同じ年収1,200万円・30年来の同期の59歳、2人の部長…「俺の退職金のほうが、1,500万円も少ない」と悲鳴「60歳で収入激減なのに、あいつは旅行三昧」妻に陳謝【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月1日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
入社から退職までを通じた勤務に対して支給される退職金。基本的には働いた期間が長ければ長いほど金額は大きくなります。しかし、同期で同じ年収、同じ役職でも退職金額に大きな差が出るケースがあって……。本記事ではAさんとBさんの事例とともに、退職金の注意点について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。
同期との退職金額の差、1,700万円
Aさんは現在59才。定年退職を控え、先日勤務先の担当者から定年退職前後の手続きなどについて説明を受けました。
説明の帰り、何気なく立ち寄った喫煙所で会ったのは同僚のBさんです。BさんはAさんの同い年で、同じ年度に中途入社し、同じくらいの時期に部長職についた同僚でした。どうやらBさんはAさんよりも一足先に説明を聞いてきたようでした。
2人の話題は自然と定年退職の話になりました。これまで1,200万円程度あった年収が780万円程度に減るということを嘆くAさんを横目で見ながら、Bさんはうれしそうに話します。
「まあ、減るのはしょうがないさ。それより退職金があるだろう。確定拠出年金確認してるか?」
放っておいた確定拠出年金を確認してみると…
確定拠出年金と聞いて、すぐにはわからなかったものの、Aさんは「そういえば退職金が別口座で積み立てられているのだっけ」と先ほど担当者から聞いた話の記憶をたどり、理解しました。
Bさんが話すには、確定拠出年金を株式で運用していたところ、平均利回りが約10%あり、最近は確定拠出年金の評価額が2,200万円近くにもなっているというのです。Bさんは、「60歳から収入は下がるが、この運用益で退職金は約3,000万円を超える。65歳で退職したあとは旅行三昧だ」と喜んでいます。
驚いたAさんは帰宅後、現在の評価額を確認しようと、長いあいだほったらかしにしていた加入者専用サイトのログインIDとパスワードを控えた書類を探し出しました。あわてて契約者専用サイトを開き、評価額を確認するとAさんの現在の評価額は約490万円。Bさんの評価額とは1,700万円程度の差があることが判明しました。
一時金で受け取るそのほかの退職金※とあわせてもトータルの退職金額の差は約1,500万円です。
※退職金制度は2つあるいは3つ組み合わせているのが一般的です。AさんとBさんの勤務先では、会社が積み立てる一時金形式のものと企業型確定拠出年金形式のものが組み合わされています。
「俺の退職金のほうが、1,500万円も少ないなんて!」とAさんは悲鳴をあげます。
「企業型確定拠出年金」のしくみ
AさんとBさんの退職金額において、最終的に大きな差をもたらした主な要因としては、お2人の利用していた企業型確定拠出年金の運用商品の違いが考えられます。
企業型確定拠出年金は、確定給付企業年金や厚生年金基金などと同様に企業年金制度の1つであり、勤務先の企業が導入している場合に加入することができる私的年金です。高齢期の所得確保のために資産を形成する自助努力を支援することを目的としており、拠出された掛金が個人ごとに明確に区分され、個別に運用するのが特徴です。
掛金は主に事業主から拠出されますが、拠出された掛金をどのように運用するかは加入者自ら指図を行います。運用商品は大きく以下の2つに区分されます。
・元本確保型
・価格変動型
元本確保型は、満期と元本が提示されている金融商品で、たとえば定期預金や個人年金保険などの保険商品があります。
価格変動型は投資信託で、株式や債券など価格が変動する資産で運用するため、元本や利回りの保証はありません。
企業型確定拠出年金においては、元本割れが怖いからといって元本確保型でのみ運用を行うのはあまり得策ではありません。なぜなら、価格変動型である投資信託には確かにリスクはありますが、1つの銘柄に限定しない「分散投資」を行っています。また掛金が事業主から毎月拠出されていることに加え、勤務を続けていれば、退職時まで資産を引き出すことなく長期で運用が継続されます。その結果、分散投資や複利の効果とあいまって元本割れする可能性が低減され、勤続年数が長期になるほど資産をふやしやすくなる効果を期待できるためです。
AさんとBさんのケースでは、Aさんは元本割れが怖く、長らく定期預金で運用を行っていました。Aさんが運用していた定期預金は1年もので年利率は0.05%でした。一方Bさんは日本の株式指数に連動する投資成果を目指す日本株式インデックファンドで運用を行っており、平均利回りは10%を超えていました。
AさんとBさんが掛金を拠出していた過去17年の間、確かに日本の株式市場は株価が低迷していた時期が長くあり、つみたて投資の場合でも、元本割れ期間は当初5年程度続いていました。Aさんが元本割れを恐れたお気持ちも十分に推察されます。
しかし、長期では持続的にゆるやかに上昇しており、特に近年の上昇相場もあいまって、最終的には毎月定額でつみたて投資を継続したことで、元本の2倍を上回る運用成果を生み出していたのです。
老後生活資金のために、退職金は計画的に運用を
退職金はいわゆる後払いの給与であり、公的年金とともに老後生活資金となるため、退職金額の多寡によって老後生活の見通しは変わるといっても過言ではありません。
同様のキャリアを経てきた同僚との退職金額の差に直面したAさんは、今後の見通しを悲観して筆者のもとにご相談にいらっしゃいました。話を聞いた妻からもなじられ、どうしてこんなに差がでるのか理解できないと困惑されていたため、企業型確定拠出年金のしくみとともに過去のデータに基づく運用シミュレーション結果をお見せしました。
説明を聞いたAさんは、「会社での勉強会でも運用により差が出ると聞いてはいたけど、自分の退職金がこんなに変わるとは思ってもみなかった。もっと早くにちゃんと知って活用しておけばよかった」とおっしゃいました。その後は妻に事情を説明し、謝り続けることになったそうです。
老後生活は資産の取り崩し期に入る一方、取り崩しが長期にわたるケースも多いため、資金を計画的に準備し、できる限り早い段階で取り崩し方針を立てておくことが大切です。実は後日わかったことですが、同僚のBさんは早くからそのことに気づき、価格変動型で運用することとあわせてマッチング拠出という掛金額を増やす仕組みを活用して、退職金額を増やしていたのだそうです。
キャッシュフロー表を作成して今後のシミュレーションを実施してお話をうかがっていくと、Aさんには家計を見直し、支出を減らし、取り崩しを減らすことで資産寿命を延ばす方法が合っていることがわかりました。
通信費などの固定費を中心に支出を見直し、年間約40万、30年間では1,200万円の支出を削減したことで、今後5年間では年間100万円の貯蓄を確保し、結果的に1,700万円の効果を生み出せる見通しをたてることができました。
「得られたかもしれないお金にばかり意識が向いていましたが、できることはあるんだとわかり、気持ちが楽になりました。資産の寿命を延ばすのは、今あるお金に働いてもらう資産運用だけが方法ではないんですね」そうおっしゃって心機一転、人生のセカンドステージへと踏み出されました。
内田 英子 FPオフィスツクル 代表
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