1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

いったいどこまで逮捕者が広がるのか…池上彰「東京五輪が汚職まみれになってしまった根本原因」

プレジデントオンライン / 2022年10月7日 9時15分

東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事会に出席する高橋治之氏=2020年3月30日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■五輪のスポンサーは「1業種1社」が原則だったが…

【増田ユリヤ】東京五輪汚職の波紋が広がっています。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が8月17日に東京地検特捜部に逮捕されたのをはじめとして、大会スポンサーで紳士服大手「AOKIホールディングス」の青木拡憲・前会長など3人も高橋氏による贈賄容疑で逮捕。さらに出版大手「KADOKAWA」も、同じく贈賄容疑で角川歴彦元会長をはじめ3人が逮捕されました。

【池上彰】KADOKAWAからは私も書籍を出版しているので驚きました。KADOKAWAもそうでしたが、五輪のオフィシャルスポンサーになると社員が使う名刺や紙袋に、五輪マークや大会エンブレムを使用できるようになります。新聞など報道各社も、五輪取材をするために高い代金を払ってオフィシャルスポンサーになっていました。国内スポンサー料は、ランクにもよりますが一社当たり1億円とも、最低15億円から150億円ほどともいわれており、経営の苦しい毎日新聞や産経新聞がどうやってその資金を捻出したのか、不思議なくらいです。

【増田】五輪のスポンサーというと、これまで「1業種1社」が原則でした。しかし東京大会を見ると、メディアだけでなく航空業界のANAとJALや、警備業界のセコムと綜合警備保障など、同じ業界の企業が並んでいます。

■東京五輪では3700億円にも達した国内スポンサー収入

【池上】報道によれば、〈従来の「1業種1社」の原則を崩し、契約の門戸を広げた「東京方式」が奏功したが、受託収賄容疑で逮捕された大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者もこの方式を推し進めた〉(時事通信社、2022年8月18日配信)とされています。協賛を希望する企業が多かったことから、原則を覆して同じ業種の複数の企業をスポンサーとすることでより多額の資金を集められると考えたのでしょう。実際、2016年のリオ五輪では933億円だった国内スポンサー収入が、東京五輪では3700億円にも達したと言います。

【増田】確かにスポンサーになると、アスリートが出演する五輪関連のCMを流すことができます。東京五輪前も、例えばスポンサーである味の素が「アスリートの食事をサポートしています」とアピールする広告があちこちで見られました。

【池上】五輪大会の商業化が始まったのは、1984年のロサンゼルス五輪からでした。というのもモントリオールで行われた1976年の大会で、とてつもない赤字を出したことがきっかけです。大会を主催したモントリオール市は多額の借金を背負い、市民が何年にもわたって高い税金を払って赤字の補填を行いました。しかも両大会の間の1980年に行われたモスクワ五輪は西側諸国のボイコットに遭っており、文字通り五輪は最大の危機に瀕していました。

■「五輪は儲かるイベント」となっていった

【池上】そこへ実業家出身のピーター・ユベロス氏が大会組織委員長に就任し、大胆な改革を行いました。例えば協賛企業に五輪マークの使用を独占的に認める一方、テレビ局からは高い放映権料を獲得。結果、ロサンゼルス大会は2億ドル超の黒字となったのです。多額の赤字から一転、「五輪は儲かるイベント」となり、開催地に名乗りを上げる地域が殺到するようになりました。

【増田】本来、五輪にかかわるということだけでも大変名誉なことですし、多くの人からの尊敬や称賛も得られるはず。にもかかわらず、なぜ賄賂のような金銭を要求するのか、理解に苦しみます。

【池上】全くその通りですね。高橋容疑者がもともと所属していた電通などの広告代理店や、その後、独立後に開業したコンサルタント業というのは、基本的には仲介や口利きが職務の一部です。それゆえに、今回の賄賂も「スポンサー企業に認定されるまでの仲介をするのだから」という認識で、得て当然の対価だと思っていた可能性は否定できないでしょう。ただし五輪組織委員会に所属していた以上は、大会特別措置法によって「みなし公務員」とされていますから、対価を得れば、それは収賄罪に問われます。

■なぜフランス当局は竹田恒和氏から事情を聞いたのか

【増田】一方で、IOC(国際オリンピック委員会)の委員らに対しては、招致の段階からいわゆる「接待合戦」のようなことが行われていると聞きます。

【池上】1998年に開催された長野冬季五輪の際にも、海外の委員に莫大な資金を提供したり、来日時に下にも置かぬ接待をしたりして、開催地を勝ち取ったと言われています。2000年に田中康夫さんが長野県知事に就任した際、その全貌を知るべく「招致当時の帳簿を全部出すように」と命じましたが、すべて破棄されていたといいます。

「みなし公務員」の話で言えば、日本では贈収賄は公務員とみなし公務員にしか適用されませんが、フランスではそうした身分にかかわらず、贈収賄が成立する法律になっているそうです。ここに引っ掛かったのが、招致委員会の理事長だった竹田恒和氏です。

フランス当局は、東京五輪の招致委員会がシンガポールのコンサルタント会社に支払った約2億3000万円が、開催都市決定の投票権を持つIOC委員側への贈賄に使われた疑いがあるとして捜査していました。そこで、招致委員会の理事長として、コンサル会社との契約書にサインしていた竹田氏が捜査対象になったわけです。さらに日本での組織委員会を巡る贈収賄問題に関連して、東京地検特捜部は竹田氏にも任意で事情聴取を行ったと報じられています。

【増田】フランスのほうが、こうした口利きには厳しい姿勢を取っているんですね。

■「ステート・アマ」と呼ばれる東側諸国の選手たち

【池上】フランスは2024年にパリ五輪を迎えますが、その前に特別法を作り、監査機関を新設しています。また、イギリスも2012年のロンドン大会では会計検査院や下院決算委員会が、繰り返し、支出を点検しています。

【増田】日本でもそうした姿勢や仕組み、制度が必要になるのではないでしょうか。

【池上】西側諸国では「儲かるイベント」としての五輪がもてはやされるようになった一方で、いわゆる東側、特に権威主義国では国威発揚のために使われるようになりました。五輪は本来、アマチュアスポーツの祭典なのですが、東側諸国は国家が選手やチームを丸抱えした「ステート・アマ」と呼ばれる選手たちが、まさに国を背負って出場していました。それゆえに東ドイツやソ連の選手は強いと言われていたのですが、強さの理由はそれだけではなかった。ドーピングなどの問題が、続々と明らかになったのです。

【増田】東西冷戦当時の東側では、有力な女性選手がホルモンコントロールを強要されたり、そのために妊娠・中絶させられたりした事例も指摘されていました。今年行われた北京冬季五輪でも、女子フィギュアスケートで禁止薬物が検出されたロシアの15歳の選手がいましたね。結局出場は許されましたが、「ロシアは今なお、十代半ばの若い選手に薬物を投与しているのか」と国際社会が驚愕しました。

【池上】こうした傾向は、「アスリートファースト」の風上にも置けません。

■2030年の「札幌冬季五輪」を招致するべきなのか

【増田】札幌市は2030年冬季五輪の招致を目指していますが、この事件で機運はしぼんでしまうでしょうね。「誘致のためなら、何でもやる」「開催地に決まれば、スポンサーを集めるために仲介者が表に出せない金を動かしている」というイメージを払拭できない以上、歓迎ムードにはならないでしょう。

大倉山でのスキージャンプ
写真=iStock.com/ColobusYeti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ColobusYeti

【池上】本来、オリンピックの開催地には途上国が「国際的イベントを開催できるようになった」と国際社会にアピールすることで、先進国の仲間入りをするという意味合いがありました。例えば1960年の東京五輪も、1988年のソウル五輪もそうでした。

しかし今の五輪で目立つのは、招致やスポンサー集めに代表される過剰な商業主義と、人気競技へのプロの出場や五輪種目の認定を許すことによる放映権料の高騰、さらにはドーピング問題に象徴される国威発揚や勝利至上主義といった問題ばかりです。大会運営側やメディアは「アスリートファーストだ」と口では言いますが、実態はそうなっていません。五輪は「平和とスポーツの祭典」という原点に立ち返ることができるか、大きな岐路に立たされています。

----------

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。

----------

----------

増田 ユリヤ(ますだ・ゆりや)
ジャーナリスト
神奈川県生まれ。國學院大學卒業。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。日本テレビ「世界一受けたい授業」に歴史や地理の先生として出演のほか、現在コメンテーターとしてテレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」などで活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『教育立国フィンランド流 教師の育て方』(岩波書店)、『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)など。

----------

(ジャーナリスト 池上 彰、ジャーナリスト 増田 ユリヤ 構成=梶原麻衣子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください