シリア情勢と米大統領選挙 アレッポを巡る米露土三国の思惑
Japan In-depth / 2016年10月25日 19時0分
また、アサド政権をめぐる多くの「神話」や「嘘」の一つは、外国人テロリストやホーム・グロウン・テロリストであれ、彼らこそテロリズムと対決しており、アサドはシリアの国家主権を守っている愛国者だというものだ。ロシア紙『イズヴェスチヤ』(10月22日号)によれば、アサド大統領は政府軍が戦っている相手の大多数を、アルカーイダの教義に忠実なタクフィーリスト(論敵を不信者と断定して処刑を正当化する過激派)だと断罪していた。興味深いことに、こうしたアサドの主張は、時にはアメリカの大統領選挙でも超保守派の目をくもらせる一因にもなった。
10月の論戦でトランプ共和党大統領候補は、こう述べている。「私はアサドがまったく嫌いだ。しかし、シリアはISを殺している。ロシアもISを殺している。そしてイランもISを殺している」と。ISを殺せば、皆が正義の徒になると言わんばかりの単純な論理である。
しかしトランプは、アサドが殺害しているシリア人の一般市民の被害を見ようとしないことだ。デラアに本拠をもつ「南部戦線」のような穏健反対派や市民を数万人も殺している非良心を続ける限り、これから数年間にわたってシリア問題はますます過激化する材料に事欠かないだろう。アサドその人こそ過激派の運動を刺激する要因なのである。
■アメリカ新大統領とロシアとトルコ
いずれにせよ、ロシアとイランによるシリア政権への支援とアサド大統領の耐久力は、アレッポ北東部のバーブ市への攻勢を展開できるほど優勢に転じた。アサドのシリア政府軍とシーア派同盟者はバーブ市をすぐに再制圧できる力量をもたないかもしれない。にもかかわらず、アサドはプーチンとともに、クルド人とアラブ人の連合体の「シリア民主軍」(SDF)によるバーブ制圧を許すか支援によって、東アレッポ占拠中の反政府勢力や、市外にいるISとの衝突を促進して、漁夫の利を得る可能性を検討しているに違いない。
ただし、SDFのバーブ進軍の援助はトルコの敵意を買う危険が大きい。10月のイスタンブルにおけるプーチンとエルドアンの会談を経て修復に向かったトルコとロシアとの関係を再び悪化させかねないからだ。また逆にトルコは、支援する反政府派に迅速なバーブ制圧を唆すかもしれない。
その結果は,対IS戦でアメリカが頼りにするクルドをめぐる米露トルコの思惑を対立させシリア情勢をさらに複雑にしかねない。というのは、SDFとは、2015年10月以降にシリアのクルド人民防衛隊(YPG)が、複数のアラブ系反政府勢力と正式に同盟を組んだ武装集団だからである。トルコは、YPGを自国のテロリスト集団と見なすクルディスタン労働者党(PKK)のシリア・フラクションと見なしている。その一方ロシアは、SDFについて、アサド政権打倒を優先目標としてきた他の反政府勢力と異なり、ISとの対決を主な目標としていると評価している。SDFはユーフラテス川以東を主要活動地域としており、シリア政府軍の作戦範囲とはあまり重ならないのだ。SDFとロシアやアサド政府との間には、相互不干渉の関係が成立しており、この点だけはアメリカによるSDF受容とも利害が共通しているといえよう。
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