NHKの奇異な言語感覚
Japan In-depth / 2021年8月26日 11時0分
そもそもバイデン大統領が副大統領に経験を積ませるために、どこでもよい外国に派遣する、というようなNHK報道の前提には根拠がない。
バイデン、ハリス両氏は民主党の大統領選候補選びでは激しく争ったライバル同士だった。しかも副大統領というのはすでに重大な権限や責任が認知された地位であり、就任してから新たに学ぶというような新人用の政治ポストではない。
そもそもアメリカ外交での一つの現象を武者修行にたとえる連想法、発想法が稚拙で的外れである。いくら比喩だとはいえ、あまりにかけ離れた二つの事象をごく限定され、しかもゆがんだ連想能力で無理やりに結びつけたという感じなのだ。
武者修行といえば、江戸時代よりさらに古い戦国時代に武士が剣術の実力を高めるために旅に出て、多くの敵と戦った行為のことである。私自身は剣豪の宮本武蔵をまず思い出す。
だからNHKのこの報道での武士が馬に乗っているイラストも不自然だと思った。武者修行に出る武士ならまず徒歩だろう。
そしてハリス副大統領の訪問先はシンガポールとベトナムだった。ともにアメリカの友好国である。ともに中国を脅威と感じる国だともいえる。副大統領はそんな友好国との絆を強め、改めてアメリカとの関係を固めるという親善の旅に出たのだ。
一方、武者修行に出た武士は戦いが主目的だろう。こんな点でもこのNHK言語はピント外れだった。
そしてさらに出発点に戻るならば、現代の一国の政府代表の外国訪問を武者修行だなどと、意味がありそうで意味のない比喩の表現で描写するという点が国際報道とは思えない。日本の新任の外務大臣が初めて外国を訪問する際にNHKは武者修行と呼ぶのだろうか。
公共放送たるNHKのこんな言語感覚は奇々怪々である。大時代というよりも、率直にいえば、単に愚かに響いたのだった。
トップ写真:2020年の民主党大統領候補者指名に向けてキャンペーン中のカマラ・ハリス上院議員(当時)2019年3月1日 ネバダ州ラスベガス。 出典:Photo by Ethan Miller/Getty Images
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