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【倉本 聰:富良野風話】依存症

財界オンライン / 2024年4月19日 11時30分

リニア新幹線の工事が当初の予定通り進まずに、遂に一時断念に追い込まれたらしい。静岡工区の進行が思い通り行かず、計画を延期へと追い込まれたのである。

【倉本 聰:富良野風話】足音

 担当者には申し訳ないが、心から良かったと僕は思っている。

 列島改造論の余波かもしれないが、この美しくも小さな島国の大地を、これ以上ズタズタに切り刻むことの無謀をかねがね苦々しく思っていた。

 速く、便利に、という国の方針が、一体どれほどの重要性を持つものか知らないが、東京―大阪間を8時間かけてのんびり移動していた昭和の民にとっては、それが2時間半で行けるようになったというここ半世紀の進歩というものは既に目を見張る大躍進であり、それをこれ以上に大地をけずり、水脈を破壊して日本列島というこのかけがえのない自然をめちゃくちゃにして行くという激しい暴挙は、即に人智の枠を超え、神の領域を犯してしまっているのではあるまいか。

 それが如何ほどの経済効果を生もうが、日本列島にこれ以上の整形手術を施すのは、日本といういわば自然遺産に、とり返しのつかない損害と破壊をもたらす暴挙というものに他ならない。少なくとも僕にはそうとしか思えない。

 ギャンブル依存症、セックス依存症、現代にははっきり病気と認定される様々な依存症が存在するが、より速く、より便利にと際限ない上昇を求める現代人は、一種の〝上昇〟依存症に罹患している。

 もしそれが多少の経済的メリットを生もうとも、今、これだけ足元の環境問題が叫ばれている時に、これだけ大規模な自然破壊が行われることに国の学識者たちが何も声をあげないのは、どういうことかと常々苦々しく思ってきた。スピード、そして経済効果。もう充分と思わないのか。

 智を用うれば何でもできる。御立派です。偉いです。頭が下がります。ほめろというなら、いくらでもほめます。しかし大地の上に住むものにとっては、してはいけない限界というものがある。その限界を今我々はいともやすやすと超えようとしてはいまいか。

 たとえば大地が営々と溜めてきたこの国の水脈。たとえば地中に眠っている重金属を含む危険物の放出。それを海洋に流し、海に汚染をもたらすという犯罪行為は、ひとり漁業者の問題だけではない。魚に無数のマイクロプラスチックを喰わせ、それが最後は最終捕食者である我々人類の問題にも返ってくることを、識者はどうしてもっと真剣に、明日のこととして考えないのだろうか。それより東京―名古屋間が1時間短縮されることの方が、彼らにとっての快事なのだろうか。

 ヒトは明らかに依存症にかかっている。

 スピード依存症、進歩依存症、上昇依存症、経済依存症、エトセトラの依存症。水原一平氏のギャンブル依存症より、これははるかに恐ろしい事態である。

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