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解消に向かう米小売の在庫問題、次なる焦点は「小売が価格決定権を取り戻せるか」

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年4月30日 20時58分

tdub303/iStock

米小売業界では、2022年にパンデミック後の消費の中心がモノからサービスに移行する傾向を読み切れず、不良在庫が積み上がるチェーンが続出。2023年も在庫は高止まりして、各社の収益を圧迫した。だが、サプライチェーンの混乱が収まり、値下げによる在庫圧縮も進んだことから、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)など大型店舗はもちろんのこと、アパレル各社などでも在庫適正化が業績改善の理由に挙げられるようになった。こうした中、業界における2024年の関心事は、「過剰在庫の解消で小売が価格決定権を取り戻せるか」である。

米国勢調査局による「米小売在庫統計」によれば、パンデミック後の消費の中心がモノに集中していた2021年には在庫が6000億ドル(約90兆円)台と低めで推移していたが、サービスに消費が移った2022年には8000億ドル(約120兆円)に近づいて高止まりするようになり、2023年秋には8250億ドル(約123兆円)を超えた。(図表はYChartsより)

小売各社に共通する
「在庫圧縮で身軽に」

 ターゲットは3月5日に発表した2023年11月~2024年1月期(第4四半期)決算で、既存店売上高が前年同期比4.4%減と3四半期連続の減収となったものの、裁量支出カテゴリーにおける在庫を前年同期比13%圧縮したことで調整後1株利益が市場予想を上回った。

 ターゲットの在庫は、2022年2~4月期に前年同期比43%と膨れ上がり、2022年5~7月期にも36%上昇するなど、大きな問題となっていた。そのため、第4四半期の在庫圧縮による収益改善がウォール街に好感され、株価が150ドル近辺から170ドル以上に上げている。

 同社のブライアン・コーネル最高経営責任者(CEO)は、決算発表後に出演した米経済専門局CNBCの番組で、「弊社は消費者の出費のパターンが(モノからコトに移り)変化したために大胆な在庫圧縮を敢行し、第4四半期は望んだレベルまで在庫問題を解消できた」と語った。

tdub303/iStock

 この発表会でコーネルCEOは在庫圧縮がいかに収益を向上させたか、その重要性を繰り返し述べている。具体的には、売れ行きのよい食料品やプライベートブランド(PB)必需品の発注を増やす一方で、裁量支出カテゴリーの商品在庫を適正水準に減らす新しい方法を採用したという。

 在庫圧縮に取り組んで業績を改善させたのはターゲットだけではない。ディスカウント家庭用品チェーンの米ビッグロッツ(Big Lots)でも、「売れ筋であるペット商品や食料品の在庫を積み増す一方で、成績の悪い商品は早期に在庫を減らす」手法が奏功していると伝えられる。

 業界の新たなトレンドを分析する米調査企業のテルシー・アドバイザリーグループ(Telsey Advisory Group)は、「米デパート大手メイシーズ(Macy’s)が、管理職を新たな需要創造に専念させる一方で、在庫一掃のための値下げやプロモーションは減らすことを目標にしている」と指摘。米小売の焦点が「売れ筋強化による在庫削減」という新しいフェーズに移行していることを示唆した。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「小売各社が(必要な在庫しか手元に持たない)ジャスト・イン・タイム方式を再導入している」と報じている。

 翻って、アパレル大手の米ギャップ(Gap)は、2023年11月~2024年1月期に在庫を前年同期比16%削減したことなどが奏功し、売上総利益率が39.9%に達したと発表した。

 カジュアルブランドの米アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)でも、2023年11月~2024年1月期に姉妹ブランドであるホリスターの在庫圧縮が進み、収益が改善していると、フラン・ホロウィッツCEOが語っている。

 ウォルマートは2023年10~12月期において、在庫を前年同期比で4.5%減らしたことなどが貢献し、営業利益が10.9%上昇している。この他にも、小売各社の決算発表で「在庫問題解消による収益向上」が大きなテーマとして浮上しており、ひとつのトレンドになっている。

現場経験とAIで在庫レベルを引き下げ

 ここで、ターゲットがどのようにして在庫を圧縮したのかを、決算発表におけるコーネルCEOの発言から読み解くと、面白い工夫があったことがわかる。同社で2022年に在庫が積み上がり問題化した際に、経営陣は人工知能(AI)による在庫適正化を導入した。

 しかし、AIの分析や予測のみで在庫が減らせたわけではない。ターゲットは、在庫圧縮担当チームを結成し、AIの分析と併せてチームの知恵で値引き率を下げながら、同時に在庫も圧縮していったのである。人材の現場経験とAIが相乗効果を発揮したと言えよう。

 こうして見てきたように、米小売各社は「売れ筋の在庫積み増し」「売れない商品の在庫圧縮」で収益を伸ばすことに成功しているようだ。

 こうした中、米金融大手バンクオブアメリカ(Bank of America)のアナリストたちは2月21日に発表した分析で、米小売各社の運送業者への支払い額から業界の在庫レベルの推定を行い、在庫と売上の比率(バランス)が適正水準に近付いていると結論付けた。

 その上で、「2023年に見られたような在庫一掃のための値引きの必要性が低下した」として、2024年に小売各社が値上げによる価格決定権をある程度取り戻す可能性に言及した。

 また、コンサルティング大手の米ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)のポール・ゴイダン氏は、「中東の紅海における情勢不安定化などの要因で、サプライチェーンが再び混乱し、コスト上昇による値上げ圧力がかかる可能性」を指摘している。

 過剰在庫の解消や手元在庫の引き締まりによる米小売各社の価格決定権は、さらに強まるかも知れない。

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