特集2017年4月21日更新

全ての子供の幸せのために~里親制度とは?

2016年12月、大阪市が市内在住の30代と40代の男性カップルを「養育里親」に認定していたことが、4月5日から6日にかけて報じられました。里親制度の中でも異例の、全国初の認定とみられるこのたびの報道ですが、そもそも「里親制度」とは何なのでしょうか。「養子縁組」との比較も交えてまとめてみました。

「全国初」男性カップルを里親認定

大阪市が異例の里親認定

大阪市が市内在住の30代と40代の男性カップルを「養育里親」に認定していたことを、4月5日から6日にかけて多くのニュースメディアが一斉に報じて話題となりました。記事によると、認定されたのは昨年12月のことで、厚生労働省は同性カップルの里親について「聞いたことがない」としていて、「全国初」の異例の認定とみられています。

同姓カップルの里親認定に対する世間の反応

同性カップルを異性間の結婚に相当する関係と認める自治体が増えてきている一方で、里親の認定には消極的だといいます。そんな中での歴史的な認定に対し、ネットでは育てられる子供に対するいじめや偏見による差別を懸念する声もあがっています。

・男性カップルが里親とか・・・ 容認派が多いのに驚き。個人的には高確率でいじめの対象になると思う。母子家庭でさえいじめの対象になるのに教育上どう考えてるんだろ?
・これは難しいところだよね、本人たちと両親は喜ぶだろうけど子供がどう受け取るか。とっても愛されるだろうけどやっぱ周りの大人やそれを受けた子供達からなんて言われるか。いじめなんてあるかもしれない。

しかし、こういった否定的な意見に「偏見を持っているし視野狭窄」と一喝するツイートが投稿され、多くの共感を得ています。

また、大阪市の吉村洋文市長もTwitterで「他の自治体にも広がればいい」とコメントしています。

「男性カップルが里親」から漫画や映画作品が話題に

世間では「男性カップルが里親になる」というキーワードから、漫画作品の「ニューヨーク・ニューヨーク」(羅川真里茂)や「弟の夫」(田亀源五郎)、映画作品の「チョコレートドーナツ」といった作品が連想され、ネット上で話題にあがりました。

「里親制度」とは

里親制度の概要

「里親制度」とは家庭での養育が困難な子供を里親が育てる制度。厚生労働省のホームページでは以下のように概要を説明しています。

里親制度は、家庭での養育が困難又は受けられなくなった子供等に、温かい愛情と正しい理解を持った家庭環境の下での養育を提供する制度です。
家庭での生活を通じて、子供が成長する上で極めて重要な特定の大人との愛着関係の中で養育を行うことにより、子供の健全な育成を図る有意義な制度です。

里親は4種類 対象の子供は0歳から18歳まで

里親には「養育里親」「専門里親」「養子縁組を希望する里親」「親族里親」の4種類があります。

養育里親…一定期間自分の家庭で養育するという最も一般的な里親
専門里親…養育里親の一部で、虐待や非行、障害などの理由で専門的な援助を必要とする子供を養育する里親
養子縁組を希望する里親…「養子縁組里親」とも呼ばれ、将来の養子縁組を見据えた里親
親族里親…その名の通り、親族が育てる里親

ひとり親の里親もいる

男性カップルの里親が話題となっていますが、そもそも里親は夫婦であることを必須条件としていないので、ひとり親世帯の里親もいます。2015年3月時点で、3216世帯が夫婦、488世帯はひとり親となっています。

複数人の子供を養育する「ファミリーホーム」も

里親の延長として「小規模住居型児童養育事業」(ファミリーホーム)が存在。これは2009年度に創設された制度で、養育者の住居において子供5~6人の養育を行うというもの。
乳児院や児童養護施設といった施設との明確な差別化を図りたい厚労省は、「施設が小さくなったもの」ではなく「里親を大きくした里親型のグループホーム」としています。

里親への委託率が主要先進国の中で最下位の日本

日本では社会的に養護が必要な子供、約4万5000人の多くが乳児院や児童養護施設などで暮らしていて、里親およびファミリーホームへの委託率は全国平均で16.5%(2014年度末)にとどまっています。この数値は、「子供は里親などの家庭的な環境で育てるべき」という認識が一般的な主要先進国の中で最も低く、国連子供の権利委員会から「家庭的な養育環境が不足している」との勧告を受けています。
ただ、下に述べるように里親制度は都道府県といった自治体単位で運営されているため、委託率には自治体間で大きな差があり、新潟県や静岡市など委託率が4割を超えている自治体もあります。

国の基準をもとに都道府県や政令指定都市等が運営

里親の希望者は、児童相談所の調査や研修が必要で、さらに審議を経て都道府県知事や政令指定都市の市長らが認定をします。認定されると里親名簿に登録され、一定の年数ごとに更新研修もあります。
また、認定された里親には養育費として里親手当、生活費、学校教育費、子供の医療費などが支給されます。

「養子縁組」と何が違うの?

一番の違いは法律的な親子関係の有無

基本的には「里親」は「子供を一定期間預かって養育する」ことを指し、養子縁組を前提とする「養子縁組里親」があることからわかるように、里親=養子縁組ではありません。 なお、養子縁組里親も養子縁組の成立には家庭裁判所の審判・許可が必要となります。

「里親制度」は何らかの事情で家庭での養育が困難になった子供たちを、育てられない親の代わりに一時的に家庭内で子供を預かって養育する制度で、親権は生みの親に残ったままである。
一方、養子縁組の場合には子の親権も育ての親に移譲され、戸籍の上でも子供の「親」となる。

この「親権がどこにあるのか」というのは重要なポイントで、日本の里親委託率が低いという問題にも関わってきます。委託が進まないのは、親権を持つ実親の同意を得ることが難しい点が大きな要因と指摘されているのです。

施設なら同意するが里親委託の場合同意しないということは、里親委託と養子縁組を混同してしまっていたり、里親になついてしまったら困る、など里親制度への理解不足があるようです。

養子縁組成立のルートは2種類

中村:養子を迎える方法としては、民間の斡旋機関を利用するか、各自治体の里親制度を利用するかの2つがあります。私たちは後者にしました。その場合、「約3ヵ月間、施設に会いに行く」→「里親として約半年間一緒に暮らす(受託する)」→「家庭裁判所に特別養子縁組の申し立てをする」→「約半年で養子縁組が成立する」というステップを踏みます*。

実親とのトラブルで養子縁組が破談になる場合も

里親から養子縁組に至るケースは殊の外少ない。その理由の一つが親権を持った親とのトラブルだ。
ある里親が里子を実の子供のように愛し、施設側も喜んでいた。ところが、その子を施設に預けたまま1度も面会に訪れなかった。養子の件が破断になった時、母親は再度どこかに消えてしまったという。

里親制度を利用するにあたっての障壁

周りの無理解

海外に比べて日本では、里親になる、養子を迎えるということに対しての理解がまだまだ進んでいないのが現状のようです。

スイス人とカナダ人の友人に「養子を迎えることになったの」と話したら、質問なんか一つもしないで、「Congratulations(おめでとう)!!!」と喜んでくれました。アメリカに住んでいる義母に話しても「わくわくしてる!!!」とまるで孫の誕生を待ちわびているかのような反応でした。
ですから、日本で「養子を迎えようと思うの」と話した時との温度差はすごく感じましたね。

追いついていない制度

また、希望するカップルに対して制度が追いついていないという意見も。

日本で年間に成立する特別養子縁組はたったの500件。現在、不妊治療中のカップルは6組に1組、「養子を迎えたい」と希望するカップルは増えています。養子になるべき子も、養子を迎えたいカップルも大勢いるのに、制度だけが追いついていないんです。早く世の中のニーズに合うように制度が変わってくれたらと思います。

里親制度や養子縁組の数はまだまだ少ない

まだまだ数自体は少ないものの、少しずつ世間に認知され始めた里親や養子縁組制度。今後、理解が進めば、数々の偏見も少しずつなくなっていくことでしょう。

日本ではまだまだ特別養子縁組の数は少ない。それは、まだ家族の形が狭く、自分たちで家族は作り上げていくもの、という意識が足りないからだという。そういった意識が今回のようなイベントや、当事者の人からの話によって広まっていけば芽生えてくるだろう、40年前では考えられなかった「イクメン」の概念のように、特別養子縁組が当たり前になる日は絶対に来る。

必要とされる里親制度の拡大

親と暮らせない子供たちが多くいる

実親の病気や死去による別れ、離婚、貧困、虐待、育児放棄など様々な理由により、親と暮らせない子供たちが多くいます。

現在、日本の児童養護施設に入所している児童数は約3万人(平成25年2月発表の厚生労働省調査)。そのうち、養子となるのは1年で300~400人程度、里子となるのは4,000人程度。児童養護施設に入所する子供のうち、養子や里子になるのは15%程度に過ぎない。

施設だけでなく家庭での生活環境が必要

実親と暮らせない子供たちの9割以上は乳児院や児童養護施設で生活している実情があります。施設の利点も多くありますが、施設での生活は、多くの子供たちと職員という関係であり、一般家庭の形態とは異なります。里親制度であれば親子関係を築き、一般家庭での過ごし方、地域との触れ合い方、社会経験などを積むことができるのです。

実際に里親となり子育てに奮闘する人たち

実際に里親になり、12年が経った人の実体験

実子の長女がいたものの、二人目の不妊に気づき、2歳の女の子の里親になった人の実体験。本当の親ではないからこそ、子育ての上で問題が起こってしまった場合に「本当の親ではないから」、「愛情が足りないから」と評価されてしまうのではないかというプレッシャーがあるようです。

中村:そうなんです、養子の場合は、なぜか親に「パーフェクトであること」が求められる雰囲気はありますよね。そのため、養子を迎えることの心理的ハードルがものすごく高くなっている。「完璧な母親、父親でないといけない」というプレッシャーが、どうしても実子を育てる時より強くなりがちだと感じますね。

しかし実際の生活をこう振り返ります。紆余曲折あるも、子供を望んでいる人たちに何物にも変えがたい幸せがあるようです。

中村:「パパになついてくれない」「夜なかなか寝てくれない」「言うことを聞いてくれない」という問題はありましたが、それは実子でもよくあることですから、「久しぶりで忘れてたけど、育児ってこんなのだったな」と懐かしく思い出しながら乗り越えました。大変なこともあったけど、楽しかったですね。

里親になり書籍を出す漫画家も

里親制度を通じて里子の赤ちゃんを子育てすることになった漫画家の著書。里子との生活や里親制度の基礎的な内容も説明され、書籍を通じて里親制度と受託後の生活の実態を知ることができます。

 本書に書かれている「里子はあくまで親権が実親にあり、苗字も実親のもの」「『あなたはお母さんが産んだ子供ではない』と告げることを真実告知と言い、その多大なショックを和らげるため、物心ついた頃からそれとなく伝えることが推奨されている」などのことは、知らない人も多いはずだ。

「里親入門」とされている本書ではありますが、かたい内容だけではなく、里子のしぐさ、行動、子育ての光景に微笑ましく思うことも。また、里親としての心情も赤裸々につづられています。

立とう、立とうと必死な赤ちゃんを、体を支えて立たせてあげたら、誇らしげに笑ったこと。赤ちゃんを笑わせるのが何より楽しくて、部屋の戸の裏に隠れては飛び出したりしていること。ズリハイしている赤ちゃんに「こっちにおいで」と両手を差し出すと、自分のもとまで寄ってきてくれて、嬉しくて抱き上げてしまったこと……。
それは作者が赤ちゃんへ注ぐ愛の深さゆえだろうが、ときどき「うちに来て3か月。嬉しい気持ちがいつまで続くのか半信半疑で、減ってしまうことが心配でならない。いまのところ大丈夫で、逆に折れ線グラフで言うと右上に向かい続けている」というような心情描写が現れて、読んでいるこちらはドキッとする。

恵まれない状況におかれてしまっていた子供たちと、子供が欲しい、子育てがしたいのにできないといった里親候補をつなげる里親制度。知名度はあまり高くないとされている中でも、実体験で語られているように、実の親子ではなくても深い愛情で結ばれる家庭もあるようです。今後、制度の改善も含め、委託率が拡大されていくことが望まれます。