ビル・クリントンの人種観と複雑な幼少期の家庭環境
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月21日 12時4分
しかし、ロジャーは更生する機会を与えてほしい、よりを戻してほしいと必死に懇願する。ロジャーは別れた妻子に復縁を迫って執拗に付きまとった。情にほだされ、バージニアはロジャーと再度結婚する決意を固める。
だが、ビルはバージニアの決断に懐疑的だった。
耐え難い重荷
ビルは仕事で不在がちな母親に代わって、異父弟の面倒をよく見た。ビルは周囲の子どもよりも常に大人びて見えたという。また、ビルは小学校のときにクラリネットの演奏をはじめ、その後サックスを吹くようになった。
兄に比べ、ロジャー2世が虐待によって負った心の傷は深く、彼はのちに賭博や薬物に手を染め、薬物の違法売買で逮捕され、収監された。
アメリカの有名政治雑誌『ポリティコ』の編集長で、クリントンの伝記を書いたこともあるジョン・ハリスは、この複雑な幼少期の家庭環境こそ、クリントンが私生活のトラブルや自分の思惑を包み隠し、利害の異なるものの間で仲介役としてうまく立ち回ろうとする政治家としての原体験であったと分析する。
他方、幼少期の経験はクリントンの人格形成に暗い影を落とすことにもなり、後年クリントンが女性スキャンダルを引き起こす一因になったのではないかと考える者は多い。
クリントン自身は、継父による家族の虐待について相談する者はなく、自身の内面深くに隠し持ってきた暗い秘密であり、耐え難い重荷であったとも述懐している。
孤独と絶えず向き合うことがクリントンのアイデンティティ形成で重要な役割を果たしたと思われるが、半面、継父との歪んだ親子関係がクリントンの心理を複雑で葛藤に満ちたものにしたことは否定できないであろう。
※シリーズ第3回:93年、米国を救ったクリントン「経済再生計画」の攻防
『ビル・クリントン――停滞するアメリカをいかに建て直したか』
西川 賢 著
中公新書
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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