特集2016年11月12日更新

「下流老人」~高齢者の貧困問題特集

昨年出版された本から生まれた「下流老人」という言葉は、老人の貧困が問題になりつつある世相を反映してか瞬く間に広がり、2015年の流行語大賞の候補に選ばれるほどになりました。貧困にあえぐ老人たちの現状、またどういった人が下流老人になってしまうのか、下流老人にならないためには…などまとめました。

「下流老人」とは

2015年6月に出版された藤田孝典氏の著作「下流老人」から生まれた言葉。

そもそも下流老人とは何なのか。本書によれば、それは「収入」「貯蓄」「頼れる周囲の人間」を持たない高齢者のこと。
「下流老人」は高齢者の貧困問題を捉えた藤田さんの造語で、具体的には「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびそのおそれがある高齢者」を指す。下流老人は700万人ほどいるとみられ、今後も増えると予想されている。

著者「日本人の9割が下流老人予備軍」

「下流老人」という言葉は、生活保護レベルで暮らす高齢者を、あえて「下流」と呼ぶことで、社会に警鐘を鳴らすつもりで作りました。もし私たちがこれまでと変わらず、確実に相当数存在する下流老人から目を逸らし続ければ、日本人の9割が下流老人予備軍となります。

2015年の流行語大賞にノミネート

「爆買い」「トリプルスリー」らと並び、50の候補語に選出された。

「下流老人」著者・藤田孝典氏のプロフィール

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する傍ら、生活困窮者支援の在り方を問う。昨年発売された『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)がベストセラーに。

進む「老人の貧困化」

高齢者の9割が「下流老人予備軍」

下流老人は現在600万人以上いると推定されますが、今後さらに増え続けると考えられます。いまや高齢者の9割が、病気や離婚など、ちょっとしたきっかけで下流老人に転落する危険にさらされている。

高齢者世帯の4割が「老後破産」状態

実は65歳以上高齢者世帯の4割が、すでにこの男性同様に生活保護以下の「老後破産」状態にあるといわれます。また、実際に貧窮度が高いために生活保護を受給している世帯の約半数は、すでに高齢者世帯になっている現実もあります(162万世帯中76万世帯が65歳以上の高齢者世帯)。

60代夫婦の大半が「収入が足りない」

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2015年)」によると、60代の約3割は預貯金を含め金融資産を全く持っていないことが分かる。また、60代が必要と考える、ひと月の生活費は29万円とのことだ。総務省「家計調査(2015年)」によれば、夫婦2人世帯の平均収入は約21万3000円であるので、支出分を収入では賄えない計算になる。

年金だけでは足りない生活費

総務省の『家計調査(二人以上の世帯)』(2015年)によると、無職世帯(定年後の高齢者世帯が大多数)の支出総額は27万円で年金収入の2倍以上。このほか内訳は、被服費1万円、雑費が5万円、交通通信費2.5万円など。

「月12万」では足りない

新幹線車内での焼身自殺の事件が起こったときも私のところに取材が殺到したのですが、(容疑者は)『年金(一カ月分)12万円の暮らしを悲観して』と報じられました。すると『そんなにもらっているのに!』という反発の声も上がりました。しかし、よく考えるとそうではないのです。(容疑者が住んでいた)杉並区で生活保護基準というのは、だいたい13万円から14万円。そこから税金や介護保険料、家賃を払ったりすると食べていけません。ですので、決して月12万円は恵まれている金額ではないということ。これは特殊な人の問題ではないんです
実際、高齢夫婦無職世帯の可処分所得(すべての収入から税金や社会保険料を引いた額)の平均は月約18万円だ。月に約24万円の支出が必要なことから計算すると、毎月の赤字額は月6.2万円に達する。

持ち家派でも安心できない

持ち家派でも安心できない。リタイア時に住宅ローンが残っていると退職金が一気に減ることになる。当然、貯蓄を食いつぶし、下流が近づいてしまう。

年収400万でも年金だけでは…

現役時代に年収400万円あった人でも、年金受給額は月20万円を下回ります。それ以下の年収であれば、生活保護基準を下回るケースも当然出てきます。
普通に働いて平均年収が400万としても、相当しっかり準備をしておかないと老後の暮らしが成り立たない。それが今の日本の社会保障制度の現実ですね。

アルコールで「下流」化

例えば仕事のストレスからアルコール依存になってしまう方もいるんですね。アルコールを飲みすぎると脳が萎縮して、認知症の初期症状が出てきたりすることもあるそうで、そうすると金銭管理が十分にできなくなってしまうんです。

「下流老人」になる3つの理由

(1) 年金額を把握していない
(2) 40代から住宅ローンを長期で借り入れていて返済に追われている
(3) 成人の子どもを扶養しなければならない

貧困で追い詰められ、暴走する老人たち

84歳、52歳女性を刺殺

長崎市淵町のアパートで住人女性(52)が刃物で胸を刺されて死亡する事件があった。逮捕されたのは、同じアパートの2階に住む84歳の無職男だった。(中略)身寄りもなく狭い部屋で鬱々とした毎日を過ごしていた男は、孤独の末に犯行に及んだものとみられている。

71歳、新幹線で焼身自殺

71歳の男性が、東京から新大阪へ向かう新幹線の車中で焼身自殺した。巻き添えで無関係の女性が命を絶たれており、JRも多大な損害を受けたためであろう。当人に同情的な声は、まったくと言ってよいほど聞かれない。当人が生前、年金だけでは生活できない、と周囲に語っていたそうだが、世間の反応は、「高齢者は皆、少ない年金で苦労して生きているのだ」といったところであった。
走行中の新幹線車両内でガソリンをかぶり焼身自殺した男性(71)は、2カ月ごとに支給される年金額が24万円だったといいます。年間144万円になるわけですが、この老人は「35年働いて月12万円では少ない」と不満を漏らし「家賃も住民税も払えない」とこぼしていたとされます。

増える「万引き老人」

僕が万引きGメンを始めた頃、万引きの主流は未成年でした。しかし、現在は高齢者の万引きが増えている状態です。検挙人数は5倍近くに増えています。知らない方からすると、「え? 老人が万引きするの?」と非常に驚かれます。
近年、万引きは減少傾向にあるが、しかし高齢者に限って言えば増加しており、警視庁の調査でも摘発された総数の3割もが65歳以上の高齢者だという結果が出ている。また万引き高齢者の70%以上が無職で生活保護受給者も11.3%に上り、万引きするのは食料品が圧倒的だという

困窮の果てに万引きに走る

常見:「お腹が減っている」というのは、明らかに困窮状態ということですか?
伊東:そうです。そういった場合は、入店するとすぐわかります。目がうつろで、身なりも整っていない人が多い。捕まえた人の中に、総菜売り場のコロッケをその場で食べてしまった路上生活者の老人がいました。「お腹へったの?」と聞くと、「昨日からなにも食べていない」と言います。

「死ぬ前に好きなものを…」

東京下町のスーパーマーケットで酒や寿司、うなぎの蒲焼きなど7000円以上を万引きした71歳男性の動機も壮絶なものだった。
〈痩せて突き出たように見える老人の目はうつろで、呼吸も荒い。枯れ木のように細い身体はふらついており、いまにも倒れそうな雰囲気だ。〉
老人の所持金はわずか300円。しかも医師からは余命3カ月を告げられた末期のガン患者だという。
「死ぬ前に、好きなものを目一杯食べてやろうと思って......」

高齢者の万引きは1,000万件超?

平成27(2015)年度における、65歳以上の高齢者万引き者の検挙数は8万件。警察は全件通報を指導しているが、実際には届けなしで処理されている件数が多く、実数はその数十倍から数百倍にも上るのではないかという。

高齢者の犯罪に凶暴化の傾向も

「高齢者の犯罪は、凶暴化の傾向も見受けられる。摘発された高齢者のうち、粗暴犯は前年から10%以上増え、そのうち殺人や強盗などの凶悪犯が占める割合も増加している。」(全国紙社会部記者)
その要因のひとつとして指摘されているのが、高齢者の貧困問題。いわゆる「下流老人」の増加である。

犯罪で孤立化し再犯する悪循環

若いころから受刑を繰り返すうちに高齢化したケースだけでなく、高齢になってから初めて犯罪を犯したケースも増加しているということです(中略)犯罪を犯してしまった人は、さらに地域から排除され、ますます孤立化し、再犯に至る悪循環に陥ってしまいます

「下流老人」にならないためには?

「人ごと」とせず、もっと関心を

いまこの社会でいちばん弱い立場にいる人たちの生活に、もっと関心を持つことです。人ごとではなく、その人たちの生活をどう改善するかを考えること。そこからおのずと自分の老後もどのくらいの水準が保てるのか、イメージできてくると思います。

日頃から「準備」が必要

「下流老人」にならないように準備しておくことはまず、
・ 貯金をする
・コミュニティに参加して独居にならないようにする
・健康に気をつけた生活をする

やめよう無駄遣い

老後資金を貯めるには、まず「人生の3大無駄遣い」をやめることが貯蓄を成功させる要諦になります。3大無駄遣いとは、「住宅ローンによるマイホーム取得」「生命保険への加入」「マイカーの保有」の3つです。これらからすみやかに脱却し、貯蓄に励み、資金を複利・分散・長期に殖やしていく手立てが欠かせないわけです。

将来のための備えを

■1:支出した額や内容をしっかり把握する
■2:短期の貯金目標を立ててみる
■3:何か購入する際は、その額を自分の時給と照らし合わせてみる
■4:支出は収入の範囲内でやりくりする
■5:買い物に行くときは、買い物リストを持っていく

将来「下流老人」になる?チェックリスト

自分が「下流」や「貧困」に陥るリスクはどのくらいなのか。現在の貯金額や生活実態、マネーリテラシーなどから、危険度を測ってみよう。
●チェック数0~3の人は老後下流&貧困リスク低め But! 油断大敵
リスクヘッジはできているものの、ひとつでもチェックがある人は社会状況がさらに悪化すれば転落するリスクも。

●チェック数4~6の人はビンボー老人になる可能性が高い
定年後、年金以外の収入がなくなれば苦しい生活を強いられる可能性大。中長期的に高コストな支出の見直しを。

●チェック数7以上の人は老後どころか数年先に下流&貧困転落か!?
今すぐ支出と収入を見直す必要あり。収入面では副業の検討を。支出面はかなり細かな項目までムダを削るように。

「下流老人」に救済策はあるのか

政府の高齢者貧困対策

政府が高齢者の貧困対策をどう進めて行くのかは、当事者である高齢者が今の政治をどう判断するかです。それを意識してか、安倍政権は低所得の年金受給者に対して3万円を配ることを発表しています。でも、貧困対策ではなく、一過性の“選挙対策”で終わってしまって社会が変わらなければ、問題は解決しません。

「下流老人」著者が政府に求める政策は

藤田さんは「(低所得者だけでなく)みんなが助かる政策の提案が必要」と話す。例えば、藤田さんが政府に求めている政策の1つが、公営住宅の整備や家賃補助といった、「住」への支援だ。国土交通省によると、日本の公営住宅比率は5.4%。対してイギリスは17.5%、フランスは16.4%と高い。また、両国には住宅手当や給付金もあるという。「一番家計を圧迫しているのが住宅費。賃金を上げ続けるのは難しい時代だから、支出を下げるような政策が欲しい」

「下流老人」著者が語る“日本の選択”

藤田 やっぱり社会保障をもっと充実させるべきだと思いますけどね。海外には老後は安心ですから現役時代のお金はパーッと使っちゃってくださいという国もありますから。
テリー ヨーロッパは、そういう制度が整っているところが多いですよね。
藤田 その代わり、しっかり税金は取りますからね。そういった方向に進むのか、それとも今のまま老後に備えて現役時代からコツコツ貯金して自己責任で老後を迎えるままでいるのか。今、日本は選択の岐路に立たされてるんだと思います。

もし「下流老人」になったら

まずは本人の聞き取り調査から始めます。もし働けそうなら一緒に仕事を探しますし、住むところがないのであれば、うちのNPO法人でもシェルターを用意してますから、そこに入ってもらう支援をします。うちのシェルターは埼玉にあるんですが、都内であれば、いくつもシェルターや宿所提供施設がありますよ。

遠慮せずに生活保護を

テリー なるほど。じゃあ、すでに下流老人になっちゃってる人は、どう脱出すればいいんですか?
藤田 それはもう生活保護を受けていただくしかないと思います。日本人は国民性なのか、うちに相談に来る方でも「申し訳ないから」って遠慮する方がいるんですよ。でも、都内であれば、だいたい14万以下の年金しかもらえていなければ僕は申請しちゃっていいと思ってるんです。