「ヨーロッパのサッカーが合っている」 18歳有望株FWの現在地と未来【コラム】
FOOTBALL ZONE / 2024年4月22日 7時30分
■【カメラマンの目】後藤啓介は「個」が問われるベルギーチャレンジリーグに挑戦
「ケイ!」
試合の残り時間が20分となった時、名前を呼ばれたFW後藤啓介はウォーミングアップを止め、ピッチに立つためベンチへと駆け寄って行った。
話は少し遡る。今年2月に鹿児島で行われていたJ1ジュビロ磐田のキャンプを取材した際に、スポーツダイレクターを務める藤田俊哉氏と話をする機会があった。ここで藤田氏が1月にヨーロッパへ行っていたことが話題になり、その目的の1つに磐田からレンタルという形でベルギー1部アンデルレヒトに移籍している後藤の視察があった。
18歳と若くして活躍の場をヨーロッパに求めた後藤の、サッカー選手としてのさらなる飛躍を目指す場所の第一歩は、アンデルレヒトのセカンドチームであるRSCAフューチャーズである。その後藤は2、3年後には頭角を現すことができるかと藤田氏に質問すると、磐田のレジェンドは、1年ちょっとで次のステージに行ける可能性があると高く評価していた。
現代においては、日本人選手がヨーロッパの舞台でプレーすることは、もはや珍しいことではなくなっている。若くして世界への挑戦を決意する選手も少なくない。そのなかでも後藤はまだ18歳と若く、自らもオランダでのプレー経験を持つ藤田氏がその活躍に太鼓判を押している。
それなら後藤のプレーを実際に見てみたいと思い、4月20日にRSCAフューチャーズが参加しているベルギーチャレンジリーグの第30節対クラブNTX(クラブ・ブルージュのセカンドチーム)戦に足を運んだ。
今年1月に加入し、ここまでリーグ6得点を記録している後藤の言葉を借りると、ベルギーリーグは1部が個と組織、2部(チャレンジリーグ)は個だという。
「1部のアンデルレヒトは(個に加え)戦術とコンビネーションがある。2部はウイングがあまり生かされないで1部より粗削り。体格のいいセンターフォワードに(ターゲットマンとして)当てて、中盤が混戦となってそこからゴールが決まる」という後藤の言葉はチェレンジリーグを端的に表現している。
■物怖じせず、練習から「(自分の伝えたいことを)言います」
後藤が戦っているチャレンジリーグは状況を個人の力で打開することが多い。ただ、その個人による打開も攻守ともにテクニックというよりフィジカルが優先される。指導スタッフたちの頭脳からピッチに立つ選手たちへと託される作戦計画は、「攻撃は自分たちの形を出し、守備は相手のシステムに合わせてマン・ツー・マンで対応する」ことが基本となる。
そのマン・マークによるパワープレーも、クリーンにボール奪うというより、荒く力でねじ伏せるプレーが目立つ。そうしたプレーは局地戦での混戦を生み、お世辞にも美しい攻防とは言えない。
しかし、力技のサッカーにあって、後半27分の1-2と劣勢の状況からピッチに立った後藤は、「最初の1、2か月はマークを受けての切り返しで相手の守備の足が(思っていたより)伸びてきたり、ゴール前での駆け引きの引っ張り合いが(激しく)難しかったですが、今は慣れてきて、ぜんぜん大丈夫です」と語っていた通り、フィジカル面で対等に相手DFと渡り合っていた。
それでいてカメラのファインダーに捉えた後藤のプレーはしなやかだ。局地戦での激しい奪い合いとなるサッカーでは、どうしてもボールタッチに繊細さが失われる。ボールキープも難しくなるところだが、後藤はプレッシャーを受ける状況でも、ゴールを目指す動きやポストプレーといった自分の役割をしっかりとこなしていた。
「マン・マークをされるなかでのプレーは得意だし、このサッカーは自分に合っている」と胸を張る。短期間で6ゴールと結果を出しているからか、自信を持ってプレーしているように見えた。
藤田氏の1年でステップアップする可能性があるという言葉を伝えると、「来シーズンはトップチームに絡めたり、2部でも二桁得点を取れたら次のステージに行けると思う」と彼自身もさらなるステップアップを現実として捉え、思い描いている。
「難しいけど面白いですね。(サッカーに対する)考え方も自分はヨーロッパに合っている。(ゴールを)決めればすべてを受け入れてくれるし、言葉が話せなくても順調に(結果を)積み重ねているとパスも来るようになった」
ボーダーレスなヨーロッパ出身の選手とは違い、島国である日本人の海外挑戦で最初の壁となるのが言葉だ。しかし、後藤はそうしたコミュニケーションの問題でも「まだ簡単な単語でしか話せないですけど、僕は練習の時から(自分の伝えたいことを)言います」と、そんな物怖じしないところも成功の秘訣なのだろう。
長身で高さを武器にし、それでいてフィジカル一辺倒ではなくボール捌きもスムーズにこなす。そうしたタイプの選手は日本ではあまりいない。本格派のストライカーという雰囲気が漂っている。
そんな後藤の来シーズンにはさらなる飛躍が期待できそうだ。(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
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