特集2017年7月10日更新

「殺人アリ」の異名も ヒアリが日本各地に出没

強い毒を持つ「ヒアリ」が国内で初めて発見されて以降、各地で相次いで見つかり、連日メディアを騒がせています。そこで今回は、「殺人アリ」などとも称されるヒアリの特徴や見分け方、刺された際の対処法などをまとめてみました。

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日本各地で発見される「ヒアリ」

5月26日に国内で初めて見つかる

兵庫県尼崎市で発見 6月13日に環境省が発表

環境省が6月13日に、「神戸港(兵庫県)を中継したコンテナから、強い毒を持つ南米原産の特定外来生物『ヒアリ』が日本国内で初めて見つかった」と発表。

神戸、愛知、大阪、東京…各地で次々と確認

尼崎市で発見されたことを受けて全国で調査を実施したところ、各地の港湾内で次々とヒアリが確認されています。
ニュース記事を読んでいるといろんな日付が目につきますが、のちにヒアリと確認された個体が「発見」された日、その個体がヒアリと「確認」された日、それを公的機関(主に環境省)が「発表」した日の3つがあって、こんがらがります。
そこで「確認日」を軸に、簡単に時系列でまとめてみました。

確認日 確認地点 確認状況
6月9日 兵庫県尼崎市 コンテナで集団を発見
6月18日 兵庫県神戸市(神戸港) コンテナヤードの舗装面の亀裂で個体を発見
6月30日 愛知県弥富市(名古屋港) コンテナ上部で個体を発見
7月3日 大阪府大阪市(大阪南港) コンテナヤードの舗装面の亀裂で個体を発見
7月6日 東京都品川区(東京港) コンテナ内部で個体を発見
7月7日 東京都品川区(東京港) コンテナ内部で個体を発見
7月7日 愛知県飛島村(名古屋港) コンテナ内部で個体を発見

いずれの場合も、発見個体の殺虫処分やコンテナの消毒、防除といった対処が行われています。また、確認できたところでは、いずれも中国からの貨物コンテナから発見されているようです。

10日、港湾エリア以外からも初のヒアリ発見

10日、愛知県春日井市にある倉庫の荷物からヒアリ1匹が発見されたという発表がありました。上の表を見ればわかりますが、これまでヒアリは全て港湾エリア内で発見されています。港湾外エリアで発見されたのは、どうやらこれは初めてのようです。

県などによると、このコンテナは飛島ふ頭のコンテナヤードに陸揚げされた後、今月6日に春日井市内に搬送。荷物を倉庫に搬入した際、アリが1匹付着しているのを荷主が確認した。連絡を受けた環境省の依頼を受けた専門機関が鑑定したところ、ヒアリと判明したという。

ヒアリとは?

「殺人アリ」の異名を持つ危険なアリ

漢字で「火蟻」 主に赤褐色をした南米原産のアリ

ヒアリは、漢字では「火蟻」、英語では「Fire Ant」と書かれる外来アリで、その名の通り、刺されると火の粉をかけられたような熱さに似た激しい痛みを感じる毒アリです。
東京都環境局自然環境部が運営するサイト「気をつけて!危険な外来生物」では、ヒアリについて次のように解説しています。

【形態:大きさや特徴】
・体長2~6mm。
・主に赤茶色。
・体色は赤褐色、腹部が暗色。
【原産地】
・原産地は南アメリカ。

極めて攻撃的で小型哺乳類をも捕食

また同サイトでは、ヒアリの生息地や生態について、「公園や農耕地などやや開けた場所に営巣する」ことや「雑食かつ極めて攻撃的で小型哺乳類をも集団で攻撃して捕食する」ことなども解説しています。

強い毒性 北米だけで年間100人以上死亡

ヒアリに刺されると、アルカロイド系の毒(ソレノプシン)によって水疱状に腫れるとともに、非常に激しい痛みを覚えるといいます。また、毒に対してアレルギー反応(アナフィラキシー)を引き起こす例が北米だけでも年間で1500件近く起こり、100人以上の死者が出ているということです。

刺されると、アルカロイド系の強い毒による痛みやかゆみ、発熱、じんましん、激しい動悸等の症状が引き起こされる。アレルギー性のショックで昏睡状態に陥ることもある。

驚異的な繁殖力 ひとつの巣に女王アリが数十匹

1日の産卵数は2000個

日本でよく見かける一般的なアリは、ひとつの巣に対して女王アリは1匹しかいませんが、ヒアリの場合は数十匹~100匹程度いるといいます。そして、これら複数の女王アリが1時間あたり約80個、1日で約2000個の卵を産むことができ、繁殖能力が極めて高い点も脅威とされています。

これはアリの中でも破格の多さで、ものすごい繁殖力。1つの巣に数万匹の働きアリがいて、さらに別の女王アリが作り出される。そこからまた別の場所で巣を作り、どんどん増殖を繰り返す。上陸されて、一度定着してしまうと根絶することは非常に難しいのです

7月4日には国内初の女王アリ確認

7月4日には大阪港において国内で初めて女王アリが確認され、5月に見つかった尼崎のヒアリにも女王アリが2匹確認されています。女王アリ発見で「すでに日本でも繁殖しているのでは…」と心配されましたが、環境省では「定着していたとしても初期段階」とみているようです。

世界各地で大きな問題に

アメリカや中国、台湾など分布が急速に広がる

貨物等に紛れて気付かないうちに持ち込まれ、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、中国、台湾など環太平洋諸国に分布が急速に拡がっている。

アメリカを皮切りに世界中へ分布を広げていった歴史や経緯などは、以下の記事で詳しく解説されています。

最近、ヒアリ被害が相次いでいる中国

中国でもヒアリによる被害は後を絶たないといい、下の記事では、5月に農村で男子児童が刺された事案や、4月に起きた「恐ろしい事件」を紹介しています。

4月には同じ広東省の中山市で、公園をランニング中だった男性がヒアリの大群に襲われるという恐ろしい事件も起きている。この男性は短パンで草むらの中を走っていた際、蟻の巣を踏んでしまい、ヒアリが集団で“攻撃”してきたという。数日間、激痛と水疱に悩まされ、病院で治療後、ようやく症状が回復した(「中山日報」4月12日付)。

日本への侵入が警戒されていた

アレルギー反応で死に至る恐れがあることから、世界各地で大きな問題になっているヒアリ。日本では2005年、外来生物法により「特定外来生物」に指定され、また中国や台湾ではすでに定着していたため、日本への侵入が警戒されていた中での今回の「ヒアリ発見」となりました。

「ヒアリ上陸」で懸念される影響

環境省が作成した資料では、日本国内にヒアリが定着することで懸念される影響について、すでに紹介した人体への被害のほかにも、他種のアリを駆逐するといった生態系への影響、牛・馬・鶏など家畜の死傷被害といった農林水産業への影響を指摘しています。

アメリカでの経済的被害は年間6000億円超

1930年代からヒアリ被害に悩まされているアメリカでは人的被害はもちろん、経済的にも深刻な打撃を受けているといいます。

テキサスA&M大学農業経済学部のカーティス・ラード氏らの2006年の調査によれば、ヒアリの定着が確認されている米14州の経済的被害の合計額は54.6億ドル(約6069億円。6月22日現在、以下同)にのぼる。

また、上で紹介したNEWSポストセブンの記事では、日本にヒアリが定着した際の日本経済への影響について、アリの生態に詳しい九州大学の村上貴弘准教授が以下のように予測しています。

「今は温暖な地域にしか生息できないといわれているが、ヒアリは環境適応能力が高いため、関東から沖縄までなら住み着く可能性は十分にある。各地の農業への影響はもちろん、東京、大阪、名古屋といった大都市で定着すれば、その被害額は甚大でしょう」

物理的に日本侵入を防げない現実

日刊ゲンダイDIGITALの記事では、「海外から荷揚げされるコンテナの量は膨大で、すべてのコンテナを開けて外来種の混入をチェックするのは物理的に厳しい」という近畿地方環境事務所野生生物課の声を伝えつつ、以下のように述べています。

国内で陸揚げされた海外発のコンテナ数は15年が約865万個(20フィート換算)。すべてを点検するとなると、途方もないコスト、マンパワーが必要になる。現実的には無理だ。

前出の村上准教授も産経ニュースの取材に対し、「外来生物の侵入を水際で完全に食い止めるのは現実的に無理だろう」と指摘しています。

週プレNEWSは神戸港のコンテナ業務員に取材。小型の虫の侵入を防ぐのは難しいと語っています。

「そら、虫の侵入を水際で防ぐのは無理やって(苦笑)。冷蔵・冷凍貨物用のリーファーコンテナならともかく、ドライコンテナは換気口が開いてるから、小型の虫なら出入り自由。それに、いくら港湾で目を光らせても、コンテナを内陸部に搬送してから開封して、そこでアリが出てきたらお手上げよ。
ちなみに神戸港は、昨年のコンテナ取り扱い個数が東京港に次ぐ国内2位の約280万個。1日当たり1万個近い計算や。その中にアリが100匹や200匹入ってても、そら見つけようがないわな。そもそも海運の世界で荷主がどの港湾を選ぶかは、収益に直結する荷揚げ作業や搬出のスピードが最も重要なポイント。シロウトは『全量検査しろ』って言うけど、そんなん無理に決まっとるよ」

ヒアリに遭遇したら、どうする?

ヒアリがいかに危険な存在であるか、そして諸外国のように侵入を防げずに定着を許してしまうかもしれない瀬戸際ということがわかったと思います。
そこで、ここからはヒアリの見分け方や我が身を守る方法などを見ていきましょう。

ほかのアリとの見分け方

「赤っぽい」アリに要注意

ヒアリへの対処法のスタート地点として、見つけたアリを「ヒアリ」と認知できることが大事になるので、在来種との見分け方を確認しておきましょう。
まずは色に注目です。一般的に日本でアリといえば「黒い」のが特徴なので、赤っぽくツヤツヤしているアリには要注意です。

・全体が黒色であればヒアリではない
・全体が赤茶色でも腹部が黒っぽい赤色でなければヒアリではない
・全体が赤茶色で腹部が黒っぽい赤色という特徴が一致しても、なおヒアリとは限らない

環境省が公開しているPDF資料「ヒアリの簡易的な見分け方」では写真入りで解説されているので、一読しておきたいところです。また、「国際社会性昆虫学会日本地区会(JIUSSI)」でも同じように「ヒアリに関するFAQ」として写真入りでヒアリの特徴など詳しく説明しています。

Twitterでは図解する人も

サイズ違いの個体が集団で行動

上の環境省のPDFでも「働きアリの大きさが2.5mm-6.5mmと連続的な変異がある」と触れられているように、大小サイズの異なる個体が集団で行動している点もヒアリの特徴といえます。

「大きな土の巣」にも注意

東京都環境局のサイト「気をつけて!危険な外来生物」では、「特徴・間違いやすい類似種との識別点」として以下のように解説しています。

胸部の体色が赤褐色、腹部が暗色で艶がある。触覚節数は10節で第3節は長い。トフシアリ(日本産種はSolenopsis japonicaはサイズが小さく識別可)、ヒメアリ属(兵アリの有無により識別可)。
在来種で本種のような土で大きな塚を作る種はいない。

つまり、日本いる似たようなアリ「トフシアリ」よりヒアリのほうがサイズが大きく、また、ヒアリは土でかなり大きなアリ塚(巣)を作る点が在来種との違いになります。巣は直径25~60cm、高さ15~50cm程度(最大で90cm)の大きさで、形はドーム状だといいます。

ただし、「巣は見分けがつきにくい」という意見も。

「通常は10~30センチのこんもりしたアリ塚を作るので分かるんですけど、問題はコンクリートの割れ目などに巣を作ることも多いということ。こうなるとお手上げです。台湾でも大量発生が問題になってますが、高速道路の中央分離帯の土が繁殖源になった。ここには無理と思っている所にすら巣を作るほど繁殖力が強いのが特徴です」

見つけたらどうする?

刺激を与えない

環境省ではヒアリに対する注意点を以下のように呼びかけています。

「ヒアリを刺激すると刺される場合があります」とし、緑地帯の土や芝生の土といった生息している可能性のある場所に手をいれたり、ヒアリを見つけた際は踏んだり巣を壊すなど刺激を与えないようにしてほしいと呼びかけている。

巣を刺激するとヒアリが大量に出てきます。この際、普段はゆっくり動くヒアリが素早く動き、とても攻撃的になるといいます。

環境省の地方環境事務所など専門機関に通報

「見つけても絶対に触らない」という鉄則を守るのが第一。そのあとの行動として、環境省では地方環境事務所など専門機関に通報するよう呼びかけています。

市販の殺虫剤でも駆除できる

ヒアリやその巣を見つけても近づかず、刺激を与えないのが一番ですが、どうしても駆除する必要がある場合は、市販の殺虫剤や身近な道具で駆除できるようです。

外来種と言っても、アリはアリなので、市販の殺虫剤で普通に死滅させることができます。巣に農薬や熱湯をかけるなども有効です。

環境省も「熱湯をかける」「液剤(殺虫剤)を散布」「ベイト(毒餌)剤を使用」の3つを駆除方法として挙げていて、それぞれのメリット、デメリットを以下のように説明しています。

●熱湯をかける
熱湯が直接かかった範囲のヒアリは死ぬが、巣深部のヒアリは駆除できない
●液剤を散布
液剤に接触したヒアリと、接触したヒアリが巣内でほかのヒアリに触れても駆除効果あり。ただし、別の昆虫類にも影響を及ぼす
●ベイト剤を使用
働きアリが毒餌を巣内に持ち帰ることで巣の内部まで駆除が可能。時間はかかるが、確実性は上の2つに比べ高い

刺されても落ち着いて対処すべし!

極度に恐れる必要はない?

「北米だけで年間死者100人超」とはいっても、落ち着いて対処すれば助かるようです。自らもヒアリに刺された経験があるという昆虫の専門家は次のように語っています。

ヒアリ被害の多いアメリカで、刺されて発作を起こす人は1%~5%です。それらの多くは病院が近くにない田舎での被害で、治療を受けられず死亡するケースがほとんど。現在“殺人アリ”と報道されることが多いですが、医療機関が近くにあれば、ほぼ助かります。

また、ヒアリに刺されて死ぬ確率は14万人に1人(0.001パーセント以下)程度と極めて低いそうです。

仮に刺されても病院に駆け込めばほぼ助かるという事実を知ったところで、実際に刺されてしまった際の症状や対処法を見ていきましょう。

一度に何度も刺す

ヒアリに刺されると激痛が走り、刺された箇所が赤く腫れあがる。ヒアリは一度に何度も刺すため、同じ場所に複数の腫れができる。ハチに刺された時には見られない膿疱ができるのが特徴だ。

症状は個人差あり 軽度なら「かゆい」程度も

軽度の場合は刺された部位が痛くなったりかゆくなったりする。中度では刺されてから数分〜数十分後に刺された部分を中心に腫れが広がり、全身にかゆみを伴うじんましんが現れることがある。重度の場合は急激にアレルギー症状が出る重篤なアナフィラキシーショックを起こし、呼吸が苦しくなったり意識を失ったりすることも。

2回目以降は特に注意

スズメバチなどでも「2回目以降はアナフィラキシーショックの危険性が高まる」といわれていますが、ヒアリも同じことがいえるようです。

通常、ヒアリに刺されても1週間ほどで治癒するが、すでにヒアリに刺されたことがある人は過剰反応を起こし、アナフィラキシーショックを引き起こすこともあり、最悪の場合は死に至ることもある。

まずは安静に 容体が急変したら病院へ

「気をつけて!危険な外来生物」では、被害を受けた場合の対処法を以下のように解説しています。

○刺された直後の対処
・20~30分程度、安静にし、体調の変化がないか注意
・症状が悪化しない場合には、ゆっくりと病院を受診

○症状が悪化する場合
・一番近い病院を受診する(救急受け入れのある病院が望ましい)
・「アリに刺されたこと」「アナフィラキシーの可能性があること」を伝え、すぐに治療してもらう

「腕を縛って毒の巡りを止める」はNG

刺されたら安静にし、可能なら市販薬を塗る程度で大丈夫。気分が悪くなるなどの症状が出ればすぐ病院に行きましょう。『刺された腕を縛って毒の巡りを止める』などは血液循環が乱れるのでやってはいけません

ということで、刺されたらとりあえず安静にして様子を見ることが大事といえそうです。

被害を予防するために

ヒアリの見分け方や遭遇した際の対処法を習得したところで、最後に被害を受ける前の予防法を押さえておきましょう。
すでに何度も取り上げている「気をつけて!危険な外来生物」では、日常生活において注意する点として以下のような項目を挙げています。

<被害が起きやすい状況>
・農作業、庭の手入れや家庭菜園など屋外での作業。
・野外においてあるサンダル等の靴を履く。

<予防策>
・野外での作業時にはプラスチック製の手袋を着用する等、肌を露出しない。
・アリが体をのぼりにくくするために、ベビーパウダーを靴やズボンに振り掛けておく。
・サンダル等を外に置きっぱなしにしない。

これらのほか、生息しやすい場所の確認や刺傷機会の低減策など、より詳しい予防策が以下のPDFにまとめられています。

在来種を殺さないように注意!

駆除方法などを長々と説明しておいてなんですが、あまりにも過剰な対応はとるべきではないようです。ヒアリと関係のない在来種を殺してしまったという書き込みを目にすることがありますが、かえって逆効果になる可能性もあるどうです。

駆除方法そのものは液体殺虫剤を散布する、熱湯をかける、毒餌を使用するなど一般の人でも可能な手法が多いが、公園などでうかつに実行すると、日本にもともといる在来種のアリを殺してしまいかねない。
環境省に現状を問い合わせたところ、7月7日時点ですでに一般の人からヒアリではないかという連絡が多数寄せられているが、本当にヒアリだった例はまだ1件も見つかっていない。だからといって安心できることにはならないが、疑わしきはすべて駆除するといった姿勢は推奨していないという。
在来種のアリは、その土地に生息していることで外来種の侵入を抑制するはたらきもある。駆除する量にもよるが、あまりに度を過ごして在来種を減らせば、逆効果になりかねない。

多くのメディアで「殺人アリ」などとセンセーショナルに報じられているヒアリですが、そのイメージほどの人的被害は起こりにくいようです。今の段階で私たちにできることは、まずはヒアリらしきものを見つけたら自治体や専門家に連絡。その上で国や各自治体の対応で日本にヒアリが定着しないよう祈りつつ、各自で対処法を身につけていく…といったところでしょうか。

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