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環境省は温暖化防止に役立っていない…日本が「環境後進国」に落ちぶれてしまった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年8月7日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hrui

なぜ日本の温暖化対策は世界に後れを取ってしまったのか。ジャーナリストの山田順さんは「根本的に日本政府の政策には、再エネへの“やる気”が感じられない。さらに、日本のメディアに地球温暖化に対する危機意識が欠如しており、世論が形成されていないことも影響している」という――。

※本稿は、山田順『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(ベストブック)の一部を再編集したものです。

■約20年前までは太陽光で世界をリード

日本が「環境後進国」「温暖化対策周回遅れ」になってしまった原因の一つに、太陽光をはじめとする再エネを軽視してしまったことがある。これもいま思うと本当に情けないが、2000年代前半までは日本が世界の太陽光発電をリードしていた。

1974年、「オイルショック」の教訓から、石油に代わるエネルギー源を確保しようと、「サンシャイン計画」がつくられた。通商産業省(現経済産業省)主導で巨額の財政援助を技術開発に投じる大型プロジェクトである。

対象となったのは、「太陽光発電」「太陽熱の利用」「風力発電」「潮汐や温度差などの海洋エネルギーの利用」「地熱発電」など、今日、再エネと呼ばれるもののほぼすべてがそこにあった。

しかし、サンシャイン計画は、その後、一時頓挫(とんざ)した。石油価格が落ち着き、新しいエネルギー源への関心が薄れたからだ。それに輪をかけたのが、原子力への期待だった。

■補助金による促進策が裏目に出てしまった

当時、石油に代わりえるのは原子力という言説が広まり、「核融合発電が次世代発電の切り札。30年以内に実用可能になる」と言われた。それを思い出すと、イノベーションの未来予測というのは本当に難しいと実感する。

太陽光発電が再注目されたのは1990年代に入って、地球環境問題が世界で議論されるようになってからだ。その結果、サンシャイン計画は「ニューサンシャイン計画」と改名されて、1994年から太陽光発電への補助金制度が始まった。

これによって発電コストが下がり、住宅用の太陽光発電も進展を遂げた。こうして1999年には太陽光パネル生産において、日本メーカーが世界の首位に立った。ここまで、太陽光発電は日本の“お家芸”で、独走状態だったと言っていい。

ところが、2009年に家庭や事業所などで太陽光発電によってつくられた電気の余剰分を電力会社が買い取る「太陽光発電の余剰電力買取制度」がスタート。さらに、東日本大震災後の2012年には、「固定価格買取制度」(FIT法、2017年に改正)がスタートしたというのに、太陽光発電は進展しなかった。

政府としては、補助金制度などで太陽光発電を促進してきたつもりだろうが、その促進策が裏目に出てしまったとしか言いようがない。

その結果、太陽光発電が電源構成に占める比率は10%弱にとどまっている。再エネ全体でも20%弱である。

2022年12月、「IEA」(国際エネルギー機関)は報告書で、「再生可能エネルギーは、2025年初めには石炭を抜いて世界最大の電源になる」との見通しを発表している。

■日本の太陽光発電コストはヨーロッパの2倍近い

現在、太陽光などの再エネが進展しない原因の一つに、発電コストが高いことが挙げられている。太陽光システムの発電コスト(工事費やモジュールを含む)を比較すると、欧州が15.5円/kWに対し、日本は28.9円/kWとなっていて、2倍近くの開きがある。

そのため、「固定価格買取制度」で政府は、買取価格を高く設定した。そうすれば、太陽光事業者はコスト削減せずとも利益を出せると考えたのだ。

しかし、過度の補助金というのは、逆効果になることもある。日本の場合は、それを目当てに玉石混交の業者が参入し、かえって価格競争力を弱めてしまった。さらに、質の悪い“悪徳業者”の存在が、再エネ業界全体の信用低下を招き、行政に対する信頼までも失わせてしまった。

ほかにも原因はいくつか挙げられるが、根本的に日本政府の政策には、再エネへの“やる気”が感じられない。たとえば、2018年に策定された「第5次エネルギー基本計画」の序文は次のようになっていた。

「現状において、太陽光や風力など変動する再生可能エネルギーはディマンドコントロール、揚水、火力等を用いた調整が必要であり、それだけでの完全な脱炭素化は難しい」

■中国製太陽光パネルなしには発電ができない

「難しい」と言ってしまっては、「それならなぜやるのか」となってしまう。明らかに再エネへのインセンティブを削(そ)いでいる。

こうしていまや太陽光発電は中国に完全に追い抜かれ、太陽光パネル生産においては、日本企業はトップ10にも入らなくなった。

世界の太陽光パネル生産メーカートップ10(2022年)のうち、8位のファーストソーラー(アメリカ)、9位のハンファQセルズ(韓国)以外の8社は、すべて中国企業である。5位のカナディアンソーラーは、本社がカナダで登記されているが、主力工場は中国にあり、経営者も中国系なので、実質的には中国企業である。

この結果、太陽光パネルにおける中国のシェアは95%にまで達し、もはや中国製太陽光パネルなしには太陽光発電ができなくなってしまった。

2022年12月、東京都は、小池百合子知事の念願である「新築戸建て住宅への太陽光パネル設置義務化」の条例を成立させた。となると、中国製パネルを使うことになるので、懸念する声が上がっているが、もはや手遅れである。

太陽光ばかりではない、風力においても、中国にシェアを奪われ、もはや日本勢の存在感はない。風力発電メーカーのシェアを見ると、ヴェスタス(デンマーク)、GE(アメリカ)以外の上位企業は、ほとんどが中国企業である。

■1992年が地球温暖化対策の元年

では、ここから時間をさかのぼって、日本と世界の地球温暖化対策の経緯をざっと振り返ってみたい。

世界の地球温暖化対策の原点とされるのが、1992年6月に、ブラジルのリオデジャネイロで開催された「UNCED」(United Nations Conference on Environment and Development:国連環境開発会議、俗称「地球サミット」)だ。

この会議の4年前、1988年には、「UNEP」(国連環境計画)と「WMO」(世界気象機関)により「IPCC」(気候変動に関する政府間パネル)が設置され、ここで、GHGの増加による地球温暖化の科学的、技術的、そして社会的、経済的な評価を行っていくことが決まった。

そうして、1990年に「第1次評価報告書」(AR1)が公表され、地球温暖化が「科学的不確実性はあるものの、気候変動を生じさせていることを否定できない」とされた。このAR1を踏まえて開催されたのが、「地球サミット」である。

■日本主導で採択された「京都議定書」の重み

「地球サミット」では「リオ宣言」が採択され、この宣言の合意事項を実施するためのルールとして、「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」「森林原則声明」「アジェンダ21」などが採択された。

次のエポックは、なんといっても1997年12月に、京都で開催された「COP3」である。ここで採択された「京都議定書」は、その後の世界の地球温暖化対策の指針となった。京都会議では、日本が議長となり、初めて地球温暖化対策を具体的にどうするかが話し合われた。そうして、先進国における国別のGHGの削減目標が定められ、具体的な削減行動が義務づけられることになった。

日本政府は、この「京都議定書」を踏まえて、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(地球温暖化対策推進法)を制定した。「京都議定書」は2005年に発効し、そこから法的にも削減義務が発生した。

このような経緯から、2001年に行われた中央省庁再編では、環境省が発足した。しかし、環境省が地球温暖化対策を主導することは、今日までできていない。

■環境省と経済産業省の対立は必然だった

環境省は、これまで環境庁が行ってきた仕事を引き継いだうえに、厚生省の所管だった廃棄物リサイクル対策などを引き受けることになった。また、大気汚染などの公害防止のための規制、監視測定、公害健康被害者の補償などを一元的に担当していくことになった。しかし、地球温暖化対策は他省庁と連携して行っていくとされたに過ぎなかった。

そのため、地球温暖化対策の要となる再エネ促進などのエネルギー対策は、経済産業省と対立することになった。環境省は、「京都議定書」の提言を重視して脱炭素を進めたい。しかし、経済産業省は財界をバックに、エネルギーの安定供給を最優先とした。これでは、対立しないわけがない。

環境省と経済産業省の対立の最大の焦点は、カーボンプライシングの一つ「排出量取引」だった。2007年、「排出量取引」導入を目指す環境省と、それに反対の経済産業省の対立が表面化したことがあった。環境省の田村義雄事務次官(当時)が「排出量取引はGHG削減の有効な選択肢の一つ」と導入をほのめかすと、即座に「日本では財界による自主行動計画方式が最適」と、経済産業省の北畑隆生事務次官(当時)が牽制(けんせい)したのだ。

経済産業省
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■2015年、カーボンニュートラルが義務化

当時、排出量取引制度を義務化することに、財界は反対しており、「賛同企業の自主的な対応に任せる」というのが、財界の方針だった。それを経済産業省が代弁したのである。さらに、財界は「炭素税」の導入にも反対した。そのため、経済産業省は、この点でも環境省と対立した。

この対立は、いまもなお続いている。岸田内閣が成立させた「GX推進法案」で、カーボンプライシングの本格的実施が2030年以降に先送りされたのも、そのためである。

地球温暖化は、なんとしても止めなければならない。この点で世界各国が合意し、枠組みが成立したのは、2015年の「COP21」で、このとき結ばれたのが「パリ協定」である。

「パリ協定」の第4条は、世界各国に気候変動対策の行動計画を中心にまとめた「NDC」(Nationally Determined Contribution:国家が決定する貢献)を要請している。つまり、この後は、GHGの排出削減、カーボンニュートラルが各国の義務となったのである。

■日本の地球温暖化対策が進まない原因

「パリ協定」を受けて、日本は、2030年度に2013年度比でGHGの排出量を26%減らすことを表明した。続いて、2018年に「気候変動適応法」を成立させた。この法律では、GHGの排出削減に加えて、気候変動による被害(自然災害・熱中症・農作物への影響など)の回避・軽減を図ることが明記された。

こうして、2020年、「2050年カーボンニュートラル」が菅前首相により宣言され、2021年にはカーボンニュートラルに向け「GHGを2030年度までに2013年度比で46%削減する。さらに50%の高みに向け挑戦を続ける」という、目標が表明されたのである。

しかしこれら一連の宣言と法案強化は、今日まで、実際の行動に結びついていない。とくに、安倍政権においては、首相が地球温暖化否定論者のトランプ大統領(当時)にべったりだったこともあって、地球温暖化対策は進まなかった。

日本の地球温暖化対策が進まない原因として、もう一つ挙げておきたいのが、メディアの怠慢である。日本のメディアは、地球温暖化に対する危機意識が欠如している。たとえば、「COP」が紛糾すると、それを大々的に報道し、「化石賞」などという本線でないことを大きく取り上げ、なぜ紛糾しているかという本質的な問題を真剣に取り上げない。

■脱炭素できない国は世界に置いていかれる

地球温暖化を止めることは、じつは経済対策であり、今後の国のあり方、国民生活に大きな影響を与えるという視点がない。日本の対策が周回遅れになっていることに対して、政府や業界関係者に取材すると、「日本には日本の事情がある」という答えがおしなべて返ってくる。

そのため、2030年度までに旧式火力の100基を廃止するとした計画が頓挫し、廃止が2カ所にとどまることになったが、メディアはこれを正面から批判しない。これでは、地球温暖化対策を促進すべきという世論形成ができるはずがない。

山田順『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(ベストブック)
山田順『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(ベストブック)

岸田政権は誰一人として理解できない「新しい資本主義」を掲げたが、そのなかに地球温暖化対策は組み込まれなかった。

脱炭素化が進展し、それに基づく新たなルールが形成されれば、脱炭素を実現できない経済は置いていかれることになる。それがわかっているなら、痛みをともなう再エネ転換でも早いに越したことはない。

脱炭素競争から脱落すれば、日本企業は多くのビジネスチャンスを失うだろう。そして、私たちの暮らしは気候変動リスクに晒(さら)されながら、経済的にもよりいっそう厳しいものになっていくだろう。

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山田 順(やまだ・じゅん)
ジャーナリスト、作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、光文社に入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長を務める。2010年より、作家、ジャーナリストとして活動中。主な著書に、『出版大崩壊』(文春新書)、『資産フライト』(文春新書)、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『永久属国論』(さくら舎)などがある。翻訳書には『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)がある。近著に『コロナショック』、『コロナ敗戦後の世界』、『日本経済の壁』(MdN新書)がある。

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(ジャーナリスト、作家 山田 順)

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