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「今の10代は読書をしない」は嘘である…大人が知らない若者から熱烈な支持を集めている作品4タイプ

プレジデントオンライン / 2023年9月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは飯田一史著『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)――。

■イントロダクション

「最近の若者や子どもは本を読まない」「ネットで動画ばかりを見ている」などといった認識が今の中高年の間に広がっているのではないか。だが、その根拠を問われても答えられず、印象だけで語っている人が少なくない。

では、各種データから見る、本当の若者・子どもの読書実態はいかなるものなのだろうか。

本書では、全国学校図書館協議会の「学校読書調査」をはじめとする各種データから、「若者や子ども、特に今の小中学生は本を読んでいる」事実を指摘。その上で、実際に10代に人気のある本を読み込み、若者や子どもが本に求める「三大ニーズ」とそれに応える「四つの型」などの分析を行っている。

小中高生の読書量は、近年の官民が連携した読書推進運動が功を奏し、1980~90年代を底として「V字回復」している。実際に今の子どもたちに人気の本(フィクション)の傾向からは、次代を担う者たちが何を嗜好(しこう)し、精神的に何を求めているかをうかがい知ることができる。

著者は1982年生まれ。出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材、調査、執筆している。

1.10代の読書に関する調査
2.読まれる本の「三大ニーズ」と「四つの型」
3.カテゴリー、ジャンル別に見た中高生が読む本
4.10代の読書はこれからどうなるのか

■読書冊数は2000年代にV字回復を遂げた

小中高校生の書籍の(*1カ月の)平均読書冊数と不読率(一冊も本を読まない人の割合)は、全国学校図書館協議会(全国SLA)が毎年行っている「学校読書調査」から推移を見ることができる。

1980年代から1990年代までにかけてはいわゆる「本離れ」が進み、1990年代末に平均読書冊数と不読率は史上最悪の数字となる(*2000年の平均読書冊数:小学校6.1冊、中学校2.1冊、高校1.3冊、不読率:小16.4%、中43.0%、高58.8%)。しかし、2000年代にはどちらもV字回復を遂げ、2010年代になると平均読書冊数は小学生は史上最高を更新(*2010年10.0冊、2022年13.2冊)、中学生は微増傾向(*2010年4.2冊、2022年4.7冊)を続け、高校生はほぼ横ばい(*2010年1.9冊、2022年1.6冊)だが、過去と比べて「本離れが進行している」とは言えない。

どうして2000年代にV字回復を遂げたのか。1990年代末から、官民連携をした読書推進の動き(*2001年の「子どもの読書活動の推進に関する法律」公布・施行、赤ちゃんとその保護者に絵本を手渡しするというブックスタート、「朝の読書(朝読)」運動など)が本格化したためである。

■本を月7冊以上読む人は全体の約3%しかいない

2000年代以降は「子どもの本離れ」は事実ではないのに、いまだ事実であるかのように語られ続けている。これはなぜなのか。ひとつには1980年代から90年代に本離れが進行していた時代の印象に引きずられ、古い認識が語られ続けているせいだろう。

もうひとつ大きな理由は、結局のところ、中高生が「大人が読んでほしい本」を読むようになったわけではなく、さらに言えば「子どもに本を読んでほしい」と思うような大人が、平均以上に本が好きな人間だから、ではないか。

国語に関する世論調査を見ると、本を月7冊以上読む人は全体の約3%しかいないのだが、日常的に「本を読む」人たちばかりの環境で長年過ごすと、たくさん本を読む人間がマイノリティであることを忘却し(または気付かないまま)、「今の若者の読書はかつてより劣化している」と誤って認識してしまう。実際には「今のほうがずっとマシ」なのに、だ。

10代の読書の実態および好む本の傾向に関して、筆者(*著者である飯田氏)は良いとも悪いとも思っていない(「おもしろい」「興味深い」とは思っている)。大人たちが憤ったり嘆いたりしても、10代の基本的な性質自体は変えられない。しかし、「こうである」という事実・現実を前提に彼ら/彼女たちと接すれば、単に「こうであるべき」という規範意識を前に出して押しつけるよりも、言葉や商品が届くようになるかもしれない。

図書館で本を読む学生
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

■10代の脳は情動の揺れ動きが激しい

フランシス・ジェンセン、エイミー・エリスナット『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』(文藝春秋)によれば、10代の脳の特徴は、情動の揺れ動きが激しく、衝動性が激しいことだという。このことを踏まえて中高生が読んでいる本を眺めていくと、以下のようなニーズを満たしていることが推察できる。

1 正負両方に感情を揺さぶる

泣ける、こわい、ときめく、笑える、切ない、スカッとする……といった感情に激しく訴えかける要素が顕著な本が好まれている。それも「哀しい」「楽しい」一辺倒ではなく、アップダウンがあったほうが、より好まれる。逆に言えば、情動を揺さぶる以外の要素、たとえば知的であるとか文体が流麗であるといった要素は(あってもいいが)必須ではない。

2 思春期の自意識、反抗心、本音に訴える

子ども・若者が自立に向かって保護者や教育者の考えや教えを相対化し、他者の視線を気にするようになり、親しい人間にもなかなか言えないことを抱えるようになる時期にふさわしい内容が、好まれている。大人が子どもに説教するようなきれいごと、正論、押しつけがましいだけの話、「いい子」なだけの主人公は好まれない。

■中高生から支持される作品の「型」

3 読む前から得られる感情がわかり、読みやすい

語彙(ごい)が平易で、描写が少なく、設定やストーリーラインがシンプルなほうが望ましい。また、泣ける、エグい(残酷で心をえぐる)、キュンとするといった「読後感が読む前からわかる」ようなタイトルや設定、あらすじ、カバーその他のパッケージングが望ましい。

学校読書調査を見ると、5年~10年、場合によってはそれ以上、中高生から支持され続けている作品や作家、ジャンルがある。

それらの「型」を見ていこう。「型」とは、登場人物や作中世界の設定やプロット(あらすじ、筋書き)の基本的なパターンを指している。代表的なものを四つあげてみよう。

(1)自意識+どんでん返し+真情爆発
(2)子どもが大人に勝つ
(3)デスゲーム、サバイバル、脱出ゲーム
(4)「余命もの(死亡確定ロマンス)」と「死者との再会・交流」

中高生の三大ニーズである、「正負両方に感情を揺さぶる」「思春期の自意識、反抗心、本音に訴える」「読む前から得られる感情がわかり、読みやすい」を効率よく満たす方法(表現上のパターン)の典型が、この四つということだ。

サバイバー
写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

■住野よる作品や西尾維新の〈物語〉シリーズが挙げられる

このうち、「自意識+どんでん返し+真情爆発」の型には次のような特徴がある。

・主人公は「周囲に馴染めない」という感覚と「他人とは違う」という“自意識”ないし自己愛が一体になった、賢い(小賢しい)けれども人間関係が不得手な人物
・主人公が、親友や恋人など特別な存在となる人物と出会い、関係を進展させていくが、終盤驚きの展開が起こる
・主人公にとっての「特別な存在」が終盤に取る行動や明かした想いは、主人公に対する秘めた感情やそれまで伝えてこなかった考えに基づくものである
・それを知った主人公も、相手に対して抱えていた情動を吐き出し、エモさ(叙情、激情)が最大限に高まる。それが読者に対して切なさを喚起する

たとえば住野よる作品や西尾維新の〈物語〉シリーズ、必ずしもこの類型に完全に合致するわけではないが似たものとしては、太宰治『人間失格』や、学校での居場所をなくして閉じこもっていた主人公が、部屋の鏡をくぐり抜けた先の城で似た境遇の6人と出会うというファンタジー青春ミステリー小説・辻村深月『かがみの孤城』などがある。

■「激情を吐露しあう」のは若者にとっては非現実的

自意識+どんでん返し+真情爆発型作品では、感極まってそれまで言えなかった熱い想いを吐露しあう場面が描かれる。しかし現代日本の実際の10代の多くは、リアルな人間関係において、本音をさらけ出してなんでも話し合える友人関係や恋愛を謳歌(おうか)しているわけではないだろう。他人に対して踏み込まないようにしているし、踏み込むことにためらいを感じる若者のほうが多いだろう。近年の若者に関する書籍を開くと、いくらでもそうした報告や分析を見つけることができる。

社会学者の石田光規は『友人の社会史』(晃洋書房)や『「人それぞれ」がさみしい 「やさしく・冷たい」人間関係を考える』(ちくまプリマー新書)のなかで、地縁・血縁や企業共同体の希薄化に伴い、人間関係の流動性が上昇した結果、日本の若者は1980年代ころから何でも打ち明けられる「親友」をもてなくなってきている、と指摘している。

■「ありえない」からこそ需要が高まっている

興味深いことに『友人の社会史』では、時代が下り、関係の流動性が高まるほど、新聞記事上に「友情の物語」が増えているとも指摘されている。これは現実のそこかしこに熱い友情が転がるようになったからではなく、逆に、現実に存在しなくなってきているからこそ、物語としての需要が高まっているのではないか、と石田は言う。

飯田一史著『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)
飯田一史著『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)

つまり、誰かに本音を吐露し、激情を交わし合いたいという若者のニーズは根強くある。にもかかわらず、それは、虚構のなかにしかほとんど存在しない──現実には「ありえない」ものになっているのである。

2010年代後半以降、中高生にもっとも支持されている作家と言える住野よるの作品は「人間関係について『踏み込めない』だけなのに、『あえて踏み込まないんだ』とかかっこつけて、なんでもわかった風にしてるんじゃねえぞ」と読者に突きつけてくるところがある。入り口は10代のリアルな自意識に始まり、ラストはもはや現実にはきわめてまれな、ある種の理想化された青春に辿り着く。それこそが、住野作品が中高生に深く刺さる理由だろう。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

実生活では、「人それぞれ」であり、互いの内面に踏み込まないにもかかわらず、読書ではその正反対の「激情や本音の吐露」を求める、というのが現代日本の若者の傾向という。だが、どうしても「大人」のわれわれとしては、マーケティングなどでは前者のような表面に見える特徴に合わせてしまいがちではないだろうか。「Z世代論」が盛んだが、こうした「内に秘めた願望」とのアンビバレンスを含めて若者たちを理解する必要がありそうだ。読書(フィクション)傾向やヒット曲などがそのヒントになるだろう。

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