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「三越伊勢丹の"余命"はあと2年強」経済アナリストが試算する百貨店4社の末路

プレジデントオンライン / 2020年12月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

百貨店各社が岐路に立たされている。復活の見込みはあるのか。経済アナリストの馬渕磨理子氏は「百貨店大手4社の“余命”を試算したが、あまり時間は残っていない。早期の変革が求められる」という——。

■百貨店の売上高はコロナ以前の7~8割

「小売りの王様」として君臨してきた百貨店が岐路に立たされています。百貨店の販売額は約30年前に比べて半減。地方に加えて主要都市でも閉店ラッシュが続いています。インバウンド需要で一息ついていましたが、コロナ危機でそれらも剝がれ落ちてしまいました。

日本百貨店協会のデータによると、4月の業界の売上高総額は前年同期72.8%減、5月は同65.6%減と緊急事態宣言の影響下で売上高が大幅に落ち込みました。この9月は同33.6%減と持ち直しましたが、それでも各社はコロナ前の7~8割程度の売上高です。

これから最も消費が伸びる年末・年始商戦の時期に突入しますが、今年は例年のような売り上げは期待できそうにありません。今後も7割経済が続くとすれば、百貨店各社の手元の現預金はいつまで持つのでしょうか。本稿では、百貨店大手4社の現状の赤字額と現預金から、耐えうる体力を試算しました。

■コロナ禍、EC・ライブコマースで一定の成功も

コロナ禍の売上減を補うため、百貨店各社はオンライン販売(EC)に力を入れています。そのなかには実績を出すものもあります。

たとえば阪神百貨店で毎年ゴールデンウィークと秋に開催している「大ワイン祭」は、例年であれば1回あたり約1億円を超える売上高を誇る名物催事です。コロナの影響で今年のゴールデンウィークはオンラインのみで実施しましたが、1週間で6000万円を売り上げたことで、ECでも手応えをつかんでいるかのようにも思えます。

高島屋は2021年2月期第2四半期の決算説明会資料で、2020年度のネットビジネス売り上げの計画を270億円と発表しています。また2023年度のネットビジネスの売上目標を300億円から500億円に上方修正しています。

しかし、高島屋のコロナ以前の売上高は9190億円であることから、500億円に上方修正されたとしてもECの占める割合は5.4%程度です。抜本的改革なしには立て直しは難しいでしょう。

さらに、エイチ・ツー・オー リテイリングは、2019年5月14日に公表していた中期計画「GP10-2 フェーズ2(2019-2021年度)」を10月30日に取り下げると発表しました。続いて、三越伊勢丹ホールディングスも18年11月7日に公表していた中期計画(2019年度~2021年度)を11月11日に取り下げています。こうした動きからも、百貨店業界が先の見通せない状況にあることがわかります。

■百貨店はあと、どれくらいもつのか

百貨店各社はあと、どれくらいもつのでしょうか。コロナ以前(2020年2月期、3月期)の売上総利益、販管費から、これからの1カ月当たりの営業損益を試算ました。試算の前提は「7割経済」。売上総利益はコロナ以前の3割減の7割とします。一方、コストである販管費はそのまま3割減とすることは難しいため2割減の8割とします。これと、最新の中間決算の現金預金を用いることで、あとどのくらいで現金預金が枯渇するかがわかります。

7割経済の試算

三越伊勢丹ホールディングスの売上総利益は3227億円で、ここから3割減の値は2258億円。1カ月当たりの売上総利益は188億円になります。

販管費は3070億円ですが、2割減の値は2456億円です。1カ月当たりの販管費は204億円になります。

このため、【売上総利益(188億円)-販管費(204億円)=-16億円】となり、1カ月当たりの営業損失は16億円です。中間決算の現金預金は459億円ですから、枯渇までは28カ月(2年4カ月)と計算できます。

■残りの3社はどうなるか

残りの3社も同様のロジックで試算すると、以下のようになります。

高島屋の営業総利益は2857億円で、ここから3割減の値は1999億円。1カ月当たりの売上総利益は166億円になります。

販管費は2601億円ですが、2割減の値は2080億円です。1カ月当たりの販管費は173億円になります。

このため、【売上総利益(166億円)-販管費(173億円)=-7億円】となり、1カ月当たりの営業損失は7億円。中間決算の現金預金は1194億円ですから、枯渇までは170カ月(14年2カ月)です。

J.フロント リテイリングの売上総利益は2069億円で、ここから3割減の値は1448億円。1カ月当たりの売上総利益は120億円になります。

販管費は1615億円ですが、2割減の値は1292億円となり、1カ月当たりの販管費は107億円になります。

このため、【売上総利益(120億円)-販管費(107億円)=13億円】となり、1カ月当たりの営業損益は13億円の黒字です。中間決算の現金預金は1243億円ですが、黒字のため枯渇の心配はありません。

エイチ・ツー・オー リテイリングの売上総利益は2560億円で、ここから3割減の値は1792億円。1カ月当たりの売上総利益は149億円になります。

販管費は2448億円ですが、2割減の値は1958億円となり、1カ月当たりの販管費は163億円になります。

このため、【売上総利益(149億円)-販管費(163億円)=-14億円】となり、1カ月当たりの営業損失は14億円。中間決算の現金預金は274億円ですから、枯渇までは19カ月(1年7カ月)です。

大阪の街並み
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TkKurikawa

この試算では、J.フロント リテイリングは黒字となっていますが、さらなる状況悪化に備えられるだけの厚みのある黒字とはいえません。また、高島屋は、耐久性があるようにみえますが、借金を増やすことで手元資金を分厚くしているだけです。いずれも自ら収益を上げることができる構造に変革を起こさなければ根本的な解決とはなりません。

■オンライン福袋では起死回生は難しい

百貨店各社は、年末・年始商戦での感染防止のために「オンライン福袋」を打ち出しました。新型コロナの影響で、福袋の内容も例年とは様変わりしており、生活の「応援」をテーマにした福袋が並んでいます。

とはいえ、上述のように百貨店におけるECの割合が低いなかで、オンライン商戦で利益を上げたとしても、百貨店全体を支えることはできないでしょう。ここから先、どれくらいのスピード感を持って、変革を起こすことができるのか。手元資金の試算からも時間はそう長くは残っていません。

百貨店は、変化の対応を先送りにしたことで凋落を招いたと言われていますが、歴史をさかのぼればイノベーターだった時代があるのです。『関西学院経済学研究』47号に掲載の濱名伸氏の論文「近代日本における百貨店の誕生」に百貨店のルーツが記述されています。

江戸時代の呉服屋は見本を持って得意先を回るか、商品を得意先に持ち込む形で売り上げを立てていました。当時の支払はお盆と年末の2回という売掛の方式であったことから、回収リスクや金利分を商品価格に反映されてしまい、消費者に届く値段が高くなっていました。

■「小売りの王様」というプライドを捨てる覚悟も必要

そこで、越後屋(現在の三越)が「店前売り」「現金掛値なし」のビジネスモデルを導入したのです。その結果、いい商品が手頃な価格で消費者の手に届くようになり、大衆消費の花が開きました。小売りの革命を起こしてきた百貨店。今こそ、百貨店のもつDNAの底力で自らを改革して立ち上がってほしいところです。

百貨店は、消費者が都心の一等地にわざわざ出向くことで、“ハレ”の空間を体験させる場所でした。そのビジネスモデルが破綻しており、ユニクロやニトリといった量販店が都心の百貨店にテナント入居している光景は、日常のものとなっています。そのような中で、一等地の不動産を保有しながら存在する必要があるのか、問い直す必要があります。

例えば、三越伊勢丹HDであれば、建物・土地で約7000億円、エイチ・ツー・オー リテイリングであれば、建物・土地で約2500億円の資産があります。一等地のブランド価値がなくなっている今、「小売りの王様」というプライドを捨て、不動産などの資産を売却も1つの手段でしょう。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
経済アナリスト
認定テクニカルアナリスト。京都大学公共政策大学院を修了後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。

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(経済アナリスト 馬渕 磨理子)

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