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クレディセゾン会長CEO・林野宏「『グローバル』と『DX』に強い企業に進化する。ポイント競争に参加せず、独自の経済圏を」

財界オンライン / 2024年10月3日 18時0分

林野宏・クレディセゾン会長CEO

「他社は飽和した市場で競争している。我々はその競争には参加しない」─。クレディセゾン会長の林野宏氏はこう話す。今、楽天グループやPayPay、三井住友フィナンシャルグループなどが「ポイント競争」でしのぎを削る。クレディセゾンもクレジットカードやポイントを強みとするものの、自社とシナジーを発揮できるパートナーとの「緩やかな」連携による経済圏構築を目指す。クレディセゾンの今後の姿は─。


日本は「内向き志向」を打破できるか?

 ─ 米大統領選が近づく中ですが、地政学リスクもあり世界の状況は混沌としています。現状をどう見ていますか。

 林野 米大統領選は共和党のドナルド・トランプ氏、民主党のカマラ・ハリス氏の支持が拮抗しており、なかなか読めませんが、経済的側面から考えるとトランプ氏が当選した場合には、自国第一主義が加速するのではないかと思います。

 ただ、アメリカは国力が落ちたと言われながらも、移民などもあって人口が増え続けていますから、地力があります。巨大テック企業のGAFAMやエヌビディアなど、世界を席巻する企業を生み出す力を持っています。しかも、経営者は様々な国にルーツを持つ多様な人材です。そういう人材が集まる国になっていることがすごい。

 欧州を見ると、EU(欧州連合)の中心国であるドイツの政治、経済情勢を見る限り、全体としてもかなり厳しい状況だと思います。

 ─ 中国経済の動向も世界に影響を与えると思いますが。

 林野 中国経済も厳しいですね。不動産バブルが崩壊し救いようがない状況です。雇用面を見ても、約750万人の大学卒業者のうち、半数が就職できていないと言われます。

 ─ 日本が抱える課題についてはどう見ますか。

 林野 内向き志向が強まっているように見えるのが気がかりです。アメリカ、中国などの若者はどんどん海外に出て、母国語以外の言語を身に着けて、世界で活躍しようとしています。日本の国の中に閉じこもっているという考え方は、将来を考えると問題があると思います。

 そうした中でも目を引くのはゴルフの世界です。女子ゴルファーは20歳前後で世界に出て、米国でも勝利している。

 当社は7割以上が女性社員ですが、多くの企業でも、多くの人が女性の方が優秀だと思っているのではないでしょうか。今は、我々の時代とは違って、女性は試験などをやっても「男性には負けない」と最初から思っていると思います。その意味で日本では男女が公平に渡り合う社会がやってくると考えるべきではないだろうかと思います。

 ─ 政府は2030年までに上場企業の女性役員比率を3割にするよう求めています。

 林野 比率ありきではなく、登用されても活躍できる女性を育成していくことが必要だと思います。

 そもそも、政府が旗振りをする働き方改革というのもいかがなものでしょうか。もちろん、望まない人に対する長時間労働は問題ですが、社会に出たての20代の時にハードトレーニングをすることで、一人前になるということもあると思います。

 そして、日本人には「国が何とかしてくれる」という甘えがあるのだと思います。しかし政府は国民に48.4%という負担を求めている一方、政治的に何かあれば、先日実施された4万円の定額減税のようにバラまきをする。こうした政府でいいのだろうかという問題意識があります。


日本の課題解決に必要なこと

 ─ 最近の円安は日本の国力低下を反映しているという声も根強くあります。

 林野 一言で言えば、アベノミクスの負の側面が出ているのだと思います。株価を上げた一方で、前日銀総裁の黒田東彦氏が実行した「異次元の金融緩和」で日銀が保有する国債の残高は、日本のGDP(国内総生産)とほぼ同じ規模になっています。そのお金が国民の懐にあったならば、経済はもっと成長していたはずです。それが海外に投資され、その収益によって経常収支は黒字になっている。

 ─ 日銀がマイナス金利を解除し、金利のある世界が戻りつつありますが、まだ正常化には遠い状況です。

 林野 ええ。一方でアメリカではFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを行うと見られています。日銀が早期に、例えば1%の金利を上げられるとは思いませんが、どこかで踏ん切らないといけない時が来るでしょう。資本主義ではゼロ金利などということはあり得ませんから。

 ─ 日本の課題を解決するために必要なことをどう考えていますか。

 林野 政治面で言えば、議員定数の削減です。衆議院の選挙区で10増10減という区割りになりましたが、そうしたレベルではなく、2分の1から3分の1を削減し、参議院を廃止するくらいの改革をする必要があると思います。

 また、経済面では5%の経済成長を目指すべきです。そのためにはGDPの58%を占める個人消費を、さらに拡大することが必要です。それはDX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)の利用促進なしには実現できません。


「ポイント競争」にどう対応するか?

 ─ 林野さんがクレディセゾンの社長に就いた時から20年以上が経ちました。これから目指す方向性について聞かせて下さい。

 林野 大きく言えば「グローバル」と「DX」に強い会社になるということです。

 日本のクレジットカードの現状を見ると、1人平均3枚を持っており、サチュレート(飽和)しています。楽天グループやPayPay、三井住友フィナンシャルグループのVポイントなど、他社はサチュレートした市場でポイント競争を繰り広げているわけです。我々は、そうした泥仕合には参加しない考えです。

 ─ その時にクレディセゾンの差別化ポイントは?

 林野 「アメックス」のブランド力です。ブランドを使う権利を持つ会社は他にもあるのですが、国内でセンチュリオンのカード券面を使えるのは我々だけです。このアメックスブランドのステータスを活用して、例えば企業間の決済に注力します。企業間決済におけるクレジットカードの利用率は、まだ5%程度で、逆に言えば95%の開拓余地があります。

 また、富裕層などで他社のカードを利用している人の中にも、アメックスブランドに価値を感じている人も多いと思いますから、そうした潜在ニーズを拾っていく。我々は、この富裕層、SME(Small and Medium Enterprise=中小企業)、BtoBビジネスが成長のエンジンになると考えています。

 先ほどお話したように、他社はポイント競争を繰り広げる中で疲弊していきます。そこに我々のチャンスがあると見ていますから、その時が来るまで待つのも1つの戦略です。

 ─ グローバルといった時に、注力する市場は?

 林野 アジアです。我々はコロナ禍の中でも着実にアジア市場の開拓を進めてきました。そのモデルは今、インドで形作られています。インドにはキセツ・セゾン・ファイナンスという子会社がありますが、この会社は18年に我々の単独出資で立ち上げ、まさにゼロから成長させてきたものです。

 この会社は、単なるリテールではなく、審査、貸付、回収まで全て自前で行っています。それ以外にもフィンテック事業者との共同貸付によるパートナーシップレンディングも手掛けています。個人だけでなくSMEも対象となります。さらには自社による顧客への直接貸付のダイレクトレンディングへとステップを踏んでいます。

 こうしたインドで成功したビジネスモデルを、ブラジル、メキシコに展開しようとしているのです。どの国も人口が多く、かつ若年層の割合が高いこと、デジタルが進んでいるという共通点があります。

 もう1カ国、ベトナムでも事業を展開しています。15年から、現地の商業銀行であるHDバンクとの合弁でリテールファイナンスを手掛けるHDセゾンファイナンスを運営しています。

 現在、当社の海外事業を担っているのは取締役(兼)専務執行役員の森航介です。東京大学法学部を卒業した後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行しています。

 米スタンフォード大学ビジネススクールでMBA(経営学修士)を修了した後、06年にウェブサービスを手掛けるフィルモア・アドバイザリーを起業しましたが、13年にクレディセゾンに入っています。

 ─ DXは日本全体の課題ですが、どのように進めますか。

 林野 19年にはデジタル専門組織「テクノロジーセンター」を立ち上げ、21年には全社を挙げてDXを推進する「CSDX (Credit Saison Digital Transformation)戦略」を打ち出して、いま進めています。

 当社のDXは、取締役(兼)専務執行役員でCDO(最高デジタル責任者)兼CTO(最高技術責任者)を務める小野和俊が担っています。

 大学は慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の環境情報学部の出身ですが、在学中から野村総合研究所でアルバイトをしながら、システム開発を手掛けていたそうです。卒業後にはサン・マイクロシステムズに入社しました。

 その後、2000年にソフトウェア開発やシステム運用を手掛けるアプレッソという会社を起業します。13年には、そのアプレッソと、我々のグループ会社であるセゾン情報システムズ(現セゾンテクノロジー)が資本業務提携を結び、その子会社となりました。

 17年にセゾン情報システムズが本社を移転し新本社を訪問した際に、小野と話し合う機会があったのですが、非常に盛り上がったことを覚えています。そこで、セゾン情報システムズの社長に話して、クレディセゾンに入社させて、CTOに就けたのです。小野は今の日本におけるDXのリーダーとも言える存在だと思っています。


パートナーとの緩やかな連携を進める

 ─ クレディセゾンは「総合生活サービスグループへの転換」を掲げていますが、今後目指す企業の姿を聞かせて下さい。

 林野 社長の水野克己のリーダーシップのもと、「総合生活サービスグループへの転換」に向けては、パートナーとの緩やかな連携による「セゾン・パートナー経済圏」の構築を進めています。

 先程お話した楽天グループやPayPayなどは、EC(電子商取引)などを含めた、それぞれの経済圏での囲い込みをしています。しかし我々は、そうした囲い込みではなく、お客様のニーズにお応えし、相互交流や「ギブ&テイク」が成り立つ仕組みづくりが強いと考え、それを構築しようとしています。

 例えばすでに、三井不動産、東急不動産、大和ハウス工業と協業している他、400近い金融機関と連携して、信用保証事業を進めています。さらには今後、このセゾン・パートナー経済圏は、グローバルへの展開も考えています。

 ─ 23年にはスルガ銀行と資本業務提携を結んでいますね。どう活用していますか。

 林野 23年に、我々の保証が付いた住宅ローン、両社共同でコラボレーションローンを展開するなど独自の商品・サービスを展開しています。

 スルガ銀行はリテール銀行ですから、ノンバンクとの相性がいいのではないかと考えており、今後もバンク、ノンバンク双方の強みを融合させた、新たなビジネスモデルの創出に挑戦していきたいと思います。

 ─ 改めて、クレディセゾンは旧セゾングループのDNAを今に伝える数少ない存在になりました。このよさを今後にどう生かしていきますか。

 林野 今、クレディセゾンのグループ、関係各社の企業名には「セゾン」を使用するようにしています。さらに、それらの企業のイメージカラーにセゾンブルー&グリーンの色彩を活用し、グループのイメージ一体化を図っています。

 これによって、かつてのセゾングループの発展の姿に共感を持ってくれているシニア層を中心とした顧客への訴求を強化しているのです。

 今後、「総合生活サービスグループへの転換」を果たしていくためには、こうしたブランド構築が重要ですし、組織としてイノベーティブでなければなりません。社員1人ひとりには自由な発想で行動して欲しいですし、成長して欲しい。私の仕事は、その社員の意思を後押ししていくことだと思っています。社員の資産形成など豊かなくらしを実現したいと考えています。

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