特集2017年5月1日更新
民間防衛~もしミサイルが飛んできたら?~自分の身は自分で守る時代
最近、「民間防衛」という言葉をよく聞くようになりました。民間防衛とは「自己防衛」、つまり自分の身を自分で守ることです。北朝鮮のミサイル問題に対して、政府が説明会を開くなど、その危険性はもはや「他人事」ではなく、現実味を帯びてきています。もし本当にミサイルが飛んできたら、どう対処すべきなのか?最初にする行動は?また、テロや大災害など、何かが起きた時に「まず自分でできること」を覚えておきましょう。
民間防衛とは?
北朝鮮ミサイル問題で関心高まる
「民間防衛」とは、武力攻撃(戦争)や自然災害などの緊急事態において、軍隊や警察、消防といった公共の組織に頼る以前に民間人によって自己防衛をすることです。自然災害が多い日本においては災害に対する対策は「防災」として独立しているため、日本における「民間防衛」は武力攻撃やテロの脅威に対する措置「国民保護」とほぼイコールとなります。
北朝鮮のミサイル発射や核実験、それに対するアメリカの動向など北朝鮮情勢の緊張が高まる中、政府が開設している「国民保護ポータルサイト」へのアクセス数が急増するなど、民間防衛や国民保護に対する関心が日々高まっています。
“民間防衛先進国”スイス
永世中立を堅持するスイスでは、1969年に政府が冊子「民間防衛」を各家庭に無償で配布し、国民に民間防衛意識を高めるよう促した歴史があります。この冊子は、食料の備蓄から核兵器や化学兵器への対策にとどまらず、敵国に占領された後のレジスタンス活動の方法まで、戦争に対する準備や心構えなどについて多岐に渡って詳しく解説している内容の濃い一冊です。
日本でもこの冊子の翻訳版が発売されていて、北朝鮮情勢の緊迫化を受けてか、現在、楽天ブックスのランキングでもじわじわと上昇しています。
東京都の「東京防災」
各家庭に無償で配布といえば、2015年に東京都内の家庭に配布された防災ブック「東京防災」を思い出します。
「東京防災」は、2015年に都民に無償配布された防災ブック。地震や気象災害、感染症といった災害への対策が、約300ページにわたりまとめられている。災害発生時の安全確保や応急手当、避難所での過ごし方などを、イラストも交えながら詳述した内容は、インターネット上で話題を呼んだ。
この「東京防災」は、やはり日本らしく自然災害に対する記述が主ですが、「テロ・武装攻撃」への対処方法も紹介していて、「爆発が起こったら」「ミサイル攻撃からの避難」「核爆発や放射能汚染からの避難」といった項目に分け、それぞれ親しみやすいイラストとともに対処法が掲載されています。
「テロ・武装攻撃」の項目はわずか4ページながら、ほかのページで緊急のけが人の応急手当や水周りの衛生の保ち方、消火栓の使い方、単三電池を単二に変える方法など、自然災害時だけでなく有事のサバイバルでも役立ちそうなテクニックも紹介されていて、非常にためになる本です。
東京都民でなくとも入手が可能で、いくつかの書店にて140円で販売されているほか、無料でダウンロードできるPDFもあります。PDF版は、あらかじめスマホやタブレットにダウンロードしておけば、緊急時にもネットに接続せずに読むことができます。
ちなみに「テロ・武力攻撃」は、下記PDFの12~13ページ目(冊子上では164~167ページ)に掲載されています。
こんな危険にはどう対処?
民間防衛や国民保護のあらましがわかったところで、ここからは「国民保護ポータルサイト」で紹介されている内容を中心に、危険が差し迫った際に「どう行動すべきか」をまとめていきましょう。
ミサイルが飛んできたら…
「Jアラート」を通じて一斉に警報
日本では、武力攻撃や地震・津波などが発生した際に避難が必要な地域に向けてすぐに危険を知らせる「全国瞬時警報システム」、通称「Jアラート」と呼ばれるシステムが2007年から展開されています。
たとえばミサイルやゲリラ部隊の上陸、大規模なテロなどが発生した際、情報はこのJアラートで、内閣官房から消防庁の中央システムに送られ、自治体や携帯電話会社などに発信される。その内容は緊急速報メールやケーブルテレビ、防災行政無線などを通じて、自動的に私たちに届けられることとなる。
このJアラートについて国民保護ポータルサイトでは、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合には「24時間いつでも」Jアラートを使用して緊急情報を伝達するとしています。
北朝鮮が予告することなく弾道ミサイルを発射した場合には、政府としても、事前にお知らせすることなく、 Jアラートを使用することになります。
Jアラートを使用すると、市町村の防災行政無線等が自動的に起動し、屋外スピーカー等から警報が流れるほか、携帯電話にエリアメール・ 緊急速報メールが配信されます(※3)。なお、Jアラートによる情報伝達は、国民保護に係る警報のサイレン音を使用し、弾道ミサイルに注意が必要な地域の方に、 幅広く行います。
Jアラートは携帯電話でも受信できる?
いわゆる3大キャリアは、2014年4月以降Jアラートをサポートしています。呼び名はNTTドコモが「緊急速報『エリアメール』」、au/KDDIとソフトバンクが「緊急速報メール」と異なりますが、内閣官房/気象庁が通信キャリアを通じてエンドユーザへ直接送信するシステム(ETWS、Earthquake and Tsunami Warning System)は同じです。
これまで地震や津波、気象情報や土砂災害情報が受信できたという人は安心してよさそう。また、MVNOや海外端末用に各社がアプリを提供しているので、確認してみるといいでしょう。
「国民保護に係る警報のサイレン音」とは
国民保護サイレンは、ミサイルを含む武力攻撃に対して使用される。「武力攻撃が迫り、又は現に武力攻撃が発生したと認められる地域」に対し、防災無線から流されるもので、Jアラート誕生にさかのぼる2005年に決められた。
このサイレン音は、国民保護ポータルサイトや下の動画で聞くことができます。
「どんな音か」を知っていないと、いざという時の対処行動が遅れることになるので、一度聞いておいたほうがいいと思います。パトカーや救急車のサイレン音とはまた違う、不気味な不協和音を耳に刻み込んでおきましょう。
国民保護サイレンが聞こえたら…
国民保護ポータルサイトによると、ミサイルが日本に落下する可能性がある場合は防災行政無線でサイレン音とともにメッセージを流すほか、緊急速報メールなどでも緊急情報を知らせるとのこと。
そして、これらのサイレンやメッセージが流れたら、「直ちに以下の行動をとってください」としています。
近くのできるだけ頑丈な建物や地下街などに避難する
【近くに適当な建物がない場合】
物陰に身を隠すか地面に伏せて頭部を守る
【屋内にいる場合】
できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する
近くにミサイルが落下したら…
実際にミサイルが着弾してしまった際の行動についても知っておきたいところです。
近くにミサイルが落下した場合は…
口と鼻をハンカチで覆い、現場から直ちに離れ、密閉性の高い屋内または風上へ避難する
【屋内にいる場合】
換気扇を止め、窓を閉め、目張りをして室内を密閉する
上で紹介した2つのPDF「弾道ミサイル落下時の行動について」が公開された4月21日には、同時に「Q&A」も公開されていて、もう少し詳しい状況に応じた「どうしたらいいか」が紹介されています。
テロが起きたら…
現在、「テロ等準備罪」が国会で審議されています。この法律の成立を急いでいる理由は、2020年の東京五輪開催に向けて日本も国際組織犯罪防止条約を批准する必要があるためだとされています。実際、東京五輪に向けて日本の国際的な注目度が増し、外国人の往来も多くなっていくことは確実で、加えて毎週のようにテロが発生している中東や欧州の状況を鑑みるに、日本国内でもテロ発生の危険性がこれまでになく高まっているのは事実でしょう。
今までニュースの中の出来事として現実味がなかったテロが、明日身近で起こるとも限りません。そういった場合、どうすればいいのでしょうか?
爆発が起こったら…
爆発が起こったら、すぐに姿勢を低くして、頑丈なテーブルなどの下に身を隠します。爆発は複数回続く場合もあるので、安全な場所へ避難しましょう。
瓦礫に閉じこめられたら…
爆発などで瓦礫に閉じこめられた場合、粉じんを吸い込むことを防ぐため、動き回って粉じんをかき立てないようにしつつ、口と鼻をハンカチなどで覆うことが推奨されています。
近くにある配管などをたたき、自分の居場所を知らせます。粉じんなどを吸い込むことがあるので、大声を上げるのは最後の手段と考えましょう。
化学剤が使用されたら…
武力攻撃やテロなどの手段として化学剤、生物剤、核物質が用いられた場合には、特別な対応が必要となります。そこで、まずはテレビやラジオなどを通じて情報収集に努め、行政機関からの指示に従って行動することが重要となります。
これを踏まえた上で、それぞれの対処法を見ていきましょう。まずは、昨今ニュースで耳にする機会も多いサリンやVXなどの化学剤が使用されたら…
口と鼻をハンカチで覆いながら、その場から直ちに離れ、外気から密閉性の高い屋内の部屋または風上の高台など、汚染のおそれのない安全な地域に避難しましょう。
ほかにも、屋内では窓閉めや目張りで室内を密閉する、なるべく上の階へ避難する、などが推奨されています。また、汚染された服は「脱がず」に、ハサミで切り裂いてからビニール袋に密閉し、その後、手や体をよく洗うこと、としています。
生物剤が使用されたら…
生物剤は、細菌やウイルスなどの微生物や動植物などが作り出す毒素のことで、飲食物などへの混入、噴霧器での散布などが考えられ、基本的に人に知られることなく散布することが可能です。触れたり、口に入れたり、吸引することで人体に悪影響を及ぼす点は化学剤と同じなので、上で紹介した化学剤が使用された場合の対処法はそのまま生物剤にも応用できます。
生物剤独特の対処法としては、身近に感染した疑いのある人がいたら、その人が使用した家庭用品などに触れないようにし、感染した疑いのある人も自らマスクをすることが大切とされています。また、アメリカで発生した炭そ菌事件のように郵便物として送られてくる場合もあるので、不審な郵便物は中身を開けたりせず、すぐに警察などに通報するようにしましょう。
核物質が使用されたら…
核物質が用いられるテロとしては、核兵器による核爆発や放射性物質を散布して放射能汚染を引き起こす爆弾(ダーティボム)などが考えられます。
核爆発は可能性が低いかも知れませんが、失明の恐れがあるので閃光や火球を見ない、とっさに遮蔽物の陰に身を隠して地下施設や頑丈な建物の中へ避難することが推奨されています。
また、ダーティボムは着弾後に放射能汚染を引き起こすので、行政機関の指示などに従い医師の診断を受けるようにしましょう。放射性物質の判明に時間がかかることもあるので、外傷がない場合でも診断を受けることが大事です。
その他の緊急時の行動
皆さん、お持ちの非常持ち出し袋に懐中電灯は入っていますよね?一工夫してランタンに替える活用術。懐中電灯の上に水を入れたペットボトルを乗せるだけで、光が乱反射して周りを照らすことができますよ。懐中電灯が小さい場合は
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) 2017年3月1日
コップに入れてやってみてください。火を使わないので安全です。 pic.twitter.com/2g7jp5l6rR
【日用品活用術3】地域防災のKです。大地震などで怪我をしたとき、応急手当に使える活用術。ビニール袋の両サイドを切り、手で持つ部分を首にかけるだけです。雑誌などで添え木代わりにすると、より患部が安定します。 pic.twitter.com/mpQJzjz1kS
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) 2013年8月12日
災害時に避難所などで活用できる、簡易スリッパを作りました。作り方はとても簡単です。段ボールを足型に切り取り、新聞紙でくるみ、ビニール袋をかぶせるだけです。足の裏も汚れず、防寒効果もあります。いろいろな防災グッズの作り方を覚えておけば、災害時に活用できますね。 pic.twitter.com/fJZ3CmzwLf
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) 2017年4月7日
急な災害時の備え
ミサイロにしろテロにしろ自然災害にしろ、当然ながら予告なしにやって来ます。災害が「起こってから」も大事ですが、それ以上に大事なのが、災害が「起こる前に何をしておくか」ではないでしょうか。
防災グッズを準備しておこう
防災用品はなんのために必要?
「防災グッズ」は「サバイバルグッズ」ではなく、また現実的な話として現在の日本では災害が起きても数日内に救援物資が届く場合がほとんどですので、食料品を最優先に考える必要はなさそうです。停電・断水といった状況、避難所での生活を強いられたりする場合を考えて、自分なりの防災セットを作っておいたほうがよいでしょう。
防災用品は実際に生命の危機に陥るリスクを軽減するものをまず用意し、次に自宅が危機に面した場合に避難を手助けするもの、避難が避難所などで長期に渡る場合に健康をなるべく維持するために必要なもの、さらにより避難生活を快適にすごせるようにするものの順で用意します。市販の非常用持ち出し袋に自分の必要なものを入れて、オリジナルのものを用意しましょう。
上記の記事における防災グッズのリストには、分類として以下を紹介しています。
・飲料水
・非常食
・医薬品
・衣類
・停電時用
・避難所への持ち込み用グッズ
・緊急時の避難・救助用
・貴重品
・長期避難用アウトドアグッズ(キャンプ用品で可)
・役に立つ日用品
・非常持ち出し袋にいれておくもの(一次持ち出し品)
・災害時にあると便利なもの(二次持ち出し品)
・避難所であると快適に過ごせるもの
それぞれの具体的なグッズについては、記事を参照下さい。
チェックしておきたい災害情報
災害情報を得る手段のひとつに、SNSがあります。例えばTwitter公式による「Twitterライフライン」には、地域ごとのライフライン情報をフォローしたリストが用意されています。自分に必要なリストをフォローしておいてもよさそうです。
また、政府からは「災害時に役立つ政府の公式ツイッターアカウント」も紹介されています。
ミサイルやテロは起こらない、という時代ではなくなりました。また、日本は世界有数の自然災害大国でもあります。いざという時のために、何をすべきか?何ができるか?は最低限の知識として抑えておいてもいいと思います。政府や自治体の対応に期待をするな、というわけではありません。まずは自分の身は自分で守る、そのためにも必要なのが「民間防衛」の意識と知識です。