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【政界】待ち受ける難関をどう乗り越える?「不思議な安定」を続ける石破首相に問われる突破力

財界オンライン / 2025年1月14日 11時30分

イラスト:山田紳

少数与党となった自民党を率いる首相の石破茂が〝不思議な安定〟を続けている。「熟議」を掲げる石破を野党側は積極的に追い込もうとはせず、衆院選大敗のしこりが残る自民党内にも「石破おろし」の動きはみられない。「政治とカネ」の問題に縛られ、国会論戦では歯切れの良さは消えた。2025年1月召集の通常国会で25年予算案審議という最大のヤマ場を迎える。丁寧さも必要だが、大胆さと強い覚悟を示さないと、混沌とする国際情勢の荒波に日本は飲み込まれかねない。


尾を引く「政治とカネ」

「先の総選挙、大変に厳しい審判をいただいた。自民党総裁たる私の責任だ。反省している」

 石破は12月8日に党本部で開いた、10月の衆院選で落選した前議員らとの懇談会で、そう陳謝した。

 だが、2時間半にも及んだ懇談会では、厳しい声が相次いだ。「自民党として何を国民に問うのか明確ではなかった」「我が党は何をする党かを鮮明にすべきだった」という意見だけでなく、派閥政治資金パーティーを巡る「裏金事件」の対応を批判する声もあがった。

 また、パーティー収入を政治資金収支報告書に記載しなかった一部議員が非公認となったり、比例代表との重複立候補が認められなかったりしたことに対しては、「選挙直前になってもう一度、追加処分をしたのはいかがなものか。党執行部は責任を感じるべきだ」「選挙直前の公認、非公認で雰囲気が数カ月前に戻ってしまった」などの批判が噴出した。

 さらに、選挙期間中に非公認議員が代表を務める政党支部に2000万円を支給していたことが発覚したことに関しては「2000万円問題が出て空気が一瞬で変わった。大ダメージだ」などの声が漏れた。

 2000万円問題について、党幹事長の森山裕はこれまで「党勢拡大のための活動費として支給したもので、候補者に支給したものではない」と釈明してきたが、この日は詳しい発言を避けた。石破も出席者からの意見に対して明確なコメントはせず、次期衆院選に向けた態勢づくりを急ぐ考えを表明するにとどまった。

「『政治とカネ』の問題が一番重要な課題だった。国民は(先の衆院選で)厳しい審判を下したわけで、深い反省のもとに、これから政治をどのように正していくのか、国民の政治に対する信頼をどのように取り戻すか、そこから始めるのが本来ではないか」


〝不思議な安定〟の末に

 12月2日に始まった石破の所信表明演説に対する各党の代表質問で、立憲民主党代表・野田佳彦が真っ先に切り出したのは「政治とカネ」の問題に対する石破の姿勢だった。

 野田「政治改革の本丸である企業団体献金の禁止をなぜ議論の俎上に乗せようとしないのか」

 石破「政党として避けなければならないのは献金によって政策が歪められること。これには個人献金も企業団体献金も違いはない。企業団体献金が不適切であるとは考えていない。政治資金について高い透明性を確保することが重要だ」

「自民党内野党」のポジションに長くとどまってきた石破の持ち味といえる歯切れの良さは見られず、国会論戦では「守り」に徹する答弁が目立った。

 12月6日の参院予算委員会でも、いわゆる「裏金議員」らの参院政治倫理審査会への出席に関し、大半が非公開を希望していることを追及されると、「非公開での審理を無意味だとは思わない。充実した中身のある審理がなされることを期待する」と述べるにとどめた。

 元衆院副議長の衛藤征士郎は8日の懇談会で、依然として「政治とカネ」の問題を巡って野党の追及が続いていることを受け、くぎを刺した。「いわゆる裏金問題の終結宣言、完了宣言をすべきだ。それをしないといつまでたっても引きずられる。総裁、幹事長が一身に受け止めて堂々とやるべきだ」。しかし石破、森山は一切反応しなかった。

 先の衆院選では石破自身が掲げた「自民、公明両党で過半数を確保」という勝敗ラインを割り込む大敗を喫しながら責任をとらない石破への党内にしこりが残る。しかも、1994年の羽田孜内閣以来、約30年ぶりの「少数与党」という不安定な政権運営を強いられている。

 にもかかわらず、与野党ともに石破を引きずり降ろそうとする動きはなく、「不思議な安定」が続いている。

「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合せるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していくようにしなければならない」

 石破は11月29日の所信表明演説の冒頭、1957年2月の石橋湛山内閣の施政方針演説の一節を引いた。そして「民主主義のあるべき姿は、多様な国民の声を反映した各党派が真摯に政策を協議し、よりよい成案を得ることだ」と訴えた。

「他党にも丁寧に意見を聞く」「幅広い合意形成が図られるよう真摯に謙虚に取り組む」─。少数与党として野党の協力が欠かせないからだ。所得税が課される年収の最低ライン「103万円の壁」の引き上げや、ガソリン税を一時的に軽減する「トリガー条項」の凍結解除など、国民民主党が訴える政策の協議を行い、歩み寄るスタンスをとった。

 そうした姿勢は国民に一定の理解を得られたようだが、一方で、日米同盟強化を目指した「日米地位協定の改定」やアジア地域に集団安全保障の枠組みをつくる「アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設」、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けた「平壌・東京に連絡事務所設置」といった持論をはじめ、健康保険証のマイナ保険証への一本化、金融所得課税強化などの主張も封印したままだ。所信表明演説でも具体的に触れることは一切なかった。

 主導権を発揮できない苦境が続くが、与党内からは「首相としてやりたいことが全く見えてこない。その場の対症療法で、妥協するばかりでは、失点はなくても、アピールポイントもなくなる」(ベテラン議員)といった声が漏れる。

 国会論戦では、官僚が用意した資料に頼らず、自身の言葉で答弁するなど、「官僚の難しい言葉ではなく、自分の言葉で国民に伝えようとすることを心掛けている」とされた。そのためか、「~ねばならない」といった発言を繰り返し、なかなか具体論、結論に踏み込まない答弁が目立ち、「ねばねば構文」「ダラダラ構文」などと皮肉られた。



参院選を見据えて

 立憲民主党などの野党には、先の衆院選に続いて25年夏の参院選でも与党過半数割れに持ち込もうとする狙いが透けてみえる。いま石破政権を追い込むより、「政治とカネ」の問題などをじわじわと追及し、「急がず真綿で首を締めるようにダメージを与えた方がいい」(野党中堅)と踏んでいるようだ。

 自民党にとっても、急いで「石破おろし」に動いても国民には「旧態依然」「党内の権力闘争」と映りかねない。しばらくは世論の風向きと野党の出方を見極め、タイミングを見計らって総裁交代を仕掛けた方が反転攻勢のきっかけをつかめると判断しているようだ。

 石破は12月4日、首相在職日数が65日となり、現行憲法下で最短記録の羽田孜(64日)を超え、2位の石橋湛山(65日)に並んだ。そして9日には69日の宇野宗佑を超え、戦後のワースト3入りは免れた。特に羽田は新生党などの少数与党による連立政権を率いており、似たような境遇にある石破は羽田を超えたことで一定程度の手ごたえを感じたのかもしれない。

 このまま〝不思議な安定〟が続けば、25年5月8日に石破の在職日数は220日となり、芦田均に並ぶ。6月20日に細川護熙の263日、同月23日には鳩山由紀夫の266日に届く。

 しかし、どこまで伸ばせるかは見通せないままだ。臨時国会を乗り切ったとはいえ、年明け1月には通常国会が召集され、すぐに2025年度予算案の審議が始まる。衆院予算委員会の委員長ポストを立憲民主党が握る。議事進行などで大きな権限を持つため、野党ペースの審議となり、石破は難しい局面に立たされることが予想される。それだけに、自民党内では石破の退陣と引き換えに野党の協力を得て予算を成立させるという「予算花道」論も囁かれる。

 それでも石破が見据えるのは参院選だ。12月8日、落選議員らとの懇談会に続いて開かれた各都道府県連の幹事長らとの会合で、「来年(25年)は参院選もある。そんなに時間があるわけではない。厳しい状況の中で、日本国のために我が党地方組織の皆様から厳しい意見と叱責をお願いしたい」と訴えた。森山も「一致結束して来年夏の参院選を何としても勝ち抜き、安定した政治のもとで国民を守り抜いていかないといけない」と強調した。


国際情勢の荒波に

 次期参院選をにらむのであれば、野党側との「熟議」もさることながら、日本国のリーダーとして自らの政治信条に基づく国づくりを進めることが求められる。「103万円の壁」見直しは序章に過ぎず、①賃金・所得の増加に向けた経済成長②物価高への対応③安心・安全の確保─を柱にした総合経済対策の実現が急務だ。

 また、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル実験を繰り返し、ウクライナ戦争に多数の兵士を投入した。中国も台湾周辺などで大規模な軍事演習を続けている。国際情勢が不安定化している中にあって、日米同盟深化や防衛力強化を進めることが欠かせない。

 25年1月に米大統領に就任する共和党のトランプと良好な関係を構築できるかが注目される。石破は11月にトランプとの接触を模索したが、見送られた。トランプは首脳同士の1対1の外交交渉を好むとされる。それだけに、早期に会談を実現させたいところだが、見通しは立っていない。

 国際情勢が混沌とし、取り組むべき課題が山積する中、石破は国家運営の基本軸をしっかりと定め、そこに突き進むリーダーシップを発揮すべきときといえる。(敬称略)

【政界】緊張感が高まる国際情勢の中 自公過半数割れで窮地の石破政権

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