1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

『モノ言う株主』にモノ言う『資格』があるのか? 早稲田大学名誉教授 上村達男

財界オンライン / 2021年8月3日 18時0分

上村達男・早稲田大学名誉教授

株主に対する欧米のスタンスの違い

 ―― 東芝問題をきっかけに改めて、ガバナンスのあり方が問われるようになりました。株主との対話は大事ですが、短期的な利益を追求する一部の株主との対話はどうあるべきか。一方で企業は気候変動のように中長期視点で取り組むべき活動を抱えています。企業と株主との対話をどう考えますか。

 上村 今回の東芝問題を見ていると、マスコミが正義に仕立てているのはアクティビスト(モノ言う株主)の方で、東芝や経済産業省が悪者になっていますよね。

 しかし、私は株主との対話をうんぬんする前に、対話をする資格のある株主なのかどうかを議論する必要があると思います。モノ言う株主と呼ばれる人たちに、モノ言う資格があるのかどうかが問題です。

 欧州で”会社は株主のもの”という時の株主は、個人や市民だという前提がある。これはどういうことかというと、社会の主権者である個人が株主だから株主主権と言うんですね。

 ところが、米国はカネで株式を買ったら主権者になる。つまり、株を買ったらシェアのホルダー(株式を持っている者)というだけで正当な株主であり主権者になれると。カネがあれば必ず株式を買えますので、要は人間達を支配できる根拠はカネだけで良いのです。彼らは商品を作らずサービスを提供せず、従って従業員も消費者もいません。人間がほぼいない法人ですので環境とも関係ないのですね。

 しかも、日本人だらけなのに海外ファンドと呼ばれ、日本人に対して物を言っているのに日本で税金を払わない。しかし、日本のマスコミは何も考えずに彼らの声を資本市場の声とか資本市場の信認とか言って疑わない。呆れています。

 ―― 欧州と米国でそういう違いがあると。

 上村 例えば、英独仏では株主がどういう株主かを確認する制度があって、匿名の株主は相手にしません。海外では株主情報を会社側が要求できる制度があるのが当たり前なのですが、日本にはそれがありません。

 一言でファンドと言っても、出資者がどんな人かなんて分からない。自分がどういう者であるかについてのアイデンティティを開示するということは、諸外国では当たり前です。

 欧州における株主というのは仲間、友達という意味合いが強くて、フランスでは「アソシエ(associé)」、イギリスだと友達、仲間という意味の「カンパニー(company)」ですね。でも、米国はカネがあって株を買えばそれだけで正当な株主ですから人間を支配できるんだと。この発想はもっともカネがある米国が他国を支配できるという一種のイデオロギーなのですが、このところ日本は完全にその発想に染めあげられてしまいました。

 ―― 同じ資本主義国でも、それほど株主に対する考え方や価値観が違う。

 上村 米国に経済学はあっても欧州的な真の法律学があるかは怪しいのですが、もともと欧州の会社制度を規範としてきた日本は、この30年ぐらいで急速に米国の発想に取り込まれ、欧州的な株式会社や株式市場に警戒的な制度のあり方を過剰規制だとして、軒並み規制緩和の対象にしてきました。株主が主役であるという考え方は株主が人間ならそうですが、カネで株式を買えたというだけでは主役足りえないと言わなければならないのですね。本来は。

 日本とドイツには株主平等原則という法理がありますが英米にはありません。ドイツは事前規制がしっかりしているのですが、それを放棄してきた日本で、怪しいモノ言う株主も人間株主も平等だと信じているのです。お人好しにもほどがあると思いますね。

 
【東芝問題】の教訓 問われる経営者の覚悟


 

日本には中長期的な企業法制を議論する場が無い

 ―― 経営は誰のためにあるのかということを含めて、企業とステークホルダーとの関係についてもっと議論が必要です。その辺の基準が曖昧なんですね。

 上村 モノ言う株主ないしパッシブ運用株主というのは、1万分の数秒単位で売買注文を繰り返す超高速取引(HFT)を繰り返している者も多いのですが、日頃は議決権のことなど一瞬も頭をよぎりません。しかし、たまたま名義書換の基準日に株主であると、株主総会招集通知が来ますので、突如議決権に目覚めて真っ当な株主であるかに振舞うのです。

 もともと人間の匂いがほぼしないファンドが超高速取引をしてしかも実質的出資者は不明、匿名というのですから、本来相手にしてはいけないのですね。固有の事業目的があるわけでもないですから、定款の事業目的などはありませんので、会社は株主のものだとか経営者は株主のために経営せよ、という洗脳があればやりたい放題ですね。

 ―― これはステークホルダーとは何か、会社は誰のためにあるかという原点を考えさせられる話ですね。

 上村 今申したような話だと、猛烈にカネを持っているファンドにはさらに集中的にカネが集まることになり、格差社会はますます進行していきます。

 もともと株式会社という制度はフランス革命の時の理念の企業版で、公衆ないし不特定多数の中間市民層が主役の企業形態と目指した制度です。中間市民層の層が厚く、ある程度豊かな中間市民層が存在することが実は民主主義の基盤を提供するという意義を有しています。今進行している超格差社会は、実は民主主義の基盤を崩壊させているのですね。これはある意味で体制の危機だと思っています。

 繰り返しますが、モノ言う株主にモノ言う資格があるのかがまず問題で、とりわけ配当などの財産権はともかく、議決権は企業社会のデモクラシー(民主主義)の問題です。ある種のモノ言う資格にデモクラシーを語る資格があるとは思えないのですね。

 こういうことを言うと、彼らが日本から逃げていったら株価が下がるという人がいるのですが、怪しい株主でも対価を払った以上は配当などの財産権を認めます。ただ、「あなたの意見は聞かない」というだけですので心配する必要はないです。

【経産省】東芝問題で早期の幕引き狙うも説明不足と批判続出

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください