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筋トレでも有酸素運動でもない…がん治療に有効と科学的に証明された短時間で高い効果を期待できる運動とは

プレジデントオンライン / 2024年1月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

全米で23万部のベストセラー本を著したがん研究者ケリー・ターナー氏は、がんが劇的に寛解した1500以上の症例を分析。世界中の数百人ものがんサバイバーたちにインタビューした結果、奇跡的な回復を遂げたがん患者たちには、ある共通点があることがわかった。そのうちの一つが、「運動」だった――。

※本稿は、ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■アメリカでは週150分の中程度の運動が推奨されている

私たちは生きている限り、身体を動かさなくてはなりませんし、運動は私たちをより健康にしてくれることがわかっています。1996年には、運動不足が国民的な健康危機を引き起こしていることを懸念したアメリカ公衆衛生局の長官が、運動が健康にいいことを示す、数十年にわたる研究をまとめた複数の研究機関の報告書を発表しています。

どんな運動でも、やらないよりはましです。2008年に発表された公衆衛生局の長官による二つ目の報告書では、さらに一歩踏み込み、6歳以上のすべてのアメリカ人が運動により本質的な健康効果を得るために、週150分の中程度の運動、または週75分の激しい運動のいずれかをするよう推奨しています。

2018年に発表された第三の報告書「アメリカ人のための身体活動ガイドライン」では、あらゆる人種や民族の男女、幼児から高齢者、妊娠中や産後の女性、慢性疾患や障害を抱えている人、慢性疾患のリスクを減らしたい人など、すべての人の健康は身体活動によって改善されると結論付けました。さらに、慢性疾患や障害(がんなど)を持つ成人は、何としても運動不足を避け、何ができるかを医師に相談すべきであると述べています。

■運動はがんの再発や死亡リスクを低減させる

がん患者にとって最も興味深いのは、運動が特定のがんの再発や死亡のリスクを低減させることを示した数多くの研究でしょう(※1)。これらの研究では、運動が乳がんや大腸がん、前立腺がん、子宮体がん、卵巣がん、肺がんの死亡リスクを大幅に低下させることがわかっています(※2)。そのうちの一つでは、自転車やテニス、ジョギング、水泳などの適度な運動を週3時間以上することにより、前立腺がんの男性の生存率が大幅に改善することがわかったと結論付けています(※3)

別の研究では、乳がんの女性が週に1時間だけ、平均時速2~3マイル(時速約3~5キロメートル)のペースで歩いた場合、身体活動の少ない女性に比べて、乳がんによる死亡リスクが最大49%低下することが示されました(※4)

大腸がん患者を対象とした大規模な研究では、余暇の身体活動(テニス、ゴルフ、自転車、水泳、ガーデニング、早歩き、ダンス、エアロビクス、ジョギングなど)をしている人は、していない人に比べて死亡リスクが31%低く、これは診断前に運動していたかどうかには関係ありませんでした(※5)(現在、運動をしておらず、望みがないと思っているかもしれない人々にとって勇気づけられるニュースです)。

これらの研究やそのほかの多くの研究は、がんで死亡する確率を大幅に減らしたいのであれば、理想的には毎日、身体を動かす必要があることを示しています。

■筋肉量の減少ががん患者を衰弱させる

運動にはさまざまな種類があり、治療中や寛解期のがん患者にとってそれぞれ独自の効果があります。有酸素運動や筋力トレーニングは何十年も前からおこなわれていますが、近年、関心が高まっているのは、高強度インターバル・トレーニング(HIIT)やリンパトレーニングです。ここでは、これらの一般的な運動の種類と、それぞれに関連する研究の概要について説明します。

運動といえば、有酸素運動を思い浮かべる人が多いでしょう。エアロビックという言葉は「酸素に関する」という意味なので、有酸素運動というのは酸素摂取量を増やす運動全般を指します(※6)。歩く、走る、泳ぐ、自転車に乗るといった運動は筋肉により多くの酸素を供給するために、より深く、より速い呼吸を必要とするので有酸素運動となります。有酸素運動は最もよく研究されている運動形態で、これまで述べてきたようなあらゆる運動効果をもたらします。

重りを持ち上げたり、抵抗バンドを引っ張ったりする筋力トレーニングは、何世紀にもわたってされてきた身体活動の一種ですが、がん患者を対象とした研究がおこなわれるようになったのはごく最近です。150ポンド(約70キログラム)のベンチプレスができるようになる必要はないので、心配しないでください。

研究によると、1、2、3ポンド(約0.5~1.4キログラム)のダンベルを定期的に使用すると、筋肉量の維持に効果的であることが示されています(※7)。化学療法や放射線療法を受けるがん患者を最も衰弱させる副作用は、筋肉量の減少とそれにともなう体力の低下です。その結果、生活の質を低下させ、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。

このテーマに関して実施された大規模な研究報告では、化学療法と放射線療法を受けているがん患者に対する筋力トレーニングは、治療に関連する副作用を減らし、筋力を大幅に増やし、低体重を維持し、体脂肪率を減らす安全な運動であると結論づけています(※8)

■高強度インターバル・トレーニング

高強度インターバル・トレーニング(HIIT)はここ数年、フィットネス雑誌やブログだけでなく、医学界でも信じられないほどの人気を博しています。HIITは、がんの有無にかかわらず、さまざまな面で有益であることが科学的に証明されているからです(※9)

HIITは、従来の有酸素運動や継続的な強度の運動とは異なるものです。

従来の「痛みなくして得るものなし」のトレーニングでは、ランニングやスピンクラス(固定自転車を使った有酸素運動)をしたり、30~60分続けてウエイト・リフティングをすることがあります。これらのトレーニングの目標は、心拍数を目標範囲まで上げ、少なくとも20分間はその状態を維持することです。

これに対しHIITは、全身を使う激しい運動の連続(通常1~4分)を中心に、同じ長さの回復時間を交互に設けるように設計されています。HIITは有酸素運動と同じような心血管系の効果を、より短い運動時間でもたらすことができるのです(※10)

がんサバイバーにとって、どのような種類の運動でも、生活の質や機能的能力、特定の心血管疾患の危険因子を改善することが研究で明らかにされています。しかし、固定式自転車に乗ったりトレッドミルで20分間の低強度トレーニングをした患者グループと、HIIT(30秒×7回)で運動したグループを比較したところ、HIITグループのほうが全体的に、心臓や肺、筋力の状態を早く向上させたのです(※11)

別の研究では、心肺機能と筋肉量が低下し、死亡リスクを高めることが知られている大腸がんサバイバーを対象に、HIITの効果を調査しました。科学者たちは、生存の可能性を高めるために、HIITと中強度の運動との間に違いがあるかどうかを知りたかったのです。

HIITをおこなった大腸がんサバイバーは、中強度の運動に徹したサバイバーと比べて、わずか4週間ではるかにいい結果を示しました。具体的には、酸素摂取量(運動中にどれだけ酸素を消費できるかを示す指標)、除脂肪量、体脂肪率の減少において、HIITのグループは中強度のグループより優れていたのです(※12)

このように、近年発表されたHIITに関する数多くの研究を考慮すると、HIITは、がん患者が治療中や治療後に活用できる、非常に効率的かつ効果的な運動だと思われます。

■がん細胞を体外に排出するリンパ系

リンパ系は、免疫系の中で極めて重要な役割を担っています。血管とリンパ節のネットワークを通じて病気と闘う白血球を全身に送り、不要なウイルスや細菌、がん細胞を集めて処分するのに役立っています。これらの重要な機能を果たすためには、リンパ管内の液体が流れている必要があります(※13)

しかし、心拍のたびに全身に血液を送り出す心臓と異なり、リンパ系にはポンプがありません。つまり、身体の動き(運動)によってリンパ管内のリンパ液を動かし、不要ながん細胞を体外に排出しているのです(※14)。運動中には安静時の2~3倍のリンパ液が流れることがわかっています(※15)

ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)
ケリー・ターナー『がんが自然に治る10の習慣』(プレジデント社)

このように、運動はがん細胞を識別して、体外に排出するというリンパ系の日々の仕事をサポートする重要な役割を担っているのです。

ミニトランポリンで跳ねるリバウンディングは、がんの劇的寛解者がリンパ系を刺激するためにしている最も一般的な運動の一つです。この種の運動に関する研究はほとんどありませんが、ある研究では、ミニトランポリン運動によって筋肉量が大幅かつ急速に増加することがわかりました(※16)

また、別の研究では、このような運動によって体重と血圧が著しく減少し、血糖プロファイルと酸素摂取量が有意に改善されることが明らかになりました(※17)。劇的寛解を経験した人たちは、最も弱っているときでもリバウンディングをすることはできたと言います。

ミニトランポリンに乗る高齢者
写真=iStock.com/amriphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/amriphoto

※1.Ashcraft, K. A., et al. See note 15 above.

※2.Brown, J. C., et al. “Cancer, Physical Activity, and Exercise.” Comprehensive Physiology. 2, no. 4 (October 2012): 2775–809. doi: 10.1002/cphy.c120005.

※3.Kenfield, S. A., et al. “Physical activity and survival after prostate cancer diagnosis in the health professionals follow-up study.” Journal of Clinical Oncology. 29, no. 6 (February 20, 2011): 726–32. doi: 10.1200/JCO.2010.31.5226.

※4.Holick C.N., et al. “Physical activity and survival after diagnosis of invasive breast cancer.” Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention. 17, no. 2 (February 2008): 379–86. doi:10.1158/1055-9965.EPI-07-0771; “Can Exercise Reduce the Risk of Cancer Recurrence?” Date of publication: February 7, 2018. Date accessed: December 11, 2019.

※5.Arem, H., et al. “Pre- and postdiagnosis physical activity, television viewing, and mortality among patients with colorectal cancer in the National Institutes of Health-AARP Diet and Health Study.” Journal of Clinical Oncology. 33, no. 2(January 10, 2015): 180–8. doi: 10.1200/JCO.2014.58.1355.

※6.“Aerobic Exercise.” Cleveland Clinic. Last modified July 16, 2019. 

※7.Padilha, C. S., et al. “Evaluation of resistance training to improve muscular strength and body composition in cancer patients undergoing neoadjuvant and adjuvant therapy: a meta-analysis.” Journal of Cancer Survivorship. 11, no. 3 (June 11, 2017): 339–349. doi: 10.1007/s11764-016-0592-x.

※8.Ibid.

※9.Cormie, P., et al. “The Impact of Exercise on Cancer Mortality, Recurrence, and Treatment-Related Adverse Effects.” Epidemiologic Reviews. 39, no. 1 (January 1, 2017): 71–92. doi: 10.1093/epirev/mxx007.

※10.Milanovic´, Z., et al. “Effectiveness of High-Intensity Interval Training (HIT) and Continuous Endurance Training for VO2max Improvements: A Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials.” Sports Medicine. 45, no. 10 (October 2015): 1469–1481. doi: 10.1007/s40279-015-0365-0.

※11.Toohey, K., et al. “A pilot study examining the effects of low-volume highintensity interval training and continuous low to moderate intensity training on quality of life, functional capacity and cardiovascular risk factors in cancer survivors.” PeerJ―the Journal of Life and Environmental Sciences. 2016, no. 4 (October 20, 2016): e2613. doi: 10.7717/peerj.2613.

※12.Devin, J. L., et al. “The influence of high-intensity compared with moderateintensity exercise training on cardiorespiratory fitness and body composition in colorectal cancer survivors: a randomised controlled trial.” Journal of Cancer Survivorship. 10, no. 3 (June 2016): 467–79. doi: 10.1007/s11764-015-0490-7.

※13.“The lymphatic system and cancer.” Cancer Research UK. Last modified December 13, 2017. 

※14.Aberdour, S. “The Lymphatic System: It’s Life-Supporting.” Alive. Last modified April 24, 2015. 

※15.Lane K., et al. “Exercise and the lymphatic system: Implications for breast-cancer survivors.” Sports Medicine. 35, no. 6. (2005): 461–71. doi:10.2165/00007256-200535060-00001.

※16.Franchi, M. V., et al. “Bouncing Back! Counteracting Muscle Aging with Plyometric Muscle Loading.” Frontiers in Physiology. 2019, no. 10 (March 5, 2019): 178. doi:10.3389/fphys.2019.00178.

※17.Cugusi, L., et al. “Effects of a mini-trampoline rebounding exercise program on functional parameters, body composition and quality of life in overweight women.” Journal of Sports Medicine and Physical Fitness. 58, no. 3 (March 2018): 287–294. doi: 10.23736/S0022-4707.16.06588-9.

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ケリー・ターナー(けりー・たーなー)
がん研究者
腫瘍内科学領域の研究者。ハーバード大学で学士号、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。過去15 年にわたり10 カ国で研究をおこない、1500以上の劇的寛解の症例を分析してきた。著書『Radical Remission』はニューヨーク・タイムズ紙でベストセラーとなり、現在22 カ国語に翻訳されている。RadicalRemission.com のRadical Remission Project の創設者であり、患者やその愛する人のために、コースやワークショップ、治癒の物語の無料データベースを提供している。また、劇的寛解に関する科学的研究を促進することを使命とする非営利団体、ラディカル・リミッション財団の創設者でもある。

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(がん研究者 ケリー・ターナー 翻訳=佐々木加奈子)

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