は『父と娘』の話であり、『前世代と現世代』のお話でもあります。その点で韓国では、若い世代に好評を得ることができました」

 インタビュー中、チョン・ジア氏は近年を生きる人々の生きづらさを慮り、憂いた。「今を生きる人たちは、日韓を問わず上ばかりを見ている(目指している)気がします。だから失敗したり思い通りにいかないと、すぐに絶望したり怒りを覚えたりしてしまうと思うんです。私もソウルで暮らしていた時は、爪先立って上ばかり見ていました。だからいつも疲れていたし、首も痛かったし、見えるものが限られていました」

 そんなふうに、自身が経験したからこそ伝えたいメッセージがあるという。「故郷の求礼に戻り、町の共同体になってからの生活は、体がその土地にしっかりと根をおろしたようで楽になりました。土にゆったりどっしり座ることで、視界には上だけじゃなくて上下左右と、いろいろなものが見えてきたんです。そして人を生かすものは、上にあるのではなく下にあるのではないかと思うようになりました。私はこれがとても心地よく、これからも求礼に根を張って生きていくつもりです。なので日本の読者の皆さんも上ばかり見るのではなく、時々は下(土地)を見ながら生きてほしいと願っています」

◆チョン・ジア(ちょん・じあ)1965年、韓国・求礼生まれ。1990年、自身の両親をモデルにした長篇小説「パルチザンの娘」で作家デビューするが、発禁処分に。その後10年を経て、2005年に再出版された。作品集に「歳月」(新幹社)など。李孝石文学賞ほか、数々の文学賞受賞。

「父の革命日誌」
2月27日発売
河出書房新社
チョン・ジア 著
橋本智保 訳
単行本/272P
ISBN 978-4-309-20898-5
2310円(税込)

(よろず~ニュース・椎 美雪)

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