「機能性表示食品」の2つの問題点…トクホとの違い・実際の効果は?
オールアバウト / 2024年5月5日 20時45分
【薬学部教授が解説】「機能性表示食品」と「特定保健用食品(トクホ)」の違いを理解せずに、製品を選んでいませんか? それぞれが制定された背景、問題点、消費者として注意すべきことを、わかりやすく解説します。
「機能性表示食品」と「特定保健用食品(トクホ)」は、どちらも「健康の維持・増進に役立つ食品の機能性を表示できる」という制度を利用した食品ですが、大きな違いがあります。企業が製品を開発して売り出すとき、「トクホ」よりも「機能性表示食品」の表示を取得する方が実際にはかなり簡単という背景もあります。
2つの表示の違いと、筆者が感じる問題点・注意点を、わかりやすく解説します。
「特定保健用食品(トクホ)」が法制化された背景と目的
私たちが健康で長生きするためには、日常的な健康管理が大切です。健康に気をつけず、いよいよ体調が悪くなってから病院を受診しても、重症化してしまった分、治療は難しくなりますし、お金も時間もかかります。これは個人の問題にとどまらず、国として医療費の負担が大きくなるという問題につながります。そうして1991年に開始されたのが「特定保健用食品(※以下「トクホ」と表示)」です。私たち一人一人が日頃から食生活に気をつけて健康維持に努めることが、疾病予防、ひいては医療費の抑制につながると期待され、法制化されました。
企業としては、「トクホ」を取得すれば、健康維持に役立つ成分を含んでいることを食品にはっきりと表示して販売することができるので、売り上げを伸ばすビジネスチャンスになったとも言えます。「コレステロールの吸収を抑える」「血圧が高めの方に適しています」などの表示をした食品が相次いで売り出されることになりました。
ただし、「トクホ」として製品を売り出すためには、企業が製品ごとに有効性や安全性について十分な検証をしたうえで、国の審査を受けて許可を得なければなりません。また、違反に対する罰則があるなどハードルが高く、製品化できるものは限られていました。
中にはいったん認可されて発売されたものの、十分な効果が認められないことが判明したなどの理由で、発売後に取り下げとなる商品もありました。企業としては「トクホ」は取得も維持も負担が高い面があります。
「機能性表示食品」とは……「トクホ」との違いと筆者が感じる2つの問題点
そこで、2015年に政府が規制緩和の一環として創設したのが、「機能性表示食品」です。これは「事業者が安全性と機能性に関する科学的証拠と考える資料を消費者庁に届け出れば、健康の維持・増進に役立つ食品の機能性を表示できる」という制度です。簡単に言うと、「国の審査を受けなくても届出さえしておけば、企業の責任で、健康に役立つ旨を商品パッケージに表示して売ってもいい」という制度です。トクホに比べて、企業の負担は「お手軽」と感じられると思います。2015年から現在までに7000点を超える製品が販売されています。
正直なところ、筆者自身は、この制度ができたときから、いつか問題が起きるのではないかと懸念していました。消費者の立場からみると、2つの被害がありえます。
一つは、実際にはあまり効果が期待できない商品に高額な出費をしてしまう可能性があること。筆者の知り合いに、「膝の痛みや動きを改善してくれる」とのふれこみで盛んに宣伝されている製品を5年間買い続け、結局何も良くならなかったという方がいました。
ご本人にとっては「お守り」のような存在だったようなので強く否定はできませんでしたが、限られた収入しかない年配者にとって、無駄な出費をさせられたという意味での経済的な被害があったと思います。
もう一つは、予期しない副作用などで、健康を害してしまうこともあるということ。最近問題となっている「紅麹サプリ」などは、その典型でしょう。
「機能性表示食品」は、企業の自己責任で運用されており、被害があっても国に責任はありません。医薬品と異なり、万一のときの救済制度はないので、その点でも、危うい制度だと思います。
筆者自身は、経済効果をねらって安易に導入した2015年当時の政府には大きな責任があるのではないかと感じる制度ですし、個人的な意見としては、制度自体を廃止することも検討すべきだと考えています。
「トクホ」なら安全なのか? 消費者が考えるべきこと
さらに付け加えると、「機能性表示食品」よりは信頼性が高いとみなされる「トクホ」にも問題がないわけではありません。企業は、有効性と安全性を確認するために、自ら試験を行い、十分な証拠を示すよう努力されていると思いますが、実際にはまだまだ不十分です。医療者・科学者から見ると、企業が「エビデンス」と称して提供しているデータが、消費者を惑わすような方法で使われているケースも見受けられます。
企業が消費者向けに示しているグラフを見ると「すごい効果がある製品」のように見えるものでも、グラフの縦軸の範囲をよく見ると、都合のいい部分だけが切り取られたものだったり、統計解析が適切でなかったりと、正式な意味では、とても「エビデンス」と言えないレベルのものもあるのが、残念ですが実情です。
いずれにしても、「トクホ」も「機能性表示食品」も、「食品」であることに変わりはありません。病気を治療するための医薬品とは根本的に違うのです。本来、食べ物は、生きていくために必要な栄養素などの物質が不足しないように体に取り入れるために摂取するものです。
そのために重要なのは、多種類をバランスよく、かつ適量を摂ることです。特定の成分を大量に摂取する目的で特定の食品・製品に頼るのは、いい方法とは思えません。
また、本当に体調が悪いのなら、自己判断で「とりあえず食べ物で手軽に解決しよう」とすることは、間違いです。まずはしっかりと、専門の医療機関を受診して相談すべきでしょう。
また、「病院でもらった薬を飲んでも良くならないけど、よく宣伝されているあの食品で治るかも」と考える方も少なからずいますが、はっきり言ってそれは妄想です。薬を超える「効果」を食品に期待すること自体が間違いであると心得てください。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))
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