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トランプ政権が貿易不均衡でドイツに宣戦布告、狙いはEU潰しか

ニューズウィーク日本版 / 2017年2月3日 19時10分

ラーンシュタインはヒーリーに、他通貨の下落範囲が狭まれば、ドイツの競争力は高まるだろうと話したという。当時、ドイツのインフレ率はフランスより低く、南欧諸国と比べれば格段に低かったため、為替相場を一定範囲に固定するEMSの下ではドイツの通貨は常に他の通貨より割安になり、輸出が有利になる。実力のない他の通貨は逆に、割高なレートに固定されて不利になる。EMSとその後のユーロは、ドイツを欧州経済のトップランナーにするためのものだと、ラーンシュタインは示唆したのだ。



奇妙なのは、この説がヨーロッパよりも断然、イギリスとアメリカで主張されてきた点だ。もし経済力の独占がドイツの目的なら、他の欧州諸国のほうが先に陰謀を察知できたはずだ。また、もしこれが本当にドイツの戦略ならあまりに短絡的すぎる。近隣諸国を財政破綻に陥れるのは、ドイツが安定した経済的繁栄を築くうえで得策ではない。

ドイツ側から見た通貨統合の目的は、貿易取引を容易にするほか、異なる通貨間の為替変動で一方の国が有利になったという疑いを取り除くことだ。例えば1992~93年にかけてスペインとイタリアがEMSから脱退して通貨が下落すると、フランスの農家は即座に安い輸入ワインに対する保護を要求し始めた。

バラク・オバマを含め歴代の米政権は、ドイツの経常黒字の大きさに頭を悩ませてきた。もっとも、ドイツが貿易で儲けるよう為替を操作したと考えていたのではない。経常黒字で儲けたお金を国内の消費拡大に向けない間違った経済政策で世界経済全体の足を引っ張り、その結果さらに経常黒字が膨れ上がっている、と考えていた。

ドイツは世界の重石

米政府はこれを阻止しようと試みた。2010年に韓国のソウルで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、アメリカは経常収支を国内総生産(GDP)比で4%以下に抑える数値目標を設定するよう提案したのだ。だが、同じく経常黒字が大きい中国の反発もあり、実現はしなかった。その結果、2016年のドイツの経常黒字は中国を抜き世界最大になった模様で、GDP比では中国を大幅に上回る。IMF(国際通貨基金)によれば、2017年の経常黒字は中国がGDPのわずか1.6%なのに対し、ドイツは8.1%になる見通しだ。

ナバロが「ユーロは過小評価されている」と批判するのは、通貨統合を掲げるEUが、実質的な「マルク安」を永遠に維持するために利用されていると見るからだ。

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