平野啓一郎&大島育宙「オッペンハイマー」を熱弁!「原爆に対して僕たちが抱く疑問と非常にうまく重なっている」
映画.com / 2024年4月22日 15時0分
続いて大島氏は、このように指摘した。
大島氏「トーンとしては、オッペンハイマーの罪をどれだけ贖罪しても償いきれない罪として描いている。平野さんがお話しされた原因と結果、時系列の操作という部分にもつながってきますが、作品が円環構造になっている。映画の最初の場面と最後の場面が重なるようになっていて、オッペンハイマーのアップで始まって終わる。オッペンハイマーという人物をこの罪から逃さないぞというような描き方」
原作も読み込んでいる平野氏と大島氏。原題の「アメリカン・プロメテウス」に触れると、平野氏は「ノーランはプロメテウスになぞらえるようなオッペンハイマー観を皮肉的な目線で見ている」と話すと、大島氏は「人間の生活に欠かせない火をもたらしたプロメテウスだが、原爆の開発をそれになぞらえるのは迂闊。そこにノーランが乗っかっているかいないかという視点は重要だがあまり語られていない」と応じた。
ノーランの全作品を観返したという平野氏。「2000年代は敵を悪魔化して戦争を正当化するような言説があったが、『ダークナイト』トリロジーなどを観ていると、ノーランはアメコミのヒーローを使って『悪との戦い』というものを非常にまじめに考えていた監督。どれだけダメな社会に見えてもそれを全滅させてはいけない。バットマンという超法規的な存在が悪と戦うが、最終的には、バットマンがいることでジョーカーのような存在が出てくるから、市民社会が自立的に対処しなければいけないという終わり。そういった『必要悪としての正義』の描き方がある意味でオッペンハイマーにも反映されている。その意味ではノーランはオッペンハイマーに対して懐疑的なところがあるのではという印象を受けました」とノーラン監督が描き続けてきたテーマに言及した。
イベントの結びには「もう一度観るとしたら注目ポイントはどこか?」という問いに対して、平野氏は「過去作を見ると、あの主題が『オッペンハイマー』に反映されているなという部分も多いので、特に『ダークナイト』トリロジーを観てからだと気が付くことが多いと思います」と強調する。
大島氏は「1回目の鑑賞では『なぜこんなに複雑に?』と感じられる方もいるかもしれないが、何度も観ると、丁寧なわかりやすい作り方であるということに気が付く作品。何度も観ることで時系列をシャッフルすることの意味がわかります。劇場でいろいろな形式で観ると感想が変わってくる作品かなと思います」と締めくくった。
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