ファストフードも参戦! 今「ちょい飲み」が熱い

2018年4月6日更新

居酒屋などでがっつり飲むのではなく、食事と一緒にちょっと飲む「ちょい飲み」。今、この需要をターゲットにしたサービスを展開する外食チェーンが増えています。そこで今回は、「ちょい飲み」市場が拡大している流れや理由に触れるとともに、各チェーンのちょい飲みサービスをまとめてみました。

外食チェーンが続々参入する「ちょい飲み」とは

「食事+ちょっとお酒」を楽しむ

外食チェーンが展開する「ちょい飲み」というサービスが定着しつつある。
これは、お酒やおつまみのメニューを充実させることで、「食事+ちょっとお酒」を楽しんでもらうものだ。先駆者として市場を開拓したのは中華料理チェーンの日高屋で、すかいらーくグループはジョナサン、バーミヤンなど全業態で戦略的に推進している。

財布に優しい価格設定

庶民の居場所として脚光を浴びてきたのが「ちょい飲み」。居酒屋やバーでがっつり飲むのではなく、食事とともにちょっと飲むという需要だ。当然財布にも優しい価格設定であることはいうまでもない。
ブームの火付け役となったのが、牛丼チェーンの吉野家が展開する「吉呑み」だ。吉野家は2013年7月、神田店の2階をテーブル席に改装して、ビールや焼酎などの酒類とおつまみメニューを手頃な価格で提供した。

有力ヒットランキングに2年連続で選ばれた希少なヒット商品

実は有力ヒット商品ランキングに、2年連続で選ばれるという非常に希少なヒット商品なのだ。情報誌「日経トレンディ」(日経BP社)が発表した2015年の「ヒット商品ベスト30」では「アップルウォッチ」「ペッパー」「おにぎらず」などを上回り、7位にランクインした。さらにその前年の14年にも「日経MJ ヒット商品番付2014」で、「NISA」「ふるさと納税」「富岡製糸場」などと並び「前頭」にランキングされていたのだ。これだけヒットが長く続く事例は珍しい。

ヒットの要因は「気軽さ」と「リスク回避」か

ちょい飲みの特徴としては、時間が「1時間以内」が94%、金額が「1,000円以内」が84%、人数は「1人」が19%、「2人」が40%です。「気軽さ」がキーワードといえるでしょう。そして、ちょい飲みをしたいと答えた人は85%にもなります。
ちょい飲みする理由として、しばしば「安さ」があげられるが、重要なのは「金額が低い」だけでなく「高くつく不安がない」ことなのだ。
ちょい飲みが選ばれる他の理由である「気軽さ」「一定の味レベル」も、そのチェーン店を知っていたり入ったことがあるからこそ感じることだ。「未知」でない安心感が「リスク回避」につながり、それがちょい飲みのヒットにつながっているのだ。

「ちょい飲み」市場を開拓した代表的な外食チェーン

ちょい飲み市場の先駆者「日高屋」

早くからアルコール類の売り上げ増に取り組んできた日高屋は「ちょい飲み」チェーンの先駆者的存在とされる。
一般的に中華店の売り上げにおけるアルコールの比率は3%ほどとされるが、日高屋ではなんと約15%。「早くからつまみメニューの拡充に取り組んできた結果」(日高屋関係者)だという。
利益率が高いアルコールの売り上げが伸びれば、メニュー全体の値下げが可能となり、さらなる集客につながる。

アルコール類の売上はラーメン店としては異例の高さ

運営するハイデイ日高の2017年2月期決算は、売上高は前年比4.7%増の385億円、営業利益は5.3%増の45億円です。増収増益です。アルコール類が好調に推移したことが業績に貢献したといいます。
日高屋のアルコール比率は15%程度とみられ、ラーメン店としては異例の高さです。店舗の95%程度が駅前の繁華街に立地するといい、ビジネスパーソンのアルコール需要を取り込むことができています。

ちょい飲み市場の火付け役「吉野家」

「吉呑み」を2013年7月から展開

吉野家は、一部店舗の2階を居酒屋風に改装して「ちょい飲み」スペースとする「吉呑み」の展開を2013年7月より始め、1年後には同社広報が「あまりに好調で店舗は取材対応不可」と語るほどの人気となりました。

「吉呑み」検証店舗では宣伝なしで夜間の売上4割アップ

吉野家の広報担当、吉村康仙氏がこう説明する。
「吉野家の店舗の中には、昼は席が埋まるものの、夜は客足が止まり2階フロアを閉めざるを得ない店も少なくありません。この2階の遊休スペースを活性化させるために着目したのが“ちょい飲み”市場。
昨年7月にそれまで赤字が続いていたJR神田駅店で吉呑み1号店をオープンし、1年かけてその収益性を検証しました。
吉呑み併設後は客足が予想以上に伸び、夜間の売り上げが約4割アップ。相当な幅で赤字から黒字に転換できました」

16年には営業店舗を大幅拡大 17年2月期は増収増益

吉野家は、ちょい飲みができる「吉呑み」の営業店舗を昨年5月に大幅に拡大しました。そのことが業績に貢献したといいます。
運営する吉野家ホールディングスの2017年2月期の決算は、売上高は前年比1.6%増の1,886億円、本業の儲けを示す営業利益は15.6%増の18億円です。増収増益です。

ファミレス業界でいち早くちょい飲み市場に参戦「すかいらーくグループ」

「ハッピーアワー」を導入して業績を上げる

運営するガストでは、ちょい飲み需要を取り込むために、平日の15時~18時でビールは税抜き449円から同249円に割り引く「ハッピーアワー」を導入しています。
運営するバーミヤンでも、平日の14時~18時でビールは税抜き450円から同200円に割り引く「ハッピーアワー」を導入しています。
すかいらーくの2016年12月期決算は、売上高は前年比1.0%増の3,545億円、営業利益は12.4%増の312億円です。増収増益です。ちょい飲みが好調な業績を支える一翼を担ったといえるでしょう。

「ハッピーアワー」を導入しているすかいらーくグループのブランド

ちょい飲み人気による居酒屋への影響

居酒屋の「アルコールあり」食機会数が大きく減少

一方でラーメン・餃子店は大幅増

エヌピーディー・ジャパンが提供する外食・中食市場情報サービス「CREST」が2016年10月に公表したレポートによると、外食・中食市場全体における「アルコールあり」食機会数が減少する中、ラーメン・餃子店やファミレスは増加となっています。

かつてお酒を飲む場所といえば居酒屋でしたが、その食機会数は年々減っており、直近1年間でも-8%と大きく減少しています。一方で、「ちょい飲み」需要をうまく取り込んで客数を伸ばしている業態もあります。ラーメン・餃子店は、生ビール中ジョッキ310円という低価格で「ちょい飲み」を定番づけた先駆者「日高屋」が最高益を更新するなど、図表1でも+37%と大幅増となっています。ただ、客単価は300円近く減少しており、より低価格の「ちょい飲み」客が多くなっていることが分かります。

“ちょっと高め”層の居酒屋離れが深刻

同じレポートの客単価別の食機会数成長率を見てみると…

居酒屋全体では8.4%食機会数が減っているのに対し、1,999円以下の客単価層は6.6%減と居酒屋全体と比べると減少幅が小さいことが分かります。居酒屋でも「ちょい飲み」需要を取り込めているといえるのが、この客単価の層といえそうです。
一方で、4,000-5,999円は-16.1%と大幅に減少しています。4,000-5,999円は20%近くのシェア(特典データ)を占めており、“ちょっと高め”層の居酒屋離れは深刻といえます。

このように低価格路線へ移行しないで苦戦する店舗がある一方、「ちょい飲み」に匹敵する営業方針によって売上を伸ばしているチェーンもあります。

英国風パブ HUB

英国パブをモデルにした「HUB」は、コア顧客と設定する20~30代前半の若い客層を順調に取り込んでいる。
HUBは新宿や渋谷など首都圏ターミナル駅近くの繁華街を中心に、全国で100店舗超を構える。既存店売上高は、前2017年2月期まで7期連続で前期超えだった。

低価格と豊富なドリンクメニューで勝負

HUBは低価格のドリンクメニューを武器に、集客重視の戦略を貫く。客単価は年々下がっており、目下1500円前後にすぎない。ドリンクとフードの売上高比率は80対20と、圧倒的にドリンクのほうが高い。
実際にHUBの店頭に足を運ぶと、ドリンクメニューの豊富さに気づく。アルコール度数の高い商品から低い商品まで、実に80品目ものドリンクメニューがそろっている。かつ、ジントニック、ウイスキー、ワインなどそれぞれの種類で、390円(税込み)の低価格商品が並ぶ。

「ちょい飲み」時代が創業者の経営方針に追いついた

ハブの創業者はダイエーの創業者でもある中内㓛氏だ。1980年にHUB1号店を神戸・三宮に出店し、その後も複数店を開業したが、業績が伸びず1986年に事業を清算。六本木店や渋谷店など黒字店舗のみ残して事業を続けた。
中内氏の方針は明確だった。「HUBを居酒屋にしてはいけない」「週刊誌を買うようなリーズナブルな価格で提供する」。目下、HUBは独自路線をひた走るが、それは「中内氏が唱えた方針を愚直に守っている」からと、IR担当者は強調する。

サイゼリヤ

コスパの良さとちょい飲みブームが追い風になり業績好調

2017年8月期第3四半期(16年9月〜17年5月)の連結決算は、売上高が前年比1.2%増の1089億円、本業の儲けを示す営業利益は同34.8%増の80億円となった。業績は好調に推移している。
サイゼリヤはコストパフォーマンスが高い飲食店として有名だ。
「ちょい飲みブーム」も追い風になっている。サイゼリヤはアルコール類も豊富で、しかも安い。たとえば、グラスワインは100円だ。デカンタで頼んでも、250mlで200円、500mlで399円となっている。

実は決死の覚悟だった低価格設定

1973年にサイゼリヤの経営を開始したが、路面店ではなく建物の2階での営業ということもあり、客はまったく来なかったという。
どうやったら客に来店してもらえるのかを必死に考え、とりあえずメニューの価格を5割引にしたが、それでも客はほとんど来なかった。そこで決死の覚悟で7割引にしたところ、客が大挙して来店したという。それまで客数は1日20人程度だったが、一挙に600〜800人まで増えたという(『サイゼリヤ 美味しいから売れるのではない 売れているのが美味しい料理だ』<正垣泰彦/日本経済新聞出版社>より)

サイゼリヤ版ちょい飲み「サイゼ飲み」

最近は、「サイゼ飲み」という言葉まで広まっている。サイゼリヤでは一般的な居酒屋よりも安く飲むことができるとして人気が高まっている。たとえば、ミラノ風ドリアとペペロンチーノ、グラスワイン4杯を注文しても1000円でお釣りがくる。多くの店舗が昼から深夜まで営業しているため、昼から飲んでいる酒好きの姿も見受けられる。
いまや、サイゼリヤは居酒屋を代替できる存在となっている。「お通し」はなく、1人でも気軽に利用できる雰囲気がある。アルコール類は、ワインのほかにビールもあり、ほうれん草のソテー(199円)といったおつまみも充実している。

「昼飲み」「夕方飲み」の主婦に人気

ワインに力を入れているというサイゼリヤは、ハッピーアワーこそないものの、グラスワインが1杯税込み100円だ。プロシュートやエスカルゴのオーブン焼き、フレッシュチーズとトマトのサラダなど小皿料理が400円以下でつまめるのもうれしい。
ちなみに、サイゼリヤの決算が、売上高も経常利益も右肩上がりなのは、私たち「ハッピーアワー大好き女子」の後押しも影響しているのではないだろうか。

ちょい飲み市場に参入している外食チェーン

すき家

「呑みすき」を実験中

2016年。外食産業の雄であるすき家がちょい飲み需要取り込みの実験を開始した。その名も「呑みすき」。まだ実験中のため、ほとんどお目にかからないかも知れない。
呑みすきで特筆すべきメニューが、バッファローチキン(5本220円)。フライヤー設置のすき家ならではの商品。単体でも揚げたてで美味しい。ますますビールが進む味わいである。ひとつのサイズが小さいので、一人で10本注文しても大丈夫と思われる。枝豆(1皿150円)は冷たかったが、牛すじ煮込み(1皿300円)は温かく美味しい仕上がり。

実験中のため店舗によってメニューなどは異なる

三田店は店舗の2階スペースを呑みすきとして設定。訪問時は女性客の姿も見られた。2階ということで人目に触れないからかも知れない。また同店舗2階には喫煙スペースも完備されており、アルコール飲料だけでなく、喫煙する人にも選ばれる店舗のひとつだろう。
高輪3丁目店は、1階で呑みすきを展開している。通常店舗と共有して展開しているため、キッチンから温かい料理が運ばれてくる。
こちらの店舗では、家族連れだけでなく女性一人客の姿も見られた。飲みだけでなく食事のメニューも多いため、食事メインとしての使われ方も多いと見受けられる。同店舗は駅前立地ではないため、会社員が帰りに寄ってというよりは、目的を持って訪れる店舗という位置付けだ。

ファーストキッチン/ファーストキッチン・ウェンディーズ

3月15日から「¥300アルコールメニュー」を販売

3月15日から「¥300アルコールメニュー」というおつまみメニューを販売している。ソーセージやチキン竜田を300円(税込み、以下同)で提供する。同社広報は「お酒が飲める場所にしたい。当社にとってもチャレンジだ」と説明する。
もともと、ファーストキッチンで扱っているアルコールは缶ビールだけだった。ちょい飲みブームが広がったこともあり、17年からワインやハイボールも提供するようになった。さらに、17年12月に販売したアルコールとおつまみ1品のセット「大人の得セット」(500円)が好評だったため、おつまみを強化することになった。「アルコールを本格的に提供するようになってから午後5時以降の売り上げは伸びている」(同社広報)。また、主な利用者としては「店舗の立地にもよるが、当社の顧客の6割強は女性。OLの方が1人で来店して食事をしながらお酒を飲むケースが多い」と説明する。

モスバーガー

昨年6月より「モスバル」をスタート

午前10時30分から缶ビールを提供する。ハンバーガーとポテトのセットにプラス140円でビールに変更できる。午後3時からはチリポテトやグリルドソーセージといったおつまみを290円で提供する。
もともと実験的に数店舗でアルコールを販売していたが、利用者の多様なニーズに応えるために本格的にサービスを開始したという。店舗立地や客層によってはアルコールのニーズがあると判断したためだ。平日は30~40代の女性会社員、休日は家族連れで来店した父親が1杯飲むというパターンが多い。

フレッシュネスバーガー

2015年1月より「FRESHNESS BAR(フレバル)」を試験的に開始

15年1月から「FRESHNESS BAR(フレバル)」というちょい飲みサービスを試験的に開始した。午後4時以降に300~500円代のおつまみを中心に提供する。現在では全168店のうち50店弱に導入している。主に、20~30代の女性会社員や30~50代の男性会社員が利用している。フレッシュネスの広報担当者は「フレバル導入により、新しいお客様が増えた。売り上げが好調に推移しているので、今後も拡大する予定だ」と説明する。

なか卯

「呑み卯」を一部店舗で実施中

昼間はなか卯として通常営業を行ない、17時以降に2階席を居酒屋業態に変えるもの
190円と280円メニューが中心と良心的価格。また、なか卯といえば、カツ丼などコクのある卵を使ったメニューのファンも多いが、そんなこだわり卵を使った「カツとじ皿」(490円)と「牛とじ皿」(440円)もあり。

松屋

生ビール小ジョッキを180円で提供

松屋には吉野家やすき家のように名前を付けたちょい飲みサービスはないものの、一部店舗では生ビールとハイボールを小ジョッキでそれぞれ180円、150円というリーズナブルな価格で提供し、ちょい飲み需要に対応しています。

プレミアム牛めしなどで人気の「松屋」では、もともとメニューにある生ビールを気軽に飲めると評判に。旨味たっぷりでジューシーなカルビや豚バラの焼肉皿など、肉のおかずと、ちょい飲みサイズの生小で一杯!
■ちょい飲みメニュー:「瓶ビール」(480円)、「プレミアム牛皿(並)」(300円)、「豚バラ焼肉定食(単品)」(350円)、「プラスソーセージ半熟玉子」(110円)、「ポテト」(50円)、「キムチ」(80円)、「お新香」(80円)など

山田うどん

「ちょい飲み」の店としても人気 「山田飲み」なる言葉も

うどん屋だが、餃子やモツ煮込み(山田ではパンチと呼ぶ)など、100種類以上のメニューがあり、「ちょい飲み」の店としても人気。
「埼玉のソウルフードとしてファンも多い山田うどんは、以前から主力のうどんの他に野菜炒めやさば味噌煮、パンチと呼ばれるもつ煮込みなど、お酒によく合うサイドメニューが充実していて、ちょい飲みに適した業態でした」(前出・中村氏)
地元店舗では家着で集合してちょい飲みする「山田飲み」も普通の光景だという

ちょい飲みに最適と言われる名物「パンチ」

山田うどんには定食やサイドメニューで提供される「パンチ」なる名物が存在する。要するに「もつ煮込み」だ。かつてはタダ同然だった豚のもつを、こんにゃくやメンマと一緒に、甘めのしょうゆベースで煮込んだものだ。