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なぜ安芸高田市長は「議会との対立」を動画で煽るのか…舛添要一前都知事が振り返る「地方議会という闇」

プレジデントオンライン / 2023年10月18日 15時15分

玉城デニー知事は板ばさみになっている(2023年10月4日、沖縄) - 写真=時事通信フォト

広島・安芸高田市の石丸伸二市長が、市議会の問題点を指摘する動画をYouTubeに投稿しつづけている。石丸市長はなぜそのような行動に出ているのか。前東京都知事の舛添要一さんは「地方政治は二元代表制のため、議会の反対にあえば、改革はなにも進まない。それでも改革を進めるには、メディアを使って直接、世論に訴えるしかない」という――。

■普天間問題は国による代執行へ

日本の地方自治はきちんと機能しているのだろうか。

防衛省は2020年4月21日に、米軍普天間飛行場の名護市辺野古沖への移設計画を巡る、新たな区域の埋め立て工事に必要な設計変更を、沖縄県に申請した。

しかし、玉城デニー知事が承認しなかったために、法廷闘争になった。2023年9月4日に最高裁は県の敗訴という判決を下し、県の承認の義務が確定した。

しかし、玉城知事が期限の10月4日までに承認しなかったために、5日に斉藤国交相が代執行のための訴訟を福岡高裁那覇支部に提訴した。

代執行は、2000年の地方分権改革で開催された地方自治法に導入された手続きである。

それまでの機関委任事務が廃止され、地方の仕事は自治事務(自らが行う公的サービス)と法廷受託事務(国が業務を委託)とに分けられた。

今回は後者で、知事が義務を果たさないときには、国が代執行できるようになっている。

■玉城デニー知事は板ばさみになっている

知事が国に反対する政治的立場だと今回のような事態になるが、知事は民主的な選挙で選ばれている。

民意と国の方針が齟齬(そご)をきたした場合に、どうするのか、地方自治法の仕組みを超えて、政治的解決が必要だ。

玉城知事は、日本の法律に従うという義務と、県民の民意に従うという義務の板ばさみになっている。

東アジアの安全保障環境が厳しくなっているときに、国と沖縄県の対立は好ましいことではない。

世界一危険と言われる普天間飛行場の移転は喫緊(きっきん)の課題で、いつまでも待てるものではない。

基地について「最低でも県外」という鳩山由紀夫元首相のような非現実的な発言は問題の解決には資さない。

■国と地方の双方で人材が払底している

自民党にも、かつては山中貞則、小渕恵三、橋本龍太郎、野中広務などのように、沖縄に理解が深く、基地問題の解決にも尽力した政治家がいたが、今は同じ役割を担える国会議員はほとんどいない。

また、沖縄の政治家を見ても、中央とのパイプを活かして、一定の妥協をしながらも、沖縄県民の意向を最大限実現できる人材が減っている。

国政と沖縄県政、双方での人材払底と、妥協する姿勢の欠如が問題をこじらせている。

地方自治法を改正すれば片付く問題ではない。

■追い込まれた川勝知事

静岡県の川勝平太知事も、中央新幹線(リニア)工事を許可しなかったことで、玉城知事と同様な問題を抱えていることが明らかになった。

また川勝知事は、2021年10月に行われた参議院静岡県選挙区補選の応援演説で、自身が支援する候補の対立候補について、その出身地である御殿場市を侮辱するような「コシヒカリ発言」をして、問題になり、県議会で辞職勧告決議が可決された。

川勝知事の「コシヒカリ発言」が問題になった
写真=iStock.com/takenobu
川勝知事の「コシヒカリ発言」が問題になった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/takenobu

そこで、川勝知事はペナルティーとして自らの給与返上を明らかにしたが、2年間実行していなかった。それが今頃発覚し、知事は給与減額の条例案を県議会9月定例会に提出した。

この件で、10月4日、県議会総務委員会で集中審議が行われた。

県議会で過半数を占める最大会派、自民改革会議は、条例案を付帯決議付きで容認することにし、6日に委員会で採決した。13日の本会議でも可決される見通しである。

自民会派内部では、不適切発言の責任をとる方法として給与減額条例案が先例となることへの懸念も指摘されている。そのこともあって、付帯決議は、「コシヒカリ発言」で県民に与えた不信が給与減額で払拭しないこと、辞職勧告の効力に影響がないことの認識を持つこと、今後不適切な発言をしないことなどを知事に求める内容になっている。

これまで、川勝知事のスタンドプレーが目立ち、マスコミでもスポットライトが当てられてきたが、議会がブレーキを踏み始めたようである。

■安芸高田市石丸伸二市長の「居眠り告発」

「首長と議会」、その難しい関係は、市町村レベルでも同じである。

広島県の安芸高田市では、銀行出身で2020年に当選した現在41歳の石丸伸二市長が、3年前に議会を批判して、「いびきをかいて、ゆうに30分は居眠りする議員が1名」とSNSに投稿した。

なぜ安芸高田市長は「議会との対立」を動画で煽るのか
なぜ安芸高田市長は「議会との対立」を動画で煽るのか(画像=広島県安芸高田市公式チャンネルより)

これに対して、数名の議員から、「敵に回すなら政策に反対するぞ」と恫喝(どうかつ)されたという。この件以来、市長と議会の対立が深まり、市長の人事や政策が議会によって否決され、6月には市長への問責決議案も提出された。

その後も両者の対立は続き、9月28日には、昨年度の一般会計の決算認定案について、最大会派の議員たちが反対した。その理由は、「昨年9月の大型台風接近と報道されているなかで、市長が千葉県で行われたトライアスロン大会に参加して不在で市民に不安と不信を与えた」ということであった。

ここまで来ると、もう泥仕合としか言いようがない。地方自治はどうなっているのか。

■アメリカで政府機関閉鎖問題が起きる理由

私は国政の場で、国会議員や閣僚を経験した後に、東京都知事になった。

東京は首都であるが、地方自治体である。国政との落差に愕然として、地方自治の問題点を数多く認識させられた。

議員や役人の能力や質の問題もあるが、それ以上に制度設計上の問題がある。

民主主義の政体として、大統領制(首長が直接選挙で選ばれる)と議院内閣制(議会の多数派が首相を決める)がある。私は、自分の政治体験から、後者のほうが良いと考えている。

モンテスキューのいう「完全な三権分立」は問題がある。それを採用しているアメリカでは、大統領と議会の対立で、最近も「つなぎ予算」をめぐり、政府機関閉鎖の危機が起こった。この問題は今後も続くだろう。

■議院内閣制のメリット

これに対して、議院内閣制のイギリスや日本では、こうはならない。

国会の場合、議員が経験を重ねて大臣になるので、与党の議員と内閣が利権で対立するようなことはない。

国会議員も選挙区の利益を大事にするが、自分の所属する党内で国全体の利益と調整できるようになっている。

ビッグベンとユニオンジャック
写真=iStock.com/RistoArnaudov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RistoArnaudov

自民党の場合、全議員が参加できる政務調査会がある。

私が大臣の時は、衆院が自民党、参院は民主党が多数派で、「ねじれ国会」で苦労したが、憲法の「3分の2条項」などで乗り切った。

フランスでは、大統領と首相が並立しているが、うまく「保革共存路線」で対応してきた。

■地方行政がうまくいかないワケ

日本の自治体も大統領制で、首長と議会の「二元代表制」となっている。

首長も議員も、直接選挙で選ばれるので、正統性は同じである。議会は、予算を握っているので、安芸高田市の例のように首長に抵抗できる。

また、百条委員会という「首長攻撃手段」もある。

地方自治法第100条に定められた百条委員会とは、地方議会が必要に応じて設置する特別委員会で、正当な理由なく関係者が出頭、証言、記録の提出を拒否したときには禁錮または罰金に処すことができるようになっている。

議会は、これを武器にして、「辞任しないなら百条員会を設置するぞ」と恫喝するのである。まさに、政治的武器である。

さらに選挙区について言うと、自治体にもよるが、自治体全体から一人選ばれる首長に対して、議員は細分化された選挙区から選ばれることがさらに問題を悪化させている。

■地方議員がフィクサーと化す

例えば、東京都の場合、足立区から選出される6人の都議は、足立区の有権者の要求を最優先とする。

そのため、悪く言えば、地元の利益のための利権政治に終始する「フィクサー」と化すケースが多い。

知事が東京全体の改革を試みても、それが地元の利益を侵害するときには、フィクサー議員たちが「抵抗集団」となる。

地方自治体の場合、ほとんどの首長が無所属で立候補するので、与党との調整は、与党の幹部(ドン)を通じて行うことになる。

フィクサーの頭目のようなドンと対立すれば、政策遂行の邪魔をされることになる。

これが、二元代表制と呼ばれているものの実態である。

■都政は「ひどい職場」

単純化して言えば、知事に残された選択肢は、彼らと手を組んで改革の旗を降ろすか、マスコミなどの力を借りて対決するかである。

後者を選択しても、勝つとは限らない。

舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)
舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)

前者を選択すれば政治的には安泰だが、改革は頓挫する。

ちなみに今の小池都政は政治的には安定しているが、デジタル化の進展を見ても東京がソウルに後れを取るなど、沈滞しているのは否めない。

私は国会から都政に移ったのだが、「ひどい職場に来た」と痛感したものだ。

私に政治的能力が欠如していたこともあって、早期に都知事の座を降りたが、私は本来地方自治体も議院内閣制に類する仕組みであるほうがよいと思う。

そうでなくても問題の多い地方の政治が、二元代表制のために、さらに沈滞しているのを感じている。地方政治の惨状は、日本衰退の原因にもなっている。

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舛添 要一(ますぞえ・よういち)
国際政治学者、前東京都知事
1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。

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(国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一)

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