「暇がとにかく怖い!」と感じたら…定年後の人生を充実させるために、スマホを置いてやってみてほしいこと【心理学博士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月4日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
退職後「暇になること」を恐れる定年前の人たちが少なくないようです。そこで本稿では、MP人間科学研究所で代表を務める心理学博士の榎本博明氏による著書『60歳からめきめき元気になる人「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、「暇」の過ごし方について提案・解説します。
退屈な時間も人間らしさを取り戻すのに大切
退職後はやることがなく暇になるだろうと、暇になることを恐れる定年前の人たちが少なくないようだが、暇の効用に目を向けることが大切だ。忙しい働き盛りの頃は「暇がほしい」と切実に思うこともあったのではないか。ようやく暇になるのだから、勤勉な自分のイメージは脱ぎ捨てて、後ろめたさなしに堂々と暇を楽しめばよい。
暇すぎると当然ながら退屈になる。退屈するのは苦痛かもしれないが、忙しい日々を長らく経験してきたのだから、一度極度の退屈を経験するのもよいかもしれない。
私たちは、普段から外的刺激に反応するスタイルに馴染みすぎているのではないだろうか。スマートフォンやパソコンを媒介とした刺激を遮断されると、すぐに手持ち無沙汰になる。でも、情報過多によるストレスやSNS疲れを感じている人も多いうえに、何よりも考える時間が奪われている。
スマートフォンがなかった時代には、電車の中では本や新聞を読む一部の人以外は何もすることがなく、どうにも手持ち無沙汰なものだった。考えごとをするか、ひたすらボーッとして過ごすしかなかった。とくに思索に耽るタイプでなくても、そうしていると気になることがフッと浮かんできて、あれこれ思いめぐらせたものだった。
過去の懐かしい出来事や悔やまれる出来事を思い出し、そのときの気持ちを反芻することもあっただろう。今の生活に物足りなさを感じ、いつまでこんな生活が続くのだろうと思ったり、これからはこんなふうにしようと心に誓ったり、この先のことを考えて不安になったりすることもあっただろうし、ワクワクすることもあっただろう。
何もすることがない退屈な時間は、想像力が飛翔したり、思考が熟成したりする貴重な時間でもあったのだ。退屈について考察している西洋古典学者のトゥーヒーは、つぎのような示唆に富む指摘をしている。
「退屈は、知的な面で陳腐になってしまった視点や概念への不満を育てるものであるから、創造性を促進するものでもある。受容されているものを疑問に付し、変化を求めるよう、思想家や芸術家を駆り立てるのだ。」(トゥーヒー著篠儀直子訳『退屈─息もつかせぬその歴史』青土社)
近頃は、退屈しないように、あらゆる刺激が充満する環境が与えられているが、それでは人々の心はますます受け身になってしまう。
自分の思うように動くため、ときに危なっかしくも見えてしまう幼児期のような自発的な動きを取り戻すために、あえて刺激を断ち、退屈で仕方がないといった状況に身を置いてみるのもよいだろう。そんな状況にどっぷり浸かることで、自分自身の内側から何かが込み上げてくるようになる。それが、与えられた刺激に反応するといった受け身な生活から、主体的で創造的な生活へと転換するきっかけを与えてくれるはずだ。
やるべきことが詰まっている時間には、想像力が入り込む余地がなく、創造的な生活を生み出すことがしにくい。何もすることがないからこそ、その空白の時間を埋めるべく想像力が働き出し、創造的な生活への歩みが始まるのである。
とりあえず気になることを試してみる
何か気になるものがあっても、「これはほんとうに自分に向いてるだろうか?」「自分にもうまくできるだろうか?」「続くだろうか?」などと考えて、結局、躊躇してしまうといったことになりがちだ。だが、職選びではなく趣味や遊びなのだから、そんなに慎重になる必要はないだろう。やってみて自分に向いていないと思えばやめればいい。
べつに続かないとダメというわけではない。興味のままに動けばいい。スポーツ観戦が好きで、よく休日にテレビで見ていたなら、もう翌週のために体力を温存する必要はないのだから、実際に競技場に出かけて生観戦を楽しむのもよいだろう。
演劇が好きで、深夜によくテレビで見ていたなら、やはり実際に劇場に出かけて生で楽しんでみるのもよいだろう。落語にしても、歌舞伎や能・狂言など伝統芸能にしても、コンサートにしても、よくテレビで見て楽しんでいた人に限らず、ちょっとでも気になるのであれば、どんなものか試してみようという感じで出かけてみればいい。
日本の歴史についてのテレビ番組を見て、特定の戦国武将やどこかの時代に興味が湧いたら、時間はたっぷりあるのだから、図書館に通って調べてみればいい。美術についてのテレビ番組を楽しみに見ており、何かで絵画の実践講座のパンフレットが気になったら、絵なんて学校の授業でしか描いてないけれど大丈夫かなとか、続くかなとか考えずに、とりあえず興味のままに飛びつけばいい。
数学者広中平祐との対談において、哲学者梅原猛は、好奇心をもつことの大切さを指摘している。
「今の哲学の研究者たちは、カントの哲学、ヘーゲルの哲学についての研究をしているんで、哲学そのものをやっていない。哲学についての哲学が今のアカデミズムの主流です。私はもうそんな窮屈なこと考えないで、哲学というのは無限な好奇心だと思う。限界を知らざる好奇心。プラトンの言うエロスというのは、面白いことがあるとどこへでもくぐっていくことなんです。これは自然科学でも人文科学でも、歴史でも文学でもいい。そういう具体的なものとの関わりなしに、エロスはあり得ないのでね。エロスは必ずそういうところに溢れてくるんです。」(広中平祐著『私の生き方論』潮文庫)
もう組織とか職務による縛りはないし、暇はいくらでもあるのだから、好奇心に任せて気になることを試してみればいい。
榎本 博明 MP人間科学研究所 代表/心理学博士
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