両親の遺産を「ママ活」で食いつぶす47歳独身女性を襲った「信じられない悲劇」
Finasee / 2024年5月8日 17時0分
Finasee(フィナシー)
窓の外から怒鳴り声のようなものが聞こえてきて、美香は目を覚ます。
カーテンの隙間から外をのぞくと、既に高く上りつつある太陽の光が差し込んで目をくらませる。けれど目はすぐに光に慣れ、部屋に入り込んだ目の前の歩道で上司らしきサラリーマンが部下らしき男をしかっているのが見えた。
「どっちもバカね」
美香はカーテンを閉めてリビングに向かい、お気に入りのアロマキャンドルに火をつけ、コーヒーを入れる。美香のいつものルーティンだった。
時刻は11時すこし前。
今日は早起き。美香はそう自分を褒める。コーヒーを飲みながら、テレビを見る。このまま1日を終えるのはもったいない。LINEの友達欄をザッピングしながら、今日は誰に声をかけようとかと考える。
今年で47歳になる美香は学生時代に1週間ほどやった派遣アルバイトを除けば仕事をしたことがなかった。
しかし20年以上無職でも、美香は金に困ったことがない。理由は美香の両親が残した莫大(ばくだい)な遺産だ。
この家もその1つ。
美香の父親は会社を経営していて、母は専業主婦だった。美香が大学3年のとき、結婚記念日に旅行に行った両親は交通事故に巻き込まれ亡くなった。
当然、美香だって悲しかった。葬儀の日はまともに立っていることすらできず、手が震えて骨だってろくに拾うことができなかった。しかしその悲しみを埋めて余りあるかのような遺産を手にすることになる。
父の財産、事故相手からの慰謝料、保険金。
その日から大学にも行かず、就活もせず、ただただ遊ぶだけの生活を20年以上続けている。
当然、この生活が終わることなど美香は考えていなかった。
マッチングアプリで出会った20歳以上年下の男性夕方になり、美香は鼻歌を歌いながらメイクを始める。
今日は凌久と会う日だった。凌久は24歳で役者志望。毎日、稽古とオーディションを受ける日々を送っていた。
凌久とはマッチングアプリで出会ってから、週に2度は会うようにしている。ミシュラン常連の有名なシェフが作るフレンチへ連れて行き、誰もが憧れる高級ブランドのコートやスーツを買い与えた。
美香には他にも同様の男が数人いるが、その中でも凌久が1番のお気に入りだった。
予約していたイタリアンにやってきた凌久は落ち着かないように辺りをキョロキョロしている。
「どうかしたの?」
「いや、こういうお店には美香さんと以外で来ることがまずないので。いつまでたっても慣れないんですよ」
「そんなんじゃダメよ。あなたは俳優で売れるんだから、今のうちからこういうお店に慣れておかないと」
美香の言葉に、凌久は背筋を伸ばす。凌久が今日着ているジャケットも、つい先月に美香が買い与えたものだ。美香の見立ては完璧で、動かず黙って座っていればきれいな顔立ちも相まって美術品のようにすら見える。
「どうオーディションは? 順調?」
「いえ、それが、難しいですね」
落ち込んだ凌久の顔を見て、悲しいような安堵のような複雑な気持ちになる。
「凌久を落とすなんてその面接の人は見る目ないのね」
「いや、それよりもやっぱり大手事務所に所属しないと厳しいっすね。特にテレビや映画はそういうのがないと……」
「じゃあ、所属になればいいじゃない」
凌久は苦笑いを浮かべる。
「そう、ですね。そういうのもやっていきたいんですけど、公演もあるし、バイトもあるしなかなか時間的に厳しい部分はありますから……」
「いろいろと大変なのね……」
貧乏人は、とは言わなかった。代わりにエルメスのバッグから小包を取り出して凌久へと渡す。
「それじゃこれ、あなたにあげるわ」
「え、これって……」
「良い時計でしょ。カルティエよ。私も好きだからおそろいでどうかなって思って」
「あ、ありがとうございます!」
凌久のその笑顔を見ると、美香もうれしくなる。
凌久は他の男とは違う。夢を追っていて、真面目で、そして大学時代に好きだった男にそっくりなのだ。
かつて相手にされなかった男が目の前にいるようで、美香は笑みをこぼす。
友人からの忠告「へえ、そうなんだ」
興味なさそうに摩耶はコーヒーを飲んだ。凌久の話をしているのだが、摩耶は愛想のない反応を繰り返していた。
摩耶は大学時代の友人で、27歳で結婚し、2人の子供を育てている。旦那は商社で働いているらしいのだが、コロナによる不況のあおりを受けて年々給料が減っているらしく摩耶も最近になってパートを始めたらしい。
そんな近況に美香は内心では優越感に浸る。金や家族のことを考えながらあくせく暮らすのもそれはそれで悪くなそうだが。
「その時計っていくらするものなの?」
「60万くらい」
美香の言葉を聞き、摩耶の口がへの字になる。
「あんたさ、もうちょっとマシな使い方をしたほうがいいわよ」
「良いのよ別に」
「働かないにしても、ちゃんと投資して増やすとか何かしないと。いざっていうときに困るのは、自分なんだよ」
摩耶のお節介を、美香は鼻で笑う。
「そんなときがないもの」
「お金はもっと大事にしないと」
「あなたはね。私は腐るほどあるんだから、別に大事になんてする必要がないの。それに欲しいものなんて何もないんだから、人のために使うのが良いのよ」
美香の言葉と態度に摩耶はため息をつく。
「……その男さ、本当に大丈夫なの?」
摩耶の心配も美香には嫉妬にしか聞こえない。良い男と関係を持てない女の遠ぼえ。そんな気持ちを隠しながら、美香は笑顔で「あの子は良い子よ」と返した。
燃え盛る部屋の中でこんな暮らしをしていると、毎日が退屈の連続だ。心が動くことなんてめったにない。
しかしこの日はそれがあった。凌久がCM出演の最終オーディションに進んだと言ってきた。こんなことは今までになかった。
今度お祝いをしなくちゃねと連絡し、美香は買い温めておいたワインを開けた。そしてアロマキャンドルをつけ、お気に入りの音楽を流しながらワインを楽しんだ。
……焦げ臭い。
その臭いで意識が戻る。
焦点はまだ定まらないが、意識はさえてきた。そこで自分が酔っ払って寝ていたことに気付く。周りがやけに騒がしい。また例のサラリーマンがしかっているのかもしれない。頭が痛い。黙ってくれ。しかし外から聞こえる声が静まりかえることはなかった。
さすがに一言、言ってやろう。
美香はゆっくりと目を開く。目の前の景色は鮮やかな赤に染まっていた。
熱い。
「何これ……」
目の前で見慣れた調度品や壁が燃えている。悲鳴を上げようとしたとき、煙が喉に入りむせ返る。内側から喉を突き刺されたようで、美香は思わずうずくまる。
家財が爆(は)ぜる音に紛れて、サイレンの音がどんどん近づいてくる。
意識を失いかけたとき、消防士が美香を抱きかかえた。何かいろいろと声を掛けられた気がするが、美香はそれが頭に入ってなかった。
消防士に連れられて家から脱出できた美香は救急車に乗せられた。両親が残してくれた家が囂々(ごうごう)と音を立てながら燃えていた。
●絶体絶命の美香……、命は助かるのだろうか? 後編【「命以外は全て失った…」自宅全焼で男にも捨てられ絶望したママ活女性に差し伸べれらた手の「正体」は…】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
読売テレビ・佐藤佳奈アナ「過呼吸になりました」AKB48合格も断念、アナウンサーとして見つけた居場所
よろず~ニュース / 2024年5月17日 11時30分
-
「命以外は全て失った…」自宅全焼で男にも捨てられ絶望したママ活女性に差し伸べれらた手の「正体」は…
Finasee / 2024年5月8日 17時0分
-
「婚活でセクハラに遭った」34歳ぽっちゃり女性。恋愛経験ゼロから“爆速で婚活卒業”したワケは
女子SPA! / 2024年5月4日 15時47分
-
“将来の義実家”で年収700万円ハイスペ男性が提示された、驚きの「結婚の条件」の中身とは
Finasee / 2024年5月1日 11時0分
-
有名大卒の32歳女性に「ロクな出会いがない」理由。会ってひと目で分かった“致命的な間違い”
女子SPA! / 2024年4月27日 15時47分
ランキング
-
1イオンの「幸せの黄色いレシート」キャンペーン。レシートを使って寄付したいけど、不良品を「返品」できなくなるの?「寄附」と「レシート保管」を両立させる方法を解説
ファイナンシャルフィールド / 2024年5月19日 5時10分
-
2コロナ禍で売上げ95%減となった「地球の歩き方」 Ⅴ字回復遂げ新分野に挑戦 岩塚製菓のおつまみスティックとコラボ
食品新聞 / 2024年5月19日 20時14分
-
3健康サプリを「毎月3万円」購入する80代の母。本人は「健康のため」と言いますが、解約させるべき?
ファイナンシャルフィールド / 2024年5月19日 3時0分
-
4社員16人→200人超に “知名度ゼロ”で新潟に進出したネット広告会社「5年間の成果」
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年5月19日 18時31分
-
5飲むヨーグルトが「乳酸菌バブル」でジリ貧の理由 市場は逆転寸前、かつての人気を取り戻せるか
東洋経済オンライン / 2024年5月19日 7時20分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください