特集2016年11月28日更新

社会問題化する“高齢者ドライバーの交通事故”特集

高齢ドライバーによる事故が相次いでいます。運動能力や判断力の低下、さらには認知症などが原因といわれますが、免許返納は浸透せず、繰り返される悲劇を防ぐ有効な打開策は見い出せていません。

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産経ニュース / 2024年5月5日 9時0分

雄大な自然を楽しむ非日常に加え、体力づくりなどさまざまな効果が望める登山。しかし、一歩間違えれば遭難という危険と隣り合わせのレジャーでもある。 [全文を読む]

相次ぐ高齢者の交通事故

最近の主な高齢者による交通事故

11月21日 東京都八王子市・75歳

交差点で停車していた乗用車に75歳男性の運転する乗用車が追突。さらにもう1台の乗用車とも接触し12人が搬送。

11月20日 埼玉県所沢市・75歳

路上を歩いていた74歳男性が75歳運転する乗用車にはねられ、頭などを強く打って死亡した。

11月18日 大阪府貝塚市・68歳

道路を横断していた80歳女性が、直進してきた軽乗用車にはねられ死亡。運転者は「ブレーキをかけたが間に合わなかった」と供述

11月14日 京都府京丹後市・67歳

81歳女性が67歳女性の運転する車にはねられた。女性は反動で対向車線に飛び出しもう1台の車にはねられ、死亡した。

11月14日 茨城県つくば市・60~70代

軽トラックと軽乗用車が出合い頭に衝突、横転した軽乗用車は走行してきた軽ワゴン車と衝突し1人死亡4人負傷。5人はいずれも60~70代。

11月13日 千葉県長南町・81歳

横断中の85歳男性がが乗用車にはねられ死亡。81歳の運転手は「お互いによけようとしたが、よける方向が同じでぶつかった」と供述。

11月13日 東京都小金井市・82歳

自転車で横断歩道を通行中の女性が、左折してきた乗用車にはねられ死亡。

11月12日 東京都立川市・83歳

病院の駐車場を出る際に車が急発進し、バーを折り飛び出して縁石を乗り越え歩道を歩いていた30代の男女をはね死亡させた。アクセルとブレーキを間違えたのではないかとみられている。

11月11日 東京都板橋区・86歳

コンビニに車が突っ込み店内の男女2名が負傷。突っ込んだ車の運転手が「たばこくれ」と言ったという目撃情報も。

11月10日 栃木県下野市・89歳

病院の正面玄関近くに乗用車が突っ込み、89歳女性が頭など強く打ち死亡。また車を避けようとして転倒した85歳女性が骨折するなど2人が怪我。運転していた84歳男性も骨折の疑いがあるという。

10月28日 神奈川県横浜市・87歳

集団登校する小学生の列に軽トラックがつっこみ、小学1年生の男の子1人が死亡、7人が怪我をした。運転手は「事故のことを覚えていない」と答えたという。

事故増加に対する対策は

11月15日、政府による関係閣僚会議

高齢ドライバーによる加害事故が日々報道されるなか、11月15日に総理官邸で開かれた閣僚会議で、安倍総理が石井国土交通大臣、加藤一億総活躍担当大臣らを交え、事故の未然防止に向けた対策について協議したそうです。
安倍総理は、来年3月に施行を予定している認知症対策を強化した改正道路交通法の円滑な施行に万全を期すとともに、自動車の運転に不安を感じる高齢者の移動手段の確保など、社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備を着実に進めていくとしています。

道交法の問題点

現行の道路交通法では、75歳以上の高齢運転者には運転免許更新の際に認知機能検査を行い、程度に応じて2時間30分の高齢者講習を受けてもらうようになっている。

現行法ですと、認知機能検査の結果、仮に認知症の恐れありと判断されても、信号無視などの一定の違反行為をしない限り、医師の診断を受けさせられることもないし、免許が取り消されたり停止されることもなく運転できることになります。

また、認知機能検査は運転免許更新時だけですので、次回免許を更新する時まで3年間位何事もなければ運転できることになります。

来年3月施行の改正道路交通法では

以下の高齢者運転者対策が行われる。

<1>一定の違反行為をした75歳以上の高齢運転者に対する臨時認知機能検査の導入
<2>臨時認知機能検査で認知機能の低下が自動車等の運転に影響を及ぼすおそれがあると判断された者に対する臨時高齢者講習の導入
<3>運転免許の更新等の際の認知機能検査で認知症のおそれがあると判断された者に対し,その者の違反状況を問わず,臨時適性検査(専門医の診断)を行い,又は医師の診断書の提出を命ずることを可能とする制度の見直し

運転免許証の自主返納

政府や自治体、警察は65歳以上の高齢者の運転免許「自主返納」を推し進めている。返納の際には「運転経歴証明書」が交付され、身分証明書として使うことができる。

運転免許を返納した方は、「運転経歴証明書」を申請することができます。
「運転経歴証明書」は、運転免許を返納した日からさかのぼって5年間の運転に関する経歴を証明するもので、これまで安全運転に努めてきた証明や記念の品となるものです。
「運転経歴証明書」を提示することにより、高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や美術館などで、様々な特典を受けることができます。

自主返納には自治体や企業のサポートも

「まず、免許証を返納して真っ先に困るのは移動手段でしょう。ですから、車に代わる公共交通の費用を補助する自治体が多いです。新潟市では、市内在住で免許証を返納した65歳以上の方に、タクシー券1万円分や、バスのIC乗車券1万円分などから好きなものが支給されます。ほかにも、運転経歴証明書を提示すれば、区バスは半額、市内のタクシーは1割引きで乗車できます」
"また、全金融機関の定期預金の金利優遇や宿泊施設の割引などが受けられることもある。いくつか例を挙げると、
・『帝国ホテル東京』直営のレストランやバー、ラウンジ料金が10%割引
・『イオン』の電子マネー『WAON』カードを無料進呈
・『はとバス』の定期観光コース料金が5%割引
・『明治座』公演入場券代が10%割引"

その他運転免許自主返納で受けられるサポート一覧

しかし、進まぬ免許返納

こうした取り組みもあってか、65歳以上の高齢者で15年に自主返納したケースは、10年前の15倍に当たる27万件にも達した。それでも、65歳以上の免許保有者の2%弱に留まっている。

その理由は「抵抗感」「足がなくなる」

高齢者にとっては、免許返納への抵抗感が強かったり、認知症になれば返納を考え付かなかったりする可能性があるようだ。公共交通機関が十分でない地方では、高齢者がスーパーなどに行くにも車がないと不便との声も多い。

「一律の対策は困難」

日本交通事故調査機構の佐々木尋貴代表は「高齢者によって能力や運転の必要性は異なる。『75歳で一律免許返納』など数字を設定するのは困難」と指摘。「社会全体の問題ととらえ、スピード感を持って有効な対策を打ち出す必要がある」と話している

認知症男性「運転卒業式」に賞賛

なんという、温かな家族の思いやりだろうか。このツイートは大いに拡散され、「参考になる」など賞賛の声が集まっている。

家族の協力も必要

高齢者に自動車の運転をしないよう説得するのは難しいですし、多くの方が悩まれている問題でもあります。
しかし、事故を起こすと家族も損害賠償責任を負う可能性があり、被害者だけでなく家族の生活も破壊しかねないことを説明することも、説得材料の一つになるのではないかと考えます。
なお、対人賠償金額3000万円の保険というのは余りに不安ですので、運転中止の説得が難しいようであれば、早急に対人賠償無制限の保険に加入させるべきです。

当事者の声は

高齢者としては比較的若い60代で「自分の限界を感じてやめた」という声がある一方、

「当方、64歳だ 一律に年齢で判断するなよ」
「私も80を超えていますが運転をしています。現役で働いています。
ハンドルを離す迄細心の注意を払っています」

と、高齢であっても現在も問題なく運転している、というコメントも寄せられている。
運転免許証の自主返納を讃えようとする社会の向きもあるが、「なかなか手放せない」と70代の地方在住の男性は語る。
「家の近くにバス停こそありますが、1時間に1本しかバスは来ません。もし車が運転できないとなると相当困りますね」

当事者の声に対し、下の世代は…

"若い人ほど「すべきでない」という結果に。世代が上がっていくにつれて、その割合は減少している。
60代においては、高齢者の運転に否定的なのはわずか13%となった。"

身体機能の衰えが事故につながるという調査結果も

転倒したことがある高齢者はそうでない人たちに比べ、車の運転中に事故を起こす可能性が40%高いことが分かった。頻繁に転ぶ人は、車を運動する機能が低下しているということだ。

とはいえ、高齢者だけが運転ミスをするわけではない

"アンケートサイト「マインドソナー」を用いての調査によると「実はブレーキとアクセルを踏み間違えて冷や汗をかいたことがある」という人の割合は17%ほど。 年代別では、50代以上の約19%に対し20代は約31%だ。
すなわち「踏み間違い」の経験は、むしろ若年ドライバーに多い。だから「踏み間違いは高齢ドライバーのもの」という見解は思い込みに過ぎず、事実と異なっていることがわかる。"

この特集ページを作るにあたって11月の高齢者ドライバーによる事故をピックアップしていったのですが、その数に驚きました。年をとるとどうしても身体機能や反射神経などの衰えはありますし、認知症になる可能性も高くなります。一方で免許返納が進まないというのもその気持はわかるような気がします。
「自分は大丈夫」「認知症と認めたくない」「移動手段がなくなるのは困る」…そういった不安を取り除くためにも、やはり周囲のサポートが大事なのかなと思います。今後も高齢者ドライバーの事故を防ぐための法整備をはじめとする取り組みは続けていくべきでしょう。ただ、最後の項目にあるように、事故を起こすのは高齢者だけではありません。若い人も当然ながら事故は起こします。「自分だけは大丈夫」というのは、全ての人に言えることなのでしょう。

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