1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

居酒屋チェーンはもう限界だ…「コロナ後の酒場」に起きる3つの大変化

プレジデントオンライン / 2020年11月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Maron Travel

■繁盛店とガラガラ店の「格差」は、なぜ生じたのか

外食業界は新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けた。なかでもアルコールを提供する居酒屋やバーなどの酒場は、惨憺(さんたん)たるありさまだった。筆者は外食や料理業界を専門にしているが、なかでも酒場の現場を体験したいという思いがあり、今年2月から都内の繁華街にある新興の洋風チェーン居酒屋に不定期で勤務している。

そうした経験から、これからの酒場には以下の3つの変化が起きると感じている。

(1)都心の繁華街立地 → 住宅地に近い立地
(2)大箱店 → 従業員の顔が見える小箱店
(3)チェーン的な店 → 「人の魅力」を売る店

居酒屋やバーは十把ひとからげに営業不振に陥っていたといわれるが、じつはそんなことはない。業態や立地などによっては、まったくとはいわないが、ほとんど影響を受けない店もあった。11月現在、客足が完全にもどっている店もあれば、いまだに5割に満たない店もある。そうした「格差」がなぜ生じたのかを記していきたい。なお、対象は筆者の住む東京が中心になるのでご了承いただきたい。

■休業補償金で「かえって儲かってしまった」という店も

東京都では4月7日に緊急事態宣言が発令されたが、それ以前の3月上旬、とくに小中高校に対する休校が実施された3月2日を境にして街から人の姿が一気に消えた。筆者の勤める店でもそれまでは80席程度の客席が満席になることも少なくなかったにもかかわらず、3月は来店客が5~6組といった日が続いた。3月の売り上げは対前年比で3~4割。当然、赤字だ。

緊急事態宣言から5月のゴールデンウィークまでは東京都の休業要請に従い、店を閉めていた外食店が多かったが、なかには要請に従わずに営業を続けた店や、表向きは休業しながらも常連客を入れていた店も存在する。営業を続けた繁華街にある焼き鳥店の店主は、「うちの従業員は、外国人留学生を含む苦学生ばかり。彼らに給料を払うために休むわけにはいかなかった」と話す。

この頃には休業補償金や持続化給付金の手続きもはじまったが、支給額が一律であったため、売り上げ規模が大きな店ほど苦しくなった。高単価のレストランやバー、大箱の居酒屋など、月の売り上げが1000万円単位の店からは恨み節が聞こえた一方で、1人で営業している月商100万円前後のバーやスナックなどは売り上げ減をカバーできたばかりでなく、「大きな声じゃ言えないが、かえって儲かってしまった」という店も存在する。そのなかには、したたかに「闇営業」を続けていた店もある。

ゴールデンウィークが明けると営業を再開する店が徐々に増え、6月に入るとほとんどの店が営業を再開した。ただし、東京都の要請に従って時短営業するなど、「おっかなびっくり」の雰囲気である。ここから時短営業の要請が解除された9月中旬まで、酒場の明暗はくっきり分かれることになった。

■落ち込みが激しかったのが大崎や田町といったエリア

まずは、立地について見ていく。上野や浅草といった観光地や買い物客でにぎわう街、それから銀座、赤坂などの社用族の飲み会や接待需要に支えられている街は、壊滅状態といっていい。前者であれば外国人観光客が主客層であった店は、つぎつぎに閉店、廃業。浅草の有名老舗お好み焼き店では、従業員すべての首を切って休業したという。

後者であれば、たとえば、役人や政治家がいう「接待を伴う飲食店」の客たちで成り立っているような銀座のバーは大打撃であった。クラブやキャバクラなどが休業したため同伴やアフターなどの需要がまったく見込めなくなったからだ。

新橋や神田といった会社員でにぎわう大衆的な繁華街も、リモートワークが推奨されるようになってからは人影がまばらになった。なかでも落ち込みがとくに激しかったのが、大崎や田町といった比較的新しい企業がオフィスを構えるエリアの店だったという話も聞いた。そういった企業のほうが、リモートワークを積極的に採り入れたからだろう。

 吉祥寺・ハモニカ横丁
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

飲み屋街、歓楽街、ショッピング街など、多彩な顔をもち、都庁のお膝元でもある新宿は、エリアによってばらつきはあるが、繰り返し名指しで指弾された影響は大きく、ゴーストタウンのようになった。

■都心の高い店で飲むより、地元の良心的な店を開拓したい

その一方で都心から離れ、住宅街に近い街の酒場には地元客が通い続けた。筆者の地元でも、ふだんは会社の近くで飲むことが多かったが、出社していないので、あるいは会社の近くでは飲みづらいのでという理由で家の近くの酒場を利用するという人に随分会った。

行きつけのバーの店主も、「来てくれるのはありがたいが、『密』になってしまうのも困りもので……」と、閑古鳥が鳴く都心のバーテンダーが聞いたら怒りそうな悩みを抱えていた。

そこから導かれる結論が、先に挙げた①である。リモートワークは今後も推奨され、定着していくことになるだろう。これを機に、都心の高い店で飲むより、地元の良心的な店を開拓してみようという消費者が間違いなく増えるはずだ。

■「オフィシャル飲み」から「プライベート飲み」に

会社の飲み会や取引先との宴会は、今後も控えられる傾向が続きそうだ。コロナウイルスに感染することを恐れてということもあるだろうが、そもそもそういった「オフィシャル飲み」というものを敬遠するトレンドが今回の騒動によって拍車がかかったように思える。すでにひと昔前に見かけた20人、30人規模の飲み会もめっきり見なくなった。

筆者の勤める店でも以前は10人規模の団体客が多かったが、いまはほとんどが2人客、多くて3~4人である。こうなると大箱店はつらい。テーブルの配置からして4人席が基本であることに加え、もともと家賃の高い都心ではつねに満席になっていないと利益がでないような収益構造になっている場合が少なくないのである。

コロナ騒動以前からいわれてきたことだが、大箱の居酒屋やダイニングがいよいよ淘汰されるだろう。先に挙げた②の流れが加速することは間違いない。

こういった2~4人で訪れる客は、義理やつき合いではなく、仲のいい同僚や気の置けない友人同士の「プライベート飲み」である。プライベートであれば、自分たちの食べたいもの、飲みたいものを求め、行きたい店を選ぶ。

食べ放題の和牛焼肉。ワタミは2020年6月11日、和牛焼き肉食べ放題の新業態「上村牧場」を国内外で展開すると発表。居酒屋と並ぶ新たな主力業態として、5年後に国内200店、海外は10の国・地域で100店の展開を目指す(東京都大田区)
写真=時事通信フォト
食べ放題の和牛焼肉。ワタミは2020年6月11日、和牛焼き肉食べ放題の新業態「上村牧場」を国内外で展開すると発表。居酒屋と並ぶ新たな主力業態として、5年後に国内200店、海外は10の国・地域で100店の展開を目指す(東京都大田区) - 写真=時事通信フォト

■「安くて、それなりにおいしい」チェーン居酒屋は衰退必至

イタリアン、中華、エスニックといった料理のジャンル、あるいはビールやワイン、日本酒が好きであれば、そうしたアルコールに特化した店を選ぶ。選択肢からはずされがちになるのが、なんでもそろっているのが売りであった総合居酒屋である。

わざわざ訪れるのであれば、少し気張ってということにもなる。山手線のすべての駅前にあるようなチェーン店よりは、個性の際立つ知る人ぞ知る店を選ぶ。この店でしか食べられない料理、味わえない酒、体験できないサービス。そういったものを求め、クチコミサイトやSNSを通じて店を探すことが、とくに若い世代の間では普通になっている。

「安くて、それなりにおいしい」チェーン居酒屋の需要が完全になくなるとは思わないが、とくに競争の激しい都心においては徐々に衰退していくのではないだろうか。ワタミが居酒屋から焼き肉への業態転換をすすめているのは、その予兆といえる。先に挙げた③の流れである。

■酒場の店主たちは「常連さんに助けられた」と話す

この潮流はコロナ騒動によって顕在化し、加速した。この半年あまりのあいだにあらためて思い知らされたのは、そこでしか会えない「人」、すなわち店主であり、従業員の存在の大きさである。

酒場の店主たちにこの半年間をふり返ってもらうと、かならずといっていいほど「常連さんに助けられた」という言葉が返ってくる。その常連客はなにをしに店に行ったかといえば、その店がなくなってほしくないからである。もっといえば、店主や従業員が心配であり、応援したいからである。

こうした親密な関係を築けるのは酒場の特権だ。同じ外食店でも滞在時間が短く、従業員との接点が少ないほかの業態、たとえばファミリーレストランやファストフード、食堂などでは、従業員と客の間に濃密な関係性は生まれにくい。

■「やきとり大吉」がいまだに800店規模を維持できる理由

ただし同じ酒場でもチェーン居酒屋は、「人」の魅力を売りにすることが苦手である。チェーンの最大の利点は、どこの店に行っても同じクオリティの商品とサービスが同じ価格で提供されることによって得られる安心感であり、そこで働く従業員は主役になりにくいからだ。チェーン、あるいはチェーン的な酒場は、平時にはありがたい存在かもしれないが、今回のような非常時には見向きされなくなる。

筆者が勤める店も業態としては秀逸だと思うが、悲しいかな、外出や飲み会が制限された時期にわざわざ訪れようとする客は少なかった。チェーンの限界を身をもって感じた。

前段でわざわざ「チェーン的」と加えたのは、たとえ同じ看板を掲げていても地域に根差し、地元に愛される店づくりは可能であるからだ。地元密着型のチェーン居酒屋「やきとり大吉」がいまだに800店程度の店舗数をほこっているのがその証拠だ。反対に業態の優位性や商品の魅力だけで支持されている居酒屋チェーンは、早晩陰りが見えてくるだろう。業態は模倣され、商品は飽きられるからだ。

したがって大手から家族経営の店まで、すべての酒場の経営者は、はやりの業態や商品に飛びつくのはほどほどにして、末永く客に愛されることを第一に考えるべきだ。それが生き残りのためであり、転じて日本の酒場文化を豊かにすることにもなるのである。

----------

石田 哲大(いしだ・てつお)
ライター
1981年東京都生まれ。料理専門の出版社に約10年間勤務。カフェとスイーツ、外食、料理の各専門誌や書籍、ムックの編集を担当。インスタグラム。

----------

(ライター 石田 哲大)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください