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「カイジ」は次章で完結、福本伸行氏が明言 ギャンブル漫画の達人「根っこ」は若き日のヒリヒリ体験

よろず~ニュース / 2024年3月22日 7時40分

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「逆境回顧録 大カイジ展」の会場で特製クレープを手にする福本伸行氏

 「賭博黙示録カイジ」、「アカギ 〜闇に降り立った天才〜」など多数の代表作を持ち、ギャンブル漫画の大御所である福本伸行氏。圧巻の心理描写とストーリー展開が持ち味だが、そのバックボーンとなった体験を聞くと、若かりし頃のバックパッカー経験を口にした。

 65歳とは思えない若々しさ、そして物腰の柔らかさ。読者の心にトゲを突き刺すような作風からは想像しにくい。「僕はそんなに特別な体験をたくさんしたわけではないんです。もちろん人生ではつらいことも、苦しいこともありますが」と困った顔を浮かべ、記憶を辿った。小額でのギャンブル、仲間内の麻雀で危険牌を捨てる際の「ドキドキした感情」が作品の「種」だという。「その種を膨らませて、漫画ではものすごい額の勝負、命のやり取りになっていますね」と語った。

 そんな中で「昔、カバン一つで中国や東南アジアを旅行したことがあって、それは自分の根っこに、少し影響があるのかもしれませんね。生きてさえいればいいという危ない目にあったり、人に助けられたりもしました」と語った。「特別ではない」という、若かりし頃のバックパッカー体験について聞いた。

 リュックを背負い各1カ月以上に渡る貧乏旅行。31歳の1989年に「天 天和通りの快男児」連載を開始し、多忙になるまで、5~6年ほど度々海外に出かけたという。

 中国へは上海に渡航し、自転車で旅した。1987年では、日本の国内総生産(GDP)は中国の9倍以上だった頃の思い出だ。

 「街中を自転車で走りました。当時の中国は解放都市、非解放都市、準解放都市があって、役所のようなところで(目的の)準解放都市を10件とか選べる。上海や北京は開放都市ですが、少し地味な準開放都市までは自転車なので、途中で非開放都市に泊まることもあるんですよ。非解放都市では外国人を初めて見る人、ギア付きの自転車なんて見たことがない人たちがいっぱい。そういうところで食堂に入ると、人だかりができて、筆談が結構通じるから、どこから来たとか同じ質問ばかりされましたね」

 非解放都市の宿泊所で一晩過ごそうとした日のこと。夜に警官が訪れ、連行された。

 「僕が泊まっていたのは、一般の中国人が泊まるところ。外国人はそこにいちゃいけなかった。『どうしてここに居るんだ』と聞かれて『日が暮れて(目的地に)たどり着かずに泊まりました。目的は通過』、とか答えると、もっといいホテルのようなところに泊まれて、翌朝に別れました。もしかしたら帰ってこられなかったかもしれない」

 フィリピンでは島巡りの際、現地の姉妹に航空機のチケット購入を手伝ってもらった。お礼に食事をご馳走しようとすると、「家に来てくれ」と案内されたという。

 「フィリピンの家を見てみたかったので、姉妹について行くと、マッサージをされました。『地球の歩き方』の注意通り、案の定バッグが(別の部屋に)持っていかれる。だけど『やめてください』って言いにくいんですよ、日本人の性質として。なんか疑ってるみたいでしょ。まあ本当に疑っていたんですけど。マッサージが終わったら、お金が抜かれていました」

 盗難を疑うと、その家族から「みんな泣きそうな顔をしながら」否定されたというが、「何を言っているんだこいつらは」と引かなかった福本氏。警察を呼ぶことを提案されたが、当時はフィリピンの警察は非常に悪質と聞いており、提案を拒否して、なお食い下がった。

 「すると家族に妊婦がいたんですけど、俺が騒いだから産気づいたと言うわけです。『お前のせいだ』『そんなわけない』と言い合っていたら、車で一緒に病院に行くぞ、と。なぜか僕も乗せられて、結局病院で迷子にさせられ、置き去りにされました。夜だったから姉妹の家への道なんて分かりません」

 フィリピンでは、さらに危険な目に遭った。路上を通行中、警察を名乗る男から新聞を突きつけられ、車に乗るよう求められた。

 「新聞に載っていた麻薬事件の犯人の顔写真を見せられて、それが僕だという。どう見ても別人。『車に入れ』『いや行かない』ともめていたら、別のところから人が来て、かばんから荷物を取り出そうとする。すると車がスーッと走り出して、パスポートが抜かれていました。車に向かって『パスポート‼』と叫んだら、窓が開いてパスポートをポイっと投げてくれました。でもカメラを奪われていましたね」

 米ニューヨークの安宿に泊まった際は、夜中に路上から叫び声が聞こえる中、ドアを強く叩く音が鳴り響いた。

 「気持ち悪くてドアを開けなかったら、朝になって、カードが挟まれていることに気付きました。そこには『危ないからカギを閉めろ』と書いてあって…実は親切だったんですよ」

 まだまだ思い出は尽きない福本氏。フィリピンで警察を名乗る者にカメラを奪われた際、近くの住人が心配の声をかけながら近づいてきた。「どちらかというと同情で寄ってきたんだけど、少し前にひどい目にあった気持ちが強いから、『うるさい』と邪険でしたね」と述懐。その場景は痛い敗北を喫した後のカイジに重ねてしまいそうだが、福本氏は、それらの体験は作品の「種」にすぎないと話す。

 「危ない目に遭ったことは人間の気持ちを考える根っこにはあると思うんだけど、その先はやはり想像力、妄想力と言うか、いろいろ考えていますね。例えば(『最強伝説 黒沢』の)黒沢の気持ちも大事だけど、それが感情を揺さぶるストーリーに組み込めるかどうか。黒沢がスーパーの弁当を試食するのを許す、許さないとボクサー崩れとケンカするシーンがあるでしょ。どうしてそんなことで殴り合いをするのか、悲しくてしょうがない、みたいにね」

 体験の「種」から漫画のストーリーに転換する具体例も示した。漫画家を目指し、朝刊の新聞配達を行い、月4万円の収入で家賃9000円のアパートに暮らしていた頃、友人が家に遊びに来たときだった。

 「新聞配達をしながら、基本的には漫画を描いていました。予定表のようなものを作っていて、(夕方)5時に遊びに来ると書きこみ、朝が早いから『10時に帰宅』とも書いたんです。(友人が)それを見つけて『自分が帰ってから書くべきだろう』と笑っていました」と回想。漫画に発展させる形として「例えば友人が落とした手帳をのぞいたら、自分の予定がぎっしり書き込まれていたら嫌でしょ。そんな手帳を書いているのがバレたら大変だ、とかね」と続けた。

 福本氏は故・かざま鋭二さん(代表作に「Dr.タイフーン」原作・高橋三千綱、「風の大地」原作・坂田信弘、など)のアシスタントを経て、1980年に21歳で「月刊少年チャンピオン」に掲載された「よろしく純情大将」でデビュー。当初は人情漫画を描いたがヒットせず、ギャンブル漫画で開花した。

 「僕は20歳から、漫画の持ち込みを始めました。かざま先生の他のアシスタントは絵がうまいから、すぐに原作者がつくんですよ。僕は絵がヘタだから原作者がつかないので、話を自分で考えるしかない。20歳から45年間、ずっと話を考えています。体験がそのまま漫画の話に飛ぶことはないですね。

 うまくいかなかった経験もストーリー作りでは種になります。惨めな思いをすることは、普段の暮らしでは嬉しくないけれど、僕は話を考える人間だから、そんな感情を学校、職場、バイト先、ゴルフ仲間の中だったら〝どういうイヤミが一番嫌か〟などに考えます。(『二階堂地獄ゴルフ』で)研修生を辞めさせられた二階堂が、(後輩の研修生)桐島に「オレなんか周回遅れのランナー」と言うと、桐島から「アンタ オレ達と同じグラウンド回ってませんから」「先輩は町内をグルグル回っているジョギング愛好家でしょ?」と言われて、主人公がググッと押し黙る。それが漫画の面白さ。いつもそんなことを考えています」

 二階堂へのイヤミのように、福本作品は作中の名言集が出版されるなど、吹き出しの強さが特徴的だ。

 「言葉は前もって用意できる場合もあるし、その場のノリで出るケースもある。漫画を読む快感はリズム。漫画は会話に近いと思っています。僕の作品はセリフが多いけれど、読者に理解させながら進み、モヤモヤさせないように気をつけます。複雑なことでも分かりやすく、その中でキレを出すように心がけていますね」

 映画からの影響については「漫画家でものすごく映画を見る人に比べたら、全然ですよ」と言い「だって好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、黒沢明監督の作品、最近だと『カメラを止めるな!』ですもん。この時点で分かるでしょ」と笑った。

 ただ、デビュー当初に描いた人情漫画への愛着は強い。「アカギ」「カイジ」のヒット後に開始した「黒沢」「二階堂」へと昇華させた。休載中の「カイジ」でも、現在の「24億脱出編」では、逃亡生活の中でカイジとチャンとマリオが、帝愛の追っ手を振り切る展開が描かれている。福本氏は「ギャンブルではないけどヒリヒリする部分と、ちょっと笑っちゃう部分を総合力で漫画にしています」と語る。

 5月12日まで開催中の「逆境回顧録 大カイジ展」(東京ドームシティ・ギャラリー アーモ)では、原画とともに「限定ジャンケン」「鉄骨渡り」「焼き土下座」「沼」などをモチーフとしたフォトスポットが満載。最後に「カイジ」の今後を聞いた。

 「そろそろ24億編は終わるべきです。いろんなチャレンジができました。簡単に言うと、漫画って主人公がピンチになり、それをどう解決するかが基本。ギャンブルなら勝ち負け、24億編なら追われていく中で車のガソリンがなくなるとか、デパートで帝愛にマークされるとか、チャンが広島でロッカーの期限までに戻れるか、とか。いろんなピンチの形を箱庭にように作ることができました。24億円は重さが240キロありますから。実際に24億円を現金で手にしたらどうするか。リアルに考えたら面白い発見がたくさんありました」

 そう成果を語った福本氏。その先の次章で「カイジ」が完結すると明言した。

 「24億編はギャンブルとは関係なく終わる予定ですが、その次にもうひとつギャンブルを描きます。それで『カイジ』を締めくくるのが美しいと考えています」

 常に温厚な様子が印象的だった福本氏。ほのぼのとした、人情味あふれる24億編から、カイジたちはどのようなギャンブルに挑むのか。楽しみに連載再開を待ちたい。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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