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「食レポ」で激マズ料理が出てきたら、アナウンサーはどう乗り切るのか

プレジデントオンライン / 2020年11月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

料理の感想を視聴者に伝える「食レポ」で、もしマズい料理が出てきたら、アナウンサーはどう表現するのか。元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏は「正直に『まずい』とは言えない。でも味の評価を言わず、特徴を表現することで食レポを成り立たせることはできる」という——。

■まずい料理を無難にほめるアナウンサーの技

食の好みは人それぞれ。上司や先輩に誘われて入った店の料理が自分の口に合わない場合、正直に「まずい」とはなかなか言えません。それが、得意先であっても同じこと。ビジネスマンなら誰しも、このような食にまつわるピンチを経験したことがあるのではないだろうか。

今回、プレジデントオンラインの編集さんから「上司や先輩の顔を立てつつ、味を無難に表現する方法はないものか……。食レポのプロであるアナウンサーさんはどう誤魔化しているのか。良い方法があれば教えてください」という、かなり難易度の高いお題をいただいた。

さて、どうしたものか? と考えたが、最終的には直接アナウンサーに聞くしかないという結論に至った。そして、東京キー局の誰もが名前を聞けば知っている有名アナウンサーなど、さまざまな専門を持つ11人から、匿名ではあるが、回答を得ることができた。

その内容は「なるほど」と思わずうなずくものから、「その手があったか」と目からうろこのものまでバリエーション豊かだった。

では、早速ご紹介していこう。きっとビジネスマンのあなたも、そうでないあなたも、役に立つ実践的な内容のはずである。題して「食レポのプロ・アナウンサーはどうやって“激マズ”を乗り切っているのか」。

■味の評価を言わず、特徴を表現する

11人の回答を見てみると、主に3つの「派閥」があることが分かった。最も多かったのが、おいしい・まずいの評価を言わずに味の特徴を表現する派だ。スポーツのリポートが得意な、女性フリーアナウンサーの答えが最も模範的だと思うので、最初に紹介したい。

「例えば……苦いなら『少しの苦味が利いていて、全体の味を引き締めてくれますね』。辛いなら『スパイスがよく効いている本場の味ですね。辛みの強さが鮮度の良さを感じさせます』。味が薄すぎるなら『上品な味わいで出汁のうま味が効いていますね。素材そのものの味を活かしたヘルシーな味わいです』。味が濃すぎるなら『ご飯が進みそう。パンチの効いた味わいが食欲をそそります』などなど、ツライ中でもその味の特徴に注目して、それを言葉にして、まずいとはもちろん、おいしいとも言わなくてよいのです」

女性カメラマンがテレビカメラを構える
写真=iStock.com/waltkowalski
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/waltkowalski

東京キー局でニュース番組のMCを務める、現役男性アナの答えも分かりやすい。

「僕は食レポのとき、おいしいと思わなければ絶対に『おいしい』とは言いませんでした。どうしていたかと言うと、文字通り『食レポ』をしていました。熱いのか冷たいのか、硬いのか柔らかいのか、甘いのか辛いのか。料理を口に入れた時に感じることを一つひとつ丁寧に伝えることでその料理の特徴を表現していきました。おいしいとかまずいとかはそもそも言う必要はないんです。それよりも、食べた時にどんな感じなのかを視聴者が食べなくても感じられるようなコメントを心がけていました。料理を作った人も的確なコメントを聞いて嫌な思いをすることはありませんからね。丁寧に伝えることである意味で誤魔化せてしまうということでしょうか」

■「これは私、初めて出会った味です‼」で逃げる

次いで多かったのが「私は初めて食べた」派だ。味の評価をしているようで、実は巧妙に論点をずらし、「自分が経験したことがない」と自分語りのフィールドに持ち込む巧みな技である。

スポーツ実況が得意な男性フリーアナウンサーの答えは、こうだ。

「僕の場合は『これは私、初めて出会った味です‼』で逃げますね。しょっぱいとか苦いとか、感じたまずい理由を特徴として言おうとしたら、そこがお店の売りだった時に取り返しのつかない展開になりそうなので(笑) できるだけ主語を『自分』に持っていって、自分はどう感じたかに逃げるかと思います。ちなみに昔、ケーブルテレビで食レポをやっていた時、超頑固おやじのお店に行ったら、すごく普通の味で(笑) とりあえずおやじさんを見て、黙ってニコッとうなずいたら、向こうも笑顔でうなずいてくれて(笑) 事なきをえたことがあります」

地方局でニュース番組や情報番組の経験が豊富な女性アナは、表情を使ってリポートを補うという。

「私の場合、キラキラした目をしながら、え? っと小さく疑問の声を出し(あくまで笑顔!)、これは……と考え込むような顔して(ここは、視聴者の皆さま、本音を読んでねという小さな良心)、『これまで経験したことがないお味です!』ととびっきりの笑顔で締めるという感じでしょうか。正解かどうかはわかりませんが、スポンサーに気を遣いつつの小さな抵抗を繰り返す、リポーターの窮策でございます」

同じく地方局でニュースや情報番組の経験が多い女性アナウンサーも「まずかったらその料理自体を避けたいところですが、やはりどんなお料理も自分の価値観だけでいいと決めてしまうのは失礼だと思うので、『いままでには食べたことなかった』と言ったり、味の中の突出する味をお伝えしたりします!」と打ち明ける。

やはり「初めて」を強調するのは有効なテクニックのようだ。

■「1を100にするのはありですよね」

そして、3大派閥の最後が「個性的・プロの仕事」派だ。これはある意味「自分は素人なので味が分かりません」と自虐に逃げる高等技術だ。

東京キー局で、ニュース・情報番組からバラエティまで幅広くこなす女性アナウンサーは、詳しく説明する。

「判断つかない時、あまりおいしくないというときには『個性的ですね』『玄人にわかる味!』『ツウ好みですねー』とか、そんな言い方をしたりします。わたしはあくまで素人です、というへりくだった感じで……」

日本食レストランで食事をする女性
写真=iStock.com/shih-wei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shih-wei

「コメントするにはあまりにも普通なときは『素朴なおいしさ』『ホッとする味』『家で食べるような安心する味』と言ったりしますね。マズいときは『刺激的なうま味』とか『経験のない味』とか『かつて味わったことがない領域』とか、嘘ではないから(笑)、そう言ったりします。ゼロは100にならないけど、1を100にするのはありですよね。食レポって」

この他にも、東京キー局のベテラン男性アナウンサーは「うーん微妙ですねえ。人によって味の表現が分かれるところです。わかる方にはわかるプロの仕業です」。

東京キー局のニュース読みに定評ある女性アナウンサー「個性的ですねー。あっ、○○の香りが! と嘘ではないが、論点をずらす」などなど、この「個性的・プロの仕事」派の支持者は、ベテランでテクニックのあるアナウンサーにも多いようだ。

■便利すぎる「○○なのに、どこか××」構文

さらには、こんな「応用編」の変則ワザを使うアナウンサーもいる。

東京キー局OGの女性アナウンサーは、笑わせるという。「個性的な味わい・ユニークな味わいとか、身体に良さそうなんて感想を言って、材料を当ててみるとか、何か全く別のものにたとえて笑いを取りにいくとかですかね。そんな状況になったら、研修の課題の一つと思って、トライしてみるかな」

前出の、スポーツ実況が得意な男性アナは「逆取材」することもあるらしい。

「実際に得意先に連れていかれた場合で、それがロケとかでないのであれば……感想そのものから話をそらして、お店の人に『相当こだわっているでしょう?』とかインタビューを始めちゃいます。むしろ、心の中で『なんで、こんなにまずいんだろう』っていう興味をパワーに変えて、質問を深めながら、その場を乗り切る感じです(笑)」

そして先ほどの「1を100にするのはあり」のキー局女性アナはこんな必殺技を紹介してくれた。

「便利な言葉があります。『○○なのに、どこか××』という表現です。『ラーメンなのにどこかフレンチのような繊細さも感じられる』みたいな(笑)。あと、もう少し気取った感じで笑えるのは『~の風が吹いた』。『??の風景が浮かぶ』とかいう表現ですね(笑)」

■少数ながら「ド直球」派も……

さて、ここまでアナウンサーたちの、さまざまな「誤魔化しテクニック」を紹介したきたが、中にはこんな人たちもいる。一切誤魔化さない「ド直球派」だ。

東京キー局でニュースキャスターを務める女性アナウンサーは潔い。

「私の場合、嘘をついて誤魔化したくないので、『ごめんなさい、あまり食べたことがなくて苦手な味です』と伝え、そのなかでも食べられるものはおいしくいただくと思います。『あの人がおいしいと言っていた』というのが広まると大変ですし、次にまた同じテイストのお店に行く事態を避けるためにも、誤魔化さないほうが良いのではないかと思います。参考にならないかもしれませんね……ごめんなさい!」

そして、地方局出身のフリーアナウンサーの女性も、はっきり「まずい」と伝えるという。

「いろいろ考えてみたのですが、お得意先でも遠慮なく『おいしくないですね』と笑顔で言います。状況もあるかと思うのですが『私は苦手ですー』とストレートに言う感じでしょうか。また、まずい場合は、箸もつけません。大概『マズい=安い店』なので。例外もありますが。なんか、書いてて『私も結構、いやな女なのか⁉』と思いますが、40代半ばともなれば、こんな感じでしょうか」

潔いのも、場合によっては好感を得ることがあるのかもしれない。あくまで「場合によっては」だと思うので、状況をよく判断し、自己責任で潔く「マズい」と言ってみるのもひとつの方法だと言えるだろう。とはいえ、筆者はそんなにオススメはしないが。

■「食レポは小泉純一郎でやるのが基本です」

取材を進めると、ある意味「食レポ」の神髄を言い表したと感じるフレーズを聞くことができた。それを最後に皆さんにお伝えしよう。語ってくれたのは、やはりさっきの「1を100にするのはあり」のキー局女性アナである。

「食レポは小泉純一郎でやるのが基本です。自信たっぷり言い切る! フレーズ勝負。『感動した‼』が基本。食レポっていろんなこと言うのが基本だと思ってる人がたくさんいるけど、本当においしいときって言葉が出ないし、意外と人ってしかめ面みたいな顔をするんですよ。わたしが食べたあとすぐ饒舌なときはあんまりおいしくない時。おいしいものへの感想って、少し後にきますから」

この言葉がある意味一番、みなさんの参考になるのではないか。さあ、今日からあなたも「小泉純一郎」になりきって、接待の場で「食レポ」に励んでいただきたい。

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鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro

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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

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