入国規制緩和が叫ばれる背景-植草一秀
メディアゴン / 2022年2月19日 22時55分
植草一秀[経済評論家]
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岸田内閣が入国規制の緩和方針を決定した。岸田内閣の下で日本の外国人入国への対応が二転三転してきた。
昨年11月にコロナ感染の縮小を背景に入国規制緩和を始動させた。ところが、その11月にアフリカで新たな変異株が確認され、WHOはこれをオミクロン株と命名するとともに「懸念される変異株(Variant of Concern)」に指定した。この変化を受けて岸田内閣は外国人の日本への入国に対する規制を順次強化した。規制は急激に強化されて外国人の入国全面禁止に移行した。
安倍・菅内閣の後手後手対応の轍を踏まない意思が示された。しかし、この対応に大穴が開いていた。治外法権を有する米軍が米軍関係者を検査なしで日本に入国させ、その米軍関係者が日本国内で活動を展開した。このために日本の水際対策は失敗に終わった。
日本国内でもオミクロン株の急激な感染拡大が生じてしまった。こうなると、オミクロン株の国内流入阻止を目的とする入国規制強化は意味を失う。オミクロン株の感染がピークを形成しつつあることを受けて、岸田内閣が入国規制の緩和に動き始めたのだ。メディアは日本への入国を希望する留学生に対する規制緩和を強調する報道を展開した。オミクロン感染状況の変化を受けて岸田内閣が入国規制の緩和に動き始めた。
一定の緩和を実施することは正当である。しかし、このことを検討する際に見落としてはならない問題がある。
技能実習生問題だ。
産経グループ、日経グループが、入国規制緩和を強く主張している主因は留学生の問題ではない。技能実習生の入国拡大を求めているのだと推察される。この技能実習生制度に重大な問題がある。岡山市で働くベトナム人技能実習生が、職場の建設会社で暴行されたと訴えていた問題で、法務省が建設会社への行政処分を発表したことが報じられた。
報道によると、処分を受けたのは岡山市の建設会社・シックスクリエイト。技能実習生のベトナム人男性が、2年間にわたり日本人従業員から暴行を受けたと訴えていた。この問題について、法務省の出入国在留管理庁が、著しい人権侵害があったとして建設会社に対し技能実習計画の認定を取り消す行政処分を行ったというものだ。
昨年3月6日には、名古屋出入国在留管理局でスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが死亡する事件が発生した。入管の行為が保護責任者遺棄致死や、未必の故意による殺人罪に当たる可能性も指摘されている。2007年以降、ウィシュマさんを含め17人の収容者が入管で亡くなっている。日本政府は中国の人権問題には目くじらを立てるが、国内の人権問題を放置している。ワクチン接種を受けない判断をすることは憲法が保障する基本的人権に含まれることであり、同時にワクチン非接種者を差別することは憲法に反する行為である。
しかし、日本国内でこの人権が十分に守られているとは言えない状況がある。また、日本に居住する外国人に対する人権も十分に尊重されていない。
日本の技能実習制度に関しては、外国から来日する実習生らに対する人権侵害や搾取の実態が次々に明らかにされてきた。技能実習生制度には「国際貢献」、「技術移転」という建前が付せられているが、その実態は安価な労働力を確保するための制度。利益追求を優先する産業界が、この目的のために技能実習生の入国再拡大を強く求めており、この要求に岸田内閣が対応しようとしている。
菅義偉氏が首相在任中の2020年12月に、英国でN501Y変異株が確認されたにもかかわらず、入国規制を骨抜きにしてしまった理由もこの点にあった。入国の中心だったビジネストラック、レジデンストラックの入国停止を除外した。「企業の利益のためなら外国人の人権など考慮しない」との発想がベースに置かれている。外国人に対する人権を守る抜本的な対応が求められている。
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