特集2016年12月11日更新

狭い!深い!「専門誌」のディープな世界特集

雑誌の販売数が激減している昨今ですが、世に専門職とマニアのいる限り、専門誌の種は尽きまじ…とばかりに様々なユニークでマニアックな専門誌があるので紹介します。その内容のニッチさ、そして深さを楽しむと同時に、読んでみたら意外と面白そうな内容のものも。各業界のファン層拡大を祈りつつ、その深淵を覗いてみて下さい。

月刊住職

発行興山舎
発売日毎月1日
創刊1974年
定価1,300円(税抜)
購読層伝統仏教寺院(約8万カ寺)の住職、僧侶、寺族(住職夫人や家族)ならびに伝統仏教界関係者
公式サイト1974年創刊住職の実務誌『月刊住職』

僧侶の4人に1人が読む「業界ナンバーワン雑誌」

「『月刊住職』は仏教界の“ゴシップ誌”ですよ。下世話な面白さがあるんです。大半の読者の目当ては、やっぱり他の寺の不祥事。名刹のスキャンダルが出たときは、寺内で回し読みしていますよ。檀家さんの前では、おおっぴらには読めない雑誌です(笑い)」
『月刊住職』(興山舎刊)は毎月1日発売、年間購読料は1万5000円だ。9月号(9月1日発売)の目次には、『首都圏開教のための大霊園の利権』『寺口座で誘う開運祈祷は詐欺か』『お布施の搾取と行方』など、何やら物騒なタイトルがズラリと並ぶ。

詐欺、DVなど寺社に関する事件・事故を綿密に調査し、“スクープ記事”も少なくない。また、僧侶と貧困に関するルポや婚活などの幅広い範囲の取材記事も。さらには「ポケモンGO」の対策もいち早く取り上げるなど、フットワークも軽い。

月刊朝礼

発行コミニケ出版
発売日毎月1日
創刊1984年
定価年間購読8,616円(税込)
購読層製造業やサービス業の経営者
公式サイト読めば今日から人生が変わる『月刊朝礼』 / 株式会社コミニケ出版

朝礼のスピーチネタ探しに最適「365日分の“ちょっといい話”」

「毎朝会社でやっている朝礼をただの業務連絡以上のものにして、少しでも働く人たちの気持ちを前向きにできればいいなと思っています。とはいっても、そんな大層なことではなくて、『月刊朝礼』に載っている文を読んで、ほんの少しだけ何かを考えてくれればいいんです。すごくやる気がみなぎるようなことはなくても、“しんどいけど今日もがんばろか”と思ってもらいたい。そして、それを毎日毎日継続していく。そうすれば、当たり前のしょうもないような話でもひとりひとりの心の中に溜まって何かの変化をもたらすかもしれませんから」

愛鳩の友

発行愛鳩の友社
発売日1,4,7,10月の25日
創刊1956年
定価2,400円
購読層愛鳩家
公式サイト愛鳩の友

創刊60年、鳩レースの専門誌

現在の愛鳩人口は1万人。日本伝書鳩協会、鳩レース協会と大きな団体が2つあって、春秋には桜花賞など大きなレースが全国各地で開催されている。
「その結果を掲載するのが本誌の役割の1つ。賞を取った人の祝賀会の様子も載せています」
とはいえ、同誌の読者が高齢化の一途をたどっているのも現実で、「ありがたいことに60年前の創刊時から、ずっと読んでくださっている人もいます」と明神さん。

鳩レースは、同一地点から同時に放し、帰ってくる速さを競うもの。雑誌には「カリスマ愛鳩家」の巻頭カラーグラビアや飼い方のDVDが付録につく号も。昨年秋には創刊60周年を記念して、国際レースも行われた。ちなみにレース用の鳩は公園にいるドバトとは違い、血統書もあり1羽10万円は普通で、血統のいい鳩は100万円単位なんだとか。

月刊愛石

発行愛石社
発売日毎月10日
創刊1983年
定価1,400円(税込)
購読層50~90才の山や河原の自然石を愛でる人たち
公式サイト水石の雑誌 月刊愛石

室町時代から続く由緒ある趣味「石を愛でる」人のための雑誌

「日本中で“探石”の大ブームが起きたのは昭和35年から40年にかけて。1000万円で買い取られた石があったそうです。戦前では家一軒と、豊臣秀吉の時代は城と交換した殿様もいたそうですよ」
立畑編集長の言葉に思わず身を乗り出すと、「いやいや、今は20万円の値段がつけば大したものですよ。多くは数万円。1000円のものも、値がつかない石もあります」とのこと。

雑誌には、形の良い石の写真はもちろん、名石のとれる“名所”やそこにたどり着くまでの過酷な道のりを紹介する記事も。ちなみに編集やカメラ、デザイン、雑誌の発送、事務仕事はたった一人で行っているとのこと。

室内で観賞する石を水石といって、台座や水盤に据えて観賞する風雅な趣味が、盆栽と並んで、室町時代にはすでに確立していたそうだ。
河原に石を探しに行くのは「探石」で、その仲間は「石友」。石は拾う、ではなく「揚げる」と、独自の“石語”がある。

ビバリウムガイド

発行エムピージェー
発売日3,6,9,12月の24日
創刊1997年
定価1,300円(税込)
購読層爬虫類・両生類が好きな人、飼育している人
公式サイトビバリウムガイド

トカゲ・ヘビ・カエル好きのバイブル。爬虫類・両生類飼育専門誌

記事によれば、世界で唯一、生きた姿を拝めるのがiZooで、記者さんはその幻のトカゲを「触り」「撮影」したのだが、レポートから伝わる感動と興奮の度合いが半端ない。果たして読者も「そうそう」と頷いているのかどうかはわからないけれど、「トカゲに触って涙する世界」があることを、こんなにも情熱的に文章にできるんだと感動さえ覚える。

ビバリウム(Vivalium)とは、飼育する生き物がもともと生活していた生息地の環境を、人工的に再現して育てること。美しい写真はもちろんのこと、とにかく記者の情熱がすさまじい。全515種類の爬虫類・両生類の「飼育ガイド」を紹介したり、大陸別の生き物をじっくり開設したり。最近爬虫類・両生類をペットとして飼う人が増えている背景にはこの雑誌の存在が大きいようだ。

月刊廃棄物

発行日報ビジネス
発売日毎月5日
創刊1975年
定価1,810円(税込)
購読層地方自治体、中央省庁、廃棄物処理業者ほか
公式サイト月刊廃棄物

廃棄物処理に正面から取り組む

廃棄物を鑑賞するための本ではなく、大真面目に深刻な廃棄物問題に取り組み、ごみ処理やリサイクルなどの実際的な解決方法を具体的に紹介する雑誌なのだ。

基本的には自治体・企業向けだが、リサイクルのための分別方法や特殊なごみの対処方法(最新号は「エンジンオイル」)、環境関連のゆるキャラ「ECOキャラ」の紹介ページなんてのも。また、下の記事の遺品整理に関する情報も興味深いです。

耳を疑うような遺品整理の現実を記事は伝える。
〈ご遺族の意向を受けて供養する目的で寺院や神社に運んで、お焚き上げやお祓いなどの宗教的な儀式を行う場合には、その供養する特定の遺品については、廃棄物処理法上の廃棄物には該当しないため、(中略)遺品を供養する目的といいながら、許可なく遺品を運搬し、実際には廃棄物として処理している業者が…〉

家主と地主

発行全国賃貸住宅新聞社
発売日毎月15日
創刊2003年
定価690円(税込)
購読層賃貸不動産オーナー、不動産投資家、建設会社・工務店
公式サイト家主と地主.com 不動産オーナーを応援するニュース&データベース&エンタメサイト

ニーズ増で絶好調、季刊から月刊へ

『家主と地主』は『週刊全国賃貸住宅新聞』という業界紙から派生した雑誌で、2003年に創刊された。読者の多くは、文字通り家主や地主で、不動産投資や賃貸経営、相続などに関する情報を提供している。
「全国に家主と呼ばれる人々は300万人強います。“大家さん”というと年配の人というイメージがありますが、最近は不動産投資をするサラリーマンの読者が増えています」(永井氏)

このご時世に刊行ペースをアップできるとはその需要の大きさがうかがえる。なんでも全国紙に大きな広告も出しているそうで、その勢いは衰え知らずのようだ。情報もそうだが読み物の面白さもあり、「庭にワニが出た」という驚きのエピソードを紹介しつつ、具体的な解決方法を提示するなど、その“実用性”も人気の秘密かもしれない。

〈「庭にワニがいるんです。どうすれば良いですか? 怖いです!」〉

家主は半信半疑ながらも他の入居者に外へ出ないよう連絡したうえで現場に向かうと、パトカーや救急車、消防車が駆けつけ大騒ぎになっていた。入居者がパニックになって通報したのである。
対応に困り、爬虫類の販売業者に連絡したところ、ワニにICチップが埋め込まれていたため、飼い主が判明し、専門家らとともに捕獲に成功。けが人も出ず、ことなきを得た。
家主の締めのコメントは、〈今後起きるかどうかわからないが、専門機関に連絡して、飼い主を割り出すとスムーズに対応できる〉。このアドバイスが本当に参考になるのが、この雑誌の面白いところだ。

月刊文具

発行月刊文具新聞社
発売日毎月月末発行
創刊1949年
定価1,000円(税込)
購読層文具・事務用品小売り店、卸業者、文房具製造メーカー、文具売り場を持つ他業種小売店のバイヤーなど
公式サイト「月刊文具」文房具・紙製品・事務機器・オフィス家具・印章用品業界 専門誌

書道からスマホ用まで。文具専門電子書籍雑誌

「最近、文具売り場が華やかになったと思いませんか? きっかけは“不況”で、7~8年前から大手企業がノートと筆記用具の常備をやめ、各自で買うように、という方針を打ち出したことなんです」
『月刊文具』の編集長・真壁一弘さん(46才)は語る。毎日使うものを自分で買うなら、少しくらい高くても、使いやすいものがいい。その結果、個人向け文房具の売り上げが上がったというのだ。

上記の記事にあるように、最近プチブームの文具。文具についてアツく語る編集長に、興味のない奥さんが冷たい眼差しというオチも面白い。なお、Infoseekニュースに記事がなかったので紹介できなかったが、文具業界の専門誌には月刊「BUNGU TO JIMUKI」という、1923(大正12)年創刊の老舗雑誌もあるそう。

フードジャーナル

発行フードジャーナル社
発売日毎月15日
創刊1982年
定価1,728円(税込)
購読層大豆加工業者、スーパーバイヤー、豆腐製造機メーカーほか
公式サイト豆腐・納豆等の大豆食品業界の総合専門誌「月刊フードジャーナル」

大豆と豆腐などの大豆加工食品専門誌

「原材料は安かった大豆と、少量の凝固剤で、7割は水です。それを作って売れば日銭が入る。朝早くからコツコツ働く親の背中を見て、子供も真面目にコツコツ勉強して、みんな高学歴になる。でも豆腐店の大変さを知っているから、親の後は継ぎません」
それが今日の後継者不足を招いた一因だが、それだけではない。豆腐店で成功した親は、大きな土地を手に入れて銭湯に商売替え。それで儲かるとマンション経営でアガリ、と西尾さんの話す、町の“豆腐店すごろく”は興味深くて、思い当たることばかり。

食べない日はない食材、大豆。豆腐だけでなく大豆の加工食品は数多いので、そこにターゲットを絞った専門誌があることにも頷ける。ただ、記事でも語られている「街の豆腐屋が減っている理由」がなんとも切ない。スーパーではなくお豆腐屋さんで豆腐を買いたくなる雑誌だ。

月刊石材

発行石文社
発売日毎月15日
創刊1980年
定価1,887円(税込)
購読層全国の石材業者、中国の石材業者、関連業者
公式サイト月刊石材

建築やお墓に欠かせぬ「石」専門誌

「世界中のどこの国にもお墓があって、人が死ぬと宗教や風習を背景にした埋葬の仕方をします。いわば、その国の文化そのものですね。それが近年、異業種の参入やお墓離れの進行により、全国で1万軒以上ある墓石業者は四苦八苦しています」
そう語るのは、『月刊石材』の編集長・中江庸さんだ。なかでもいちばん様変わりしているのは、遺骨の埋葬法だという。

お盆といえばお墓参り。しかしそのお墓参りをする人も減り、また納骨やお墓の形態変化で墓石の需要も減少しているのだとか。最新号では全国の「ブランド石」の紹介や「全国石工サミット」のレポート、「お地蔵さん」についてもコラムも。

月刊糖尿病

発行医学出版
発売日毎月20日
創刊2009年
定価2,700円(税抜)
購読層医療関係者、糖尿病患者
公式サイト医学出版_月刊糖尿病

豪華執筆陣の糖尿病専門誌

『月刊糖尿病』(医学出版刊)は毎月20日発売、定価は2700円だ。最新号の2016年11月号では「糖尿病・うつ・睡眠障害による負のトライアングル」と銘打ち、〈血糖コントロールと睡眠障害との関係〉〈睡眠障害が糖代謝に与える影響とそのメカニズム〉などの特集が組まれている。

糖尿病専門の月刊誌ってまたニッチな…と思いきや、ちょっと調べただけでほかにも「糖尿病診療マスター」(月刊)、「内分泌・糖尿病・代謝内科」(月刊)、「糖尿病News」(年4回)、「糖尿病の最新治療」(季刊)と多くの定期刊行誌が。その中でもこの「月刊糖尿病」は糖尿病の権威をはじめとする執筆陣の豪華さ、情報の正確さ、カバーする情報の広さなどから、糖尿病専門のみならず「医学系専門誌として業界ナンバーワンを自負」しているんだとか。

塗装技術

発行理工出版社
発売日毎月1日
創刊1962年
定価1,300円
購読層各種生産会社技術担当部課、建築塗装土木塗装関連業者、塗料メーカー技術担当部課ほか
公式サイト株式会社 理工出版社

この世のありとあらゆるものに 塗装専門誌

船、飛行機、ロケット、宇宙衛星、戦闘機、自動車、建物の外と内、鉄橋、カメラ、パソコン…。
「とにかく世の中に存在する“物”で塗装と無縁のものはありません。ありとあらゆるものは塗られています」と、記者の厚塗り顔をジッと見ながら、野本実編集長(58才)は断言する。

「塗装の目的は保護と美観と機能の3つ」というフレーズは覚えておきたい。まさに我々の生活と密接に関係しているが、あまりにも身近すぎて意識することが少ない塗装についての専門誌。「目に見えない塗装」もあるからさらに気づかない。年間4兆円産業というのもピンと来るような来ないような。

外交

発行外務省
発売日奇数月の月末
創刊2010年
定価880円(税込)
購読層外交にかかわる政府関係者、大学の先生や学生、メーカー、商社などのビジネスマン
公式サイト外交WEB

外務省が全額出資の外交専門誌

同誌の製作費は外務省が全額出資しているが、広報誌ではない。外務省職員はあくまでオブザーバーとして編集委員会に出席するのみで、基本的に口出しはせず、毎号のテーマや寄稿者は独立した編集委員会が決めているという。

来年にはアメリカの政権が替わり、お隣の中韓朝との関係も刻一刻と状況が変わっていく状況にある日本。とはいえ国同士のことなので、どうしても興味を持ちにくいジャンルではあるが、日本の平和のためにも、少しでも知っておきたいところ。そのあたり編集部も意識してか(?)「漫画をみれば世界がわかる」なんていうコンテンツもある。

近代盆栽

発行近代出版
発売日毎月5日
創刊1977年
定価1,188円(税込)
購読層盆栽愛好家
公式サイト月刊「近代盆栽」

完成に10年。長~く楽しめそうな趣味「盆栽」専門誌

何がどう近代なのかはわからないが、盆栽愛好家のための情報満載な1冊が『近代盆栽』。
育て方から枝葉の刈り込み方まで、丁寧な記事が並ぶ。
目を引いたのは「0からの樹作りにチャレンジ」のコーナー。
今回のテーマは「実生からクリの斜幹樹を目指す」で、年代別設計図と作業の方法が解説されている。1年目「針穴かけ」、2年目「植え替え(3月)」、3~4年目「剪定(2~3月)」、5~6年目「剪定、浅鉢植え替え(3月)」、7~10年目「開花、結実」と、ある。

「盆栽は宇宙だ」という言葉がある。盆栽はそれそのものよりも盆栽を通した「小さな世界」を想像して楽しむもの。小さな鉢の上でも、そこに表現されているのは無限の宇宙だったりすることもあるのだ。そもそも、プラモデルやフィギュア、ジオラマなどに通じるものもあるので、日本人向けの趣味ではある。


日本には約2000の業界専門誌(紙)があるんだそうです。その中のほんの一部ですが、紹介してみました。雑誌によっては大きな図書館で読めたりするものもあるので、もし興味を持ったものがあれば、ぜひ一読を。そのディープな世界にふれるきっかけになるかも。