連邦とジオンの「MS開発思想の違い」とは何か 「ザク」「ジム」で分かる？

■ジオン軍は「環境に適したMS開発」に徹していた？

「ガンダム」シリーズの1作目『機動戦士ガンダム』では、たびたび地球連邦軍とジオン軍双方の量産型モビルスーツ（以下、MS）である「ジム」と「ザクII」が比較され、ファン同士で「どちらの方が強いか」と議論が交わされてきました。

　もちろん、両機の性能や作中での描かれ方などで答えを出すことはできるかもしれませんが、そもそも両軍のMS開発に対する考え方を掘り下げてこそ、それぞれの機体が果たした役割や存在した意味が見えてくるのではないでしょうか。

『機動戦士ガンダム』で繰り広げられた「一年戦争」を振り返ると、開戦当初はジオン軍が開発したザクIIが大活躍し、連邦軍はそれらに太刀打ちできない状態が続きましたが、「V作戦」によってようやく「ガンダム」「ガンキャノン」「ガンタンク」が開発されました

　その後、戦いの舞台は地球に移り、地上戦が繰り広げられます。汎用性の高いザクIIではあったものの、対MS戦を想定しない時期に開発され、さらには性能を上回るガンダムが登場したことにより、地上戦では対抗できないに等しい状況でした。

　しかし、すでにジオン軍は将来的に連邦軍がMSを投入した時のことを想定し、陸上戦闘用で対MSの格闘にも優れた「グフ」、地上での長距離高速移動能力を実現した「ドム」、さらには、地球侵攻のためには外せない海洋戦略を実行するため、「ズゴック」や「アッガイ」といった水陸両用MSも開発していました。ドムは、ほかにも宇宙での機動性に特化した「リック・ドム」という派生型も生み出されています。

　ここまでのジオン軍のMSを振り返ると、各MSに汎用性を求めるのではなく、戦う環境に適したMSの開発を徹底していたことが分かります。必然的にMSの種類が多くなったことも納得できます。

■「汎用性の高い量産機」が勝利をもたらした？

地球連邦軍の勝利に貢献した量産機の「ジム」　画像は「MG 機動戦士ガンダム RGM-79ジム Ver.2.0 1/100スケール 色分け済みプラモデル」（BANDAI SPIRITS）

　一方で、連邦軍のMSの場合、前述したガンダムやガンタンク、ガンキャノンに加えてジムが開発され、ジオン軍に比べると、圧倒的にMSの種類が少ないことがわかります。もっといえば、ジムの登場以降、ガンタンクやガンキャノンの要素はジム系MSに取り込む動きになり、同一機体を大量生産する方針になるのでした。

　シンプルに「ガンダムを大量生産すればいいのでは？」と思ってしまいがちですが、ザクIIの7倍ものコストがかかるために、量産することは現実的ではなかったと考えられます。

　そして、ジムはガンダムの簡易版なだけあって、宇宙、地上ともに汎用性が高いのが特徴です。一年戦争末期のジオン軍とのア・バオア・クー攻防戦には大量に投入され、さらに簡易MS「ボール」との協同運用も相まって、数の力で押し切りました。多種多様なMSにコストをさかず、ジムを大量生産したことが連邦軍に勝利をもたらしたといってもいいかもしれません。もちろん、ライバルであるシャア・アズナブルが搭乗した「ジオング」を食い止めたガンダムの存在も大きいでしょう。

　しかし、ここで忘れてはいけないのが、ジオン軍のザクIIの後継機とも言われている「ゲルググ」です。ザクII同様に汎用性が高く、ビームライフルも実用化しており、ジェネレーター出力、スラスター推力ともに性能はガンダムよりも上回っていました。

　戦況を変えてくれるMSとして期待されたものの、ビームライフルの開発と量産の遅れによって本格配置は遅れ、実践に投入されたのは大戦末期となりました。さらに、練度が低い学徒兵をパイロットにしたことが原因で、上述したジムとボールの物量作戦に対し、戦果をあげることはできませんでした。もちろん、戦力の差だけでなく、ジオン軍のキシリア・ザビが兄のギレン・ザビ総帥を射殺したことで混乱が生じ、そのほころびが敗戦につながったという点も忘れてはいけません。

　戦争は相手よりも先の手を打つことが重要であるものの、天候の変化や人為的な障害などの不確定要素によって戦況が変わることがあるため、仮にジオン軍が連邦軍と同様に汎用性に優れ、無駄なコストをかけずに大量生産ができるMS開発に徹していたとしても、結果が覆ったかどうかはわかりません。

　ガンダムでは魅力的なメカそのものが注目されがちですが、このように開発史を振り返ると、ジオン軍敗北の背景に、「量産機に対する思想の違い」という点が浮き彫りになりました。

（LUIS FIELD）