『日本国紀』は歴史修正主義か? トランプ現象にも通じる本音の乱――特集・百田尚樹現象(3)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
<百田史観の売りは、史実的な正しさよりも読み物としての「面白さ」、反朝日、反中韓というスタイルにある。それが「ごく普通の人」の間で人気を獲得している状況と、トランプ現象はよく似ている。筆者の石戸氏が16ページのルポで出した「結論」とは――>
※本記事は3回に分けて掲載する特集「百田尚樹現象(3)」です。(1)(2)はこちら
百田尚樹はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか――特集・百田尚樹現象(1)
幻冬舎・見城徹が語った『日本国紀』、データが示す固定ファン――特集・百田尚樹現象(2)
第4章:敵を知れ
百田への賛否を分かつ明らかな境界線は、百田の歴史観にある。「客観的に見れば『南京大虐殺はなかった』と考えるのが極めて自然」という考えも、多くの歴史学者からすれば「また出てきた歴史修正主義の1つ」といった受け取り方になる。確かに、学術的な議論に関しては、既に決着はついている。百田史観の根幹について、代表的な事例のみを最新の歴史学の成果から検証しよう。
百田史観の中でも、百田が繰り返し強調し、見城が『日本国紀』の「ハイライト」と豪語したのが、WGIPをめぐる記述だ。最新の歴史学と百田史観を比較してみよう。WGIPはGHQの情報政策で、右派論壇の中では「第二次大戦について、日本人に罪悪感を持たせるための洗脳工作」といった趣旨で使われる。
百田は、WGIPは戦前教育を受けてきた世代が多数を占めていた1960年前後までは効力を発揮しなかったが、戦後教育を受けた世代の間で「時限爆弾」のようにじわじわと浸透していったのだという「オリジナル」解釈を披露している。戦後すぐに小学校に入学した世代、その後の団塊世代はWGIP洗脳世代であり、彼らは日の丸、君が代、天皇、愛国心などを全否定し、日本国憲法を賛美したというのが百田史観の基本的なストーリーだ。
「占領後は、朝日新聞を代表とするマスメディアが、まさしくGHQ洗脳政策の後継者的存在となり、捏造までして日本人を不当に叩いていたのだ」(『日本国紀』)
歴史学者の間で、WGIPはそもそも関心は低く、「陰謀論」と呼ばれることさえある。よって、オーソドックスな歴史学の手法で研究されたことはなかったのだが、状況は変わった。18年、歴史学から1つの成果が示された。『ウォー・ギルト・プログラム──GHQ情報教育政策の実像』(法政大学出版局、18年)。名古屋大学特任講師(日本政治外交史)の賀茂道子が5年半にわたって調べ上げた労作だ。学術書ということもあって、貴重な成果が広く認知されているとは言い難いが、WGIPを語る上で外すことができない最重要研究である。
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