「ガンダム」世界の「死の商人」アナハイム・エレクトロニクスはなぜ必要とされたのか
マグミクス / 2024年4月29日 8時25分
■ロボットアニメに製造メーカーの設定は必要だったのか?
宇宙世紀(U.C)の「ガンダム」ユニバースを代表する企業といえば、「アナハイム・エレクトロニクス」の名前を挙げる人は多いでしょう。同社は戦争の両陣営にモビルスーツ(MS)を提供していることで知られており、一部からは「死の商人」と呼ばれることもあります。
なぜアナハイム・エレクトロニクスは両陣営に兵器を売りながら存続できたのでしょうか。また、どうして「ロボットアニメ」でメーカーの設定が作られたのでしょうか。その謎について考えてみました。
●きっかけはティターンズの台頭
MSの開発、製造で知られるアナハイム・エレクトロニクスは、アニメ第1作『機動戦士ガンダム』の時代にはまだ歴史の表舞台に姿を見せていません。当時は北米に本社を置く中規模な家電メーカーにすぎなかったからです(ジオン占領下の月面都市「グラナダ」でMS「ザクII」関係の設計を行っていた、すでにジオン、連邦の両サイドに多くの商品を提供していたなど、異なる情報が記載された資料もあります)。
同社が急成長を遂げるのは、後にビスト財団を作り上げる「サイアム・マーキス(サイアム・ビスト)」と関係をもってからです。サイアムは「解放されれば連邦政府は転覆する」と恐れられる「ラプラスの箱」で地球連邦を脅迫し、アナハイム・エレクトロニクスを急成長させます。その後、役員待遇で同社に迎えられた後、当時の専務の娘と結婚、ビスト家の婿養子となって「ビスト財団」を立ち上げました。
ラプラスの箱とサイアムの手腕によってアナハイム・エレクトロニクスはグラナダに本拠地を構える軍産複合体にまで成長したのです。また「一年戦争」後は解体された「ジオニック社(ジオン公国に本拠を置いていた軍需企業)」の設備や人員を取り込み、多くのスペースノイド(宇宙移民)を抱えることになります。
ところが一年戦争後に台頭した地球至上主義者「ティターンズ」の台頭によって、スペースノイド排斥運動が発生します。アナハイム・エレクトロニクスは地球連邦軍部内から排除されるリスクに直面しました。
そこで彼らは地球連邦の「ブレックス・フォーラ」准将が立ち上げた、ティターンズに対抗する組織である「エゥーゴ」に協力し、兵器開発や武器供与に踏み切ります。ここからスペースノイドと地球連邦の両陣営に武器を供与する動きが始まったといえるでしょう。
■連邦に潰されなかった理由
『UC』の時代の社章はこんな感じ。「STRICT-G『機動戦士ガンダムUC』ピンズ アナハイム・エレクトロニクス」(バンダイ) (C)創通・サンライズ
地球連邦に反旗を翻す勢力のMS開発にまで手を貸すアナハイム・エレクトロニクスが、地球連邦に潰されなかった理由は複数考えられます。ひとつは同社の大株主がビスト財団だったことです。
前述のように、ビスト財団はラプラスの箱を所持しており、地球連邦を脅迫しつつ癒着関係を築きました。ビスト財団、ひいてはアナハイム・エレクトロニクスに手を出せなかったのは当然だといえます。
また『機動戦士ガンダム ANAHEIM RECORD』(著:近藤和久/原作:矢立肇・富野由悠季 /KADOKAWA)第1巻の巻末に掲載されている資料によれば、アナハイム・エレクトロニクスの社長である「メラニー・ヒュー・カーバイン」は士官学校時代に、ティターンズの創始者である「ジャミトフ・ハイマン」と同期だったとのことです。『Zガンダム』の時代にエゥーゴとティターンズの両方にMSを供与していたのもうなずけますね。トップ同士に面識があったので、決定的に排斥されることがなかったのでしょう。
●「ガンダム」ワールドにリアリティを与える軍事・歴史要素
今では巨大な世界を形作っている「ガンダム」ワールドですが、『機動戦士ガンダム』のTV放送中は、アナハイム・エレクトロニクスに代表されるMSメーカーなどの周辺情報は限られていました。
『機動戦士ガンダム』の世界観が分厚くなったのは、TVアニメ放送終了後の「MSV(MOBILE SUIT VARIATION)」の企画からでしょう。同企画においては実に多くの、細々とした設定がなされていきました。
アニメで登場していないMSを存在させるためには、説得力ある理由が必要です。そこにリアリティを付与するためにミリタリー(軍事)の要素が入り込んできます。戦車や戦闘機、軍艦など実在の兵器を考察する手法が、フィクションの「ガンダム」に取り入れられたのです。
合わせて、作中に登場する「経緯」を語るための歴史分析的な要素も欠かせません。こうしてメインストーリーを補完する形で、アナハイム・エレクトロニクスに代表される各種設定が必要とされ、創造されたと思われます。
「ガンダム」ワールドに感じるリアリティや生々しさは、リアルの戦争に由来する要素を取り込んでいるからだと言えるでしょう。
(レトロ@長谷部 耕平)
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