特集2017年6月20日更新

小泉進次郎氏ら提唱の「こども保険」って何?

3月末、小泉進次郎・衆院議員など自民党の若手議員による小委員会が、「こども保険」の創設を提言しました。幼児教育無償化の財源を社会保険料で賄う構想の「こども保険」は、6月9日に閣議決定された「骨太の方針」に盛り込まれた「幼児教育や保育の早期無償化」を実現するための財源確保手段としても注目を集めています。この「こども保険」とは、いったいどんなものなのか。まとめてみました。

「こども保険」とは?

子育て世代を支援する“年金”のような新たな社会保障制度

自民党の若手議員が中心となった小委員会がまとめた「こども保険」構想が3月下旬、報じられた。NHKや日経新聞などの報道によれば、年金、介護、医療と同様に、企業や労働者から社会保険料を上乗せで徴収し、保育や幼児教育の負担を減らすために使う仕組みだという。
従来の公的年金の保険料に上乗せして現役世代から幅広く保険料を集め、それを子育て支援、主に未就学児童の児童手当等に用いる制度のことです。

つまり「こども保険」とは、いま働いている世代(現役世代)が支払った保険料を高齢者に給付する公的年金と似たような社会保障で、給付の対象が子育て世帯になった制度といえます。

「介護保険」に似ているとの声も

こども保険は公的保険で、介護保険と似ています。介護保険は、介護にかかる費用を介護保険料とし、健康保険に上乗せして徴収して、集めた資金で介護サービスの利用料を補助しています。こども保険も同様に、社会保険に上乗せして保険料を徴収し、集めた資金を就学前の子どもがいる家庭に支給するようです

提言したのは「2020年以降の経済財政構想小委員会」

こども保険を提言したのは、自民党の財政再建に関する特命委員会の下に設けられた「2020年以降の経済財政構想小委員会」(以下、小委員会)です。

「2020年以降の経済財政構想小委員会」は、小泉進次郎氏ら若手議員が中心となって組織。社会保障改革について検討を続け、2016年10月には「人生100年型年金の実現」なども提言している。

小委員会で委員長代行を務める小泉進次郎氏のほか、事務局長の村井英樹氏、事務局次長の小林史明氏がメディアなどに対して積極的に発言を行っています。

財源回収方法や給付額は?

まずは「社会保険料を0.1%上乗せ」

当面の案として、企業と働く人から賃金の0.1%ずつの保険料を集め、国民年金の加入者の場合、月160円を徴収するということになっています。「こども保険」によって、およそ3,400億円の財源が確保でき、児童手当に上乗せする場合、子ども1人当たり月5,000円を加算できるということです。

段階的に上乗せ率を0.5%まで引き上げ

さらに保険料率を段階的に0.5%まで引き上げると財源は約1.7兆円にのぼり、加算支給額も2万5千円になり、幼児教育費の実質無償化が実現するというのだ。

具体的には…

例えば、5歳以下の子供が2人いる家庭で、厚生年金に加入している年収400万円の世帯だと月1,200円ほど、国民健康保険の方は830円ほどの負担をいただき、月5万円の支援を受けられることになり、子育て世代には大きなサポートになります。

「こども保険」浮上の背景

安倍政権が推し進める「教育無償化」

「こども保険」導入の一番大きな目的は「幼児教育・保育の無償化」だといいます。そもそも「教育の無償化」は安倍首相が声高に主張していて、憲法改正の“口実”にもなっている現政権の主要なテーマです。

永田町界隈でにわかに注目を集めているテーマがある。教育費の無償化をめぐる議論だ。
きっかけは、1月20日の安倍晋三首相の施政方針演説だった。「どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。誰もが希望すれば高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と、高等教育の無償化に意欲的な発言を行ったのだ。
教育の予算確保を目指す動きが自民党を中心に、にわかに騒がしくなっている。「教育国債」や「こども保険」というアイデアが飛び交い、憲法を改正して教育費無償化を盛り込むとの主張もある。

「教育無償化」最大の論点…財源をどうやって確保するか

「教育無償化」自体は、国の将来のために人材(子供)へ投資して生産性の向上を図るという目的で必要なものとされている一方、近年、財政状況の厳しさが問題視されている中で、「どう財源を確保するのか」という点が最大の論点となっています。
そして、財源の種類は大きく以下の4つに分けられます。

●「教育国債」の発行
●税率(消費税や所得税など)の引き上げ
●歳出(主に人件費)削減で捻出
●社会保険料の上乗せ(→こども保険)

この4つの財源案にはそれぞれ一長一短があり、議論が白熱しているというわけです。
また、「教育無償化」そのものにも論点は多く、無償化するのは「幼児教育が先か、高等教育が先か?」や、自民党内やその背後の利害などが錯綜している状況だといいます。

「教育国債」への対案として浮上した「こども保険」

自民党内では、「こども保険」が出る前、「教育国債」を高等教育無償化につなげる提案もなされていた。しかし、国債の発行は次世代への負担の先送りにすぎないことから党内でも異論が噴出し、教育財源を保険料から徴収するという「こども保険」が浮上してきたようだ。

「教育国債」は下村氏が推める案

「教育国債」の発行は、元文部科学大臣の下村博文氏が主導して検討している財源確保案です。

自民党の下村博文・元文部科学相は「建設国債よりも乗数効果は高い。先行投資することに意味がある」とし、「建設国債の教育版」と位置づけている。
「教育国債」は大学などの高等教育の無償化に必要な財源を国債発行で賄うというものである。これまでも、教育予算を含む経常的経費のために国債は発行されており、これは赤字国債と呼ばれている。

教育国債には反対意見が多い情勢

ただ、教育国債は「未来へのツケ回し」だとして自民党内からも反対意見が出ています。

「教育国債は未来への投資ではなく、未来へのツケ回し。消費税も実現に何年かかるのか。現実的ではない。少子化対策は待ったなしだ」(小泉氏)
小泉氏は「教育国債の発行というのは案になっていない」と明確に反論する。理由はこうだ。
「2019年に消費税が10%に増税された場合、その一部は赤字国債の償還に充てられることになっています。赤字国債を償還するために増税をする一方で、新しい国債を発行することの整合性を、どう説明するのか」
教育国債について麻生太郎財務相は「親の世代が子どもに借金をまわすものだ。極めて慎重にやらないといけない」と否定的である。

「こども保険」が議論の主役に

小委員会が「こども保険」を提言する直前の3月21日に配信されてきた以下の記事では、教育無償化の財源として「教育国債が最有力候補」とされていましたが、情勢が一気に変わってきているようです。

諮問会議と並行して、自民党も「人生100年時代の制度設計特命委員会」の初会合を4月13日に開き、議論を始めた。
特命委の委員長を務める茂木敏充・政調会長は教育国債に否定的な立場で、こども保険について重点的に議論するとしている。赤字国債を嫌う財務省の主張にも沿い、一躍、教育財源論議の主役に躍り出た感がある。

また、6月9日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」でも、こども保険が教育国債に対してリードしたようです。

無償化の財源確保について、原案には「こども保険、税制改正などによる恒久的な財源の確保の取り組みを進める」と明記する。
(中略)
教育国債は「教育投資の一環の財源として検討」と記すにとどめた。将来世代にツケを回すという麻生財務相ら財政再建派の批判に配慮した。

最大の目的は「少子化対策」

こども保険導入による将来的な目標は「幼児教育の無償化」であり、それによって少子化に歯止めをかけることを目的にしているといいます。こども保険を提言した小委員会の中心人物で事務局次長を務める小林史明議員は、こども保険の狙いについて次のように述べています。

私たちがこの案を提案した狙いは、異次元の少子化対策により人口減少に歯止めをかけるためです。
このまま現在の出生率が改善せず、日本の人口構造を変えることができなければ、年金・医療など社会保障制度はもちろん、日本社会を存続することはできません。

そもそも議論のスタートが少子化対策

また、小委員会で事務局長を務める村井英樹議員もインタビューで次のように語っています。

――給付面では高等教育(大学)の無償化を唱えるグループもいますが、みなさんは就学前教育の無償化を打ち出しましたね。

村井英樹(以下、村井):われわれはまず少子化対策をどうするかから議論をスタートしている。子どもを産んで育てることのボトルネックを小さくするため、若者世代の精神的、時間的、資金的余裕を確保していく必要がある。

また小林議員は、「核家族化の進展」「地域力の低下」「若い世代の収入減」という日本の社会環境の変化を背景に子育てへの負担が大きくなってきていると指摘。この子育て世帯の負担を軽減するのが「こども保険」だといいます。

「全世代型社会保険」の第一歩

小委員会が示した提言では、「年金、医療、介護には社会保険があるが、喫緊の課題である子育てに社会保険がない」として、こども保険を「全世代型社会保険」の第一歩として創設する、としています。

公的年金などの社会保険料に上乗せして保険料を集め、子育て世帯への給付に充てる「こども保険」を今の社会保障制度が高齢者偏重ではないかという問題をも含め、「全世代型社会保険」の第一歩としたいという思いもあります。

「こども保険」実現に向けた問題点

賛成派は約2割

しらべぇ編集部が行った調査では、「こども保険に賛成」は22.5%という結果に。

賛成の割合は、女性19.5%に対して、男性は25.5%。20代男性では賛成が3割なのに対して、子育てがひと段落する方も増える4、50代女性ではかなり低い支持率となりました。

小委員会による「こども保険」の提言に対して現在、賛否両論が巻き起こっています。ここからは、それらを見ていきましょう。

賛成意見…「少子化問題の解決策に一石を投じた」

「賛否両論」とは言ったものの、こういった場合、賛成の声より否定や疑問を呈する声のほうが目立つものです。それら否定的な意見を見ていく前に、賛成派の意見を紹介しておきます。
まずは、新井佑介税理士の意見です。

「今回の『こども保険』構想は、少子化問題の解決策に一石を投じることで議論を深化させたという点において評価しています。低所得世帯の子どもが十分な教育を受けられない『貧困の連鎖』を私たちの世代で解決することについては大賛成です。以前より議論されている将来世代への負担の先送りである『教育国債』構想よりはだいぶマシではないでしょうか」

ただ、新井税理士は全面的に賛成というわけではなく、後述するような懸念も抱いています。

新聞では好意的な報道も

マスコミでも、こども保険に好意的な報道も目立つ。社説(産経は主張)で取り上げた全国紙4紙は、教育国債には「費用を教育国債で調達するなら問題だ。国の借金が増え、本来なら現役世代がすべき負担を次世代に押しつけてしまう」(日経4月7日)など、反対・慎重で足並みをそろえる一方、こども保険については、提言の内容のままの実現には疑問視しつつ、「子供・子育て分野に特化した財源を確保する。社会全体で負担を分かち合う。提言の基本的な考え方自体は妥当である」(読売4月11日)と評価し、「子どもの貧困を解消し、出生率を改善するには、高齢者に偏ってきた社会保障給付を抜本的に変える必要がある。『こども保険』を子育て支援の論議の弾みにすべきだ」(毎日4月15日)と、議論の起爆剤として期待する書きぶりが多い。

最大の異論「子供がいない家庭にはメリットがない」

こども保険の提言が発表されてから出てきた意見で一番目立つのは、「子供(未就学児)がいない家庭にはメリットがないのでは?」というものです。小林議員が公式サイトで公開している「よくある質問への回答(FAQ)」でも、一番上に「なぜ保険料を負担しなければならないのか。不公平ではないか」という問いがきています。
この点について、小泉議員は次のように述べています。

子どもを持っているか持っていないかにかかわらず、このままの人口構成で日本が進んでいくと、将来のすべての人の年金、医療・介護を支える人がいなくなる。社会保障全体の持続可能性が失われかねない。そのリスクを減らすために、社会保障をみんなで支えなければならない。子どもが多く生まれることで、社会保障制度が強固になる。社会全体で子育てを支えることは社会全体の強さにもつながるということを理解してもらいたい。

また、小林議員は次のように述べています。

この制度に対しては、子供のいない方や子供を持つつもりがないという方から、「不公平だ」という意見をいただきました。
私たちが『こども保険』を提案した背景に、まさにこの点をみんなで考える機会にしたいという思いがあります。
(中略)
私たちはこうした背景をもとに、「社会全体で子育てを支える」という意識をみんなで共有しながらこれからの未来を歩んでいきたい、と考えて『こども保険』を提案しました。

FAQの回答も総合して非常に簡単にまとめると、国民全員にとって「子は宝」というところでしょうか。

「保険」ではなく「税」ではないのか

次に目立つ意見が、こども保険は「保険」と言いつつ「税」じゃないのか、というものです。
前述の新井税理士は次のように語っています。

税理士としての立場からは、『こども保険』構想について違和感を感じるのも事実です。まず『こども保険』は、端的にいうと社会保険として(一定の高齢者を除いた)国民全体より徴収したお金を子育て世代に再分配する仕組みです。この再分配が給付という形で実施されればバラマキにもなりかねませんね。
私が違和感を感じたのは、この所得の再分配こそ『税』のもつ機能だからです。所得の再分配は『保険』のもつ本来的な機能ではありません。

テレビなどでおなじみの経済ジャーナリスト、荻原博子氏も同様に疑問を呈しています。

根本には『社会全体で子どもを育てる』という考え方があるようですが、それ自体に異論はありません。しかし、『社会全体で』というなら国民全員が負担する税金でまかなうのが本筋でしょう。

社会保険と税金の違い

社会保険は病気や老後生活というリスクに備えて掛け金を出し合う制度で、税で賄われる児童手当などとは理念が異なる。保険方式は税金を納めない低所得層も一定程度負担する一方、高額所得者の保険料でも所得税ほど累進性がないので比較的負担が軽くなる。逆進性でいえば、消費税も低所得者ほど負担率が高くなるという点で共通する面がある。

官僚組織の肥大化を懸念する声も

経済評論家の山崎元氏は、「保険」にすることで官僚組織の肥大化や役所の権益争いが起きるのではと指摘しています。

そもそも教育財源に社会保険はそぐわない。国民から新たな保険料を徴収して基金をつくれば、厚労省などに基金を管理する部署や人員が必要になり、官僚組織の肥大化を招く。文科省も教育はうちの所管だと主張して役所の権益争いも起きるでしょう。

「税」ではなく「保険」にする理由

「増税」は忌避するが「社会保険料の引き上げ」はOK?

前出の荻原氏は「増税は世論の反発が大きいので、社会保険なら実現しやすいと考えたのでは」という見方を示し、下の東洋経済オンラインの記事でも「国民は増税を忌避する気持ちが強いのに対し、毎年の社会保険料の引き上げについては是認する傾向がある点にも着目したといえる」と言及しています。

確かに、保険料という形でなく所得税として負担を求めるという考え方なら、この保険か否かの議論は避けられる。しかし、増税よりは毎年の社会保険料の引き上げのほうを是認する国民が多いということに鑑みた政治的な判断があるのかもしれない。現にこの十年来、所得税はほとんど増税していないが、毎年のように保険料率は平均して0.2%ほど引き上げられ続けている。

「税」の場合の問題点

「増税は忌避する」という点のほかにも「税」にすることには問題があるようです。
新井税理士は次のように語っています。

以前から、税方式による子育て支援構想は、消費税の一部をあてることが検討されています。しかし負担と給付の関係が明確でない点や経済への影響もあり、納税者である国民の理解が得られづらい状況が続いています。
ほかにも、16歳未満の子どもを扶養している場合に、税の軽減が受けられる『年少扶養』制度を復活させようという声もあります。しかし、この制度は、高額所得者ほど軽減額が大きくなる逆進性があり問題点もあります。

「税」は使途が不明瞭という点は、いくつかの記事でも指摘されています。
こども保険のFAQでも「保険と言いつつ、結局は増税と同じではないか」という問いに対し、こども保険は「全額が子育て支援に回るため、使途が明確である」として、使途が見えにくい「税」との違いを強調しています。

まだまだある異論や問題点

経団連も問題点を指摘

4月27日には日本経済団体連合会(経団連)が「子育て支援策などの財源に関する基本的な考え方」を発表し、「こども保険」や「教育国債」について問題点を指摘しました。

子育て支援策や人材育成は一体的な政策パッケージとして強力に推進することが望ましいとしたうえで、「世代間の公平性の問題」「世代内の公平性の問題」「使途の問題」をあげている。年金保険料を支払う現役世代と事業主に対してのみ負担が求められ、高齢者や専業主婦(夫)、年金保険の未加入者・保険料未納者は負担しないため、社会全体で支える仕組みになっていないと指摘する。

橋下徹氏「詐欺保険商品」「最悪の政策」

前大阪市長の橋下徹氏は、就学前の子供の保育料・幼稚園料を無料にするには国が法律を作れば済む話とし、加えて待機児童問題のような保育所や幼稚園の問題は市町村が責任を負うべきで国が扱うのはおかしいとして、こども保険に「大反対」の姿勢を示しています。

橋下氏は別の記事でも、こども保険は「詐欺保険商品」「最悪の政策」と厳しく指摘しつつ、対案として「相続税や資産税の強化」を挙げています。

「少子化対策に繋がらないのでは?」

心理カウンセラーのつだつよし氏は、「どうも幼児教育の無償化は少子化対策に繋がらない気がします」として、こども保険に「反対」の立場を示しています。
少子化対策に繋がらない理由として、「幼児時期の教育費ではなく、その後の義務教育以降の教育費のほうが現実的には心配」「今 一番問題なのは待機児童問題では?」「もっと結婚に対し前向きになれるような制度からスタートしないと」といった点を挙げています。

「こども保険に騙されるな」

元国税調査官で評論家の大村大次郎氏は、こども保険が「年金、医療、介護には社会保険があるが、子育てには社会保険がない」という前提のもとで提言されたことに対し、「子供子育て拠出金」の存在を挙げて、この前提は「大嘘」で「騙されるな」と強めの口調で指摘しています。


少子高齢化が進む我が国の未来を担う子供たち、そして子育て世代を国民全体で支える仕組みの構築は急務とされています。そんな中、「幼児教育・保育の無償化」を実現する財源として急浮上してきた「こども保険」は、上で示したようにいくつかの問題を抱えてはいますが、まだ検討・構想の段階でもあります。私たちも「国民全体で支える」覚悟を固めつつ、これからの議論で「こども保険」がブラッシュアップされていくことに期待したいところです。