『機動戦士ガンダム』なぜ連邦はジオン本国を直接攻撃しないのか そのもっともな理由
マグミクス / 2024年1月18日 6時10分
■技術面などでは可能であろう「本国」への直接攻撃、なぜやらない?
アニメ『機動戦士ガンダム』の物語は、円筒状の巨大な建造物「スペースコロニー」内で多数の人間が生活する、人類が宇宙に暮らす世界を舞台に描かれます。その中で、「地球連邦軍」に対して独立戦争を始めた「ジオン公国軍」は、このスペースコロニーを数十基、束ねた「サイド」のうち、地球から見て月の裏側にある「サイド3」を拠点とする宇宙国家です。
開戦当初にジオン軍は地球連邦軍へ大打撃を与え、スペースコロニーを弾頭とした地上への「コロニー落とし」でも、地球連邦側は大きな被害を受けます。それだけでなく、連邦の勢力圏だったサイド1、2、4、5は壊滅し、地球を挟んで月と反対側に位置する「ルナツー」以外の宇宙の拠点も失いました。
この大被害を受け、地球連邦はジオンと戦時条約である「南極条約」を締結します。「南極条約」では、核兵器や生物化学兵器、隕石やスペースコロニーなどの質量爆弾も禁止されました。
それ以降、連邦は地球に降下したジオンを撃退し、宇宙艦隊を打ち上げて、宇宙要塞「ソロモン」や、「ア・バオア・クー」を攻略します。
ここで不思議なのは、戦争が終結するまでに、連邦軍はジオン本国であるサイド3を直接、攻撃しようとしないことです。
月の裏とはいえ、サイド3のスペースコロニーの位置は判明しており、かつ移動するわけではありません。「南極条約」があっても、スペースコロニーへの直接攻撃は禁止されていませんし。
スペースコロニーは、敵の攻撃に対して脆弱です。攻撃すれば空気が流出して人が住めないことは、ジオン軍が証明しています。実際、ジオン軍は『機動戦士ガンダム0080』では、核兵器使用による条約違反を承知で、サイド6のコロニーを破壊しようとしています。
目標として動くわけではなく、かつ超巨大ですから、ミノフスキー粒子で妨害されていても、連邦宇宙艦隊の遠距離砲撃が数発でも命中する可能性は否定できません。そうなったら、ジオンの戦時生産や国民は甚大な打撃を受けたと考えられます。
非戦闘員を多数殺戮することになるので、人道上の問題はありますが、南極条約には「スペースコロニーへの直接攻撃禁止」という項目はありませんし、攻撃の大義名分も「民間人多数を殺害したジオンのコロニー落としに対する報復」と強弁し得たでしょう。連邦軍の上層部が、理知的なレビルやゴップではなく、後のティターンズのような過激思想の軍人なら、躊躇いなく行われたとも考えられます。
攻撃できない理由を考えてみましょう。艦艇の航続力でしょうか。サイド3は月の裏側に位置する、地球から最も遠いサイドとはいえ、1970年代のアポロ宇宙船でも、地球から3日程度の距離です。
宇宙世紀の艦艇がアポロ宇宙船と同じ巡航速度とは思えませんが、仮に地球から月まで3日かかったとして、一番遠いルナツーからを想定しても、片道1週間程度の距離です。アムロたちガンダムチームの母艦である「ホワイトベース」が長期航海を行い得たことを考えても、往復2週間程度の戦闘行動は可能だったと思われます(針路を変えないなら、推進剤は使わないわけですし)。
途中で宇宙艦隊が迎撃されて、撃破される公算が高いのでしょうか。ジオン側が哨戒線を何重にも構築していないとは思えませんが、宇宙はとてつもなく広いわけですし、「南極条約」では艦艇やMSの偽装は禁じられていません。ミノフスキー粒子が濃い宙域を選び、たとえば隕石に見せかけて近づくなど、サイド3に近づく方法はありそうにも思えます。
つまり「純軍事的にできない」のではなく、政治的に「やりたくない」作戦なのでしょう。
■なぜ連邦はジオン本国への攻撃を「やりたくない」のか
一年戦争後は連邦、ジオン残党双方に核兵器の使用が見られる。画像はBANDAI SPIRITS「HG 1/144 ガンダムGP02A サイサリス」 (C)創通・サンライズ
その理由は、色々考えられます。
まず「ジオン側からの南極条約破棄」です。特にチェンバロ作戦による宇宙要塞ソロモン攻略前は、地球連邦軍の宇宙での根拠地はルナツーだけですから、サイド3と地球のあいだはジオンの勢力圏下にあり、地上への攻撃を防ぐことは極めて困難です。その傍証としては、ジオン軍による地球侵攻作戦での補給路が確保されていたことを挙げられるでしょう。
この状況で、ジオン本国への攻撃が成功してしまうと、独裁者ギレンは報復のために「南極条約破棄、再びコロニー落とし遂行」に舵を切る可能性が高いです。
連邦軍が宇宙要塞ソロモンを攻略して、サイド3に近い拠点を確保したのは終戦間際の12月25日です。連邦としては、このまま普通に戦争を続ければ勝てると考えたでしょうから、政治的にリスキーな条約破棄を誘発するジオン本国への攻撃には、その必要を認めなかったのでしょう。
また「交渉相手がいなくなる」問題も考えられます。太平洋戦争でアメリカは東京への原爆投下を検討しましたが、目標から除外された理由のひとつは「相手の政府が消滅すると交渉相手がいなくなり、占領統治が困難になる」というものでした。これと同じ理由で「過激なスペースノイドを取りまとめているザビ家を、サイド3攻撃が成功することで、万が一抹殺してしまったら、その後は収拾がつかない」と考えたのは無理もありません。
実際、ザビ家がいなくなり、サイド3が連邦に恭順するジオン共和国となった後でも、ジオン軍の「デラーズ艦隊」はジオン共和国に従わず、「星の屑作戦」の実行で、地球にスペースコロニーを落として大打撃を与えることに成功しています。
サイド3への直接攻撃で、ザビ家を抹殺してしまったら、残ったジオン軍兵力が「南極条約を無視して、手段を選ばない報復に出る」という懸念は、当時もリアルにあったのでしょう。
実際、戦局不利になったジオン軍は、オデッサ作戦で「ユーリ・ケラーネ」が核兵器(にしか見えない爆弾)を使用して、連邦軍の追撃部隊を「消滅」させたり(『第08MS小隊』)、以下は阻止されたものの、「マ・クベ」による水爆使用や(『機動戦士ガンダム』)、サイド6の「ガンダムNT-1 アレックス」を破壊するために、「キリング」が核ミサイルを使おうとした事例(『ポケットの中の戦争』)など、度々条約違反を行っています。
そうしたジオンによる条約違反の懸念や実例もあって、皮肉にも軍事的には有効そうに見える「ジオン本国直接攻撃」を防いでいたのだと、筆者は考える次第です。
なお、ギレンが暗殺されずに「星一号作戦」が連邦の勝利で終わったなら、残ったジオン艦隊はアクシズへの脱出ではなく、ジオン本国防衛戦に動員され、そこで大きく消耗していたでしょう。
そうなったなら終戦後のジオン軍は劇中よりも遥かに弱体化し、デラーズが「星の屑作戦」をしたり、ハマーンが「アクシズ/ネオ・ジオン」として地球圏を攻撃できるほどの戦力は残らなかったかもしれません。
連邦としても、ザビ家がア・バオア・クーで全滅し、ジオン軍残党がサイド3政府の掌握、命令できない「アクシズ」などに多数逃亡した劇中の展開は、想定外で禍根が残る講和だったとも考えられます。
(安藤昌季)
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