薬物依存の原因1位は覚醒剤、では2位は…決まった量を守っても恐ろしい「実は依存性がある薬」の名前
プレジデントオンライン / 2024年1月28日 15時15分
※本稿は、鈴木素邦『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■本当は医師も出したくない
ウイルスを退治するには、抗生物質を処方するよりも、自己治癒力で自分の体を治すほうがいいことは、医師は百も承知です。
そして、抗生物質が体の維持に必要な細菌を減らしてしまうこともよく知っています。
しかし、患者さんから抗生物質を出してほしいと言われれば、医師は処方せざるを得ない時もあるのです。
患者さんを説得することも治療上では大切なことです。どんなに正しいことをお伝えしても、安静にして、体調を治す努力をしてもらえなければ意味がありません。
実際のところ、抗生物質信仰の患者さんは、あくまでも体感的にですが、かなりいると思います。抗生物質さえ飲めば病が治るという人たちです。
■抗生物質の副作用は大きい
お会いする患者さんの中には、抗生物質を出してくれる医療機関にしか行かないと公言される方もちらほらお見かけします。
もちろん、医師として、抗生物質でなければ、退治できない細菌性の肺炎の症状などの可能性があって処方する場合もあると思いますが、患者さん説得も含めて治療ですから、医学的な見地以外で判断しているケースも多くあるだろう思われます。
患者さんが「抗生物質を出してほしい」と医師に伝えれば、医師は処方するでしょう。
しかし、抗生物質は「とりあえず」「心配だから」で飲んでいい薬ではありません。抗生物質で風邪の症状が改善されることはほとんどありません。
むしろ、抗生物質を飲んだおかげで、下痢や腹痛が起きたり、アレルギーが起きたりすることはあるのです。
このように抗生物質を服用すると副作用も大きい、ということを知らなければなりません。
■抗生物質が生み出した「薬剤耐性菌」
抗生物質を乱発することで、薬剤耐性菌が広がる恐れがあります。
薬剤耐性菌とは、その名の通り、薬剤に耐性を持っている、薬に耐えて生き続けてしまう病原体のことです。
それが巡り巡って、私たちの健康を阻害してしまうのです。
医療機関の中で感染する細菌として、よく知られているのが「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」(MRSA)です。
黄色ブドウ球菌は、ヒトや動物の皮膚や消化管の表面ににいるグラム陽性球菌になります。
普段は無害なのですが、外科手術などで、皮膚の傷口から感染して、肺炎や腹膜炎などの重度の感染症を引き起こす原因になっています。
この問題に対処するために抗生物質のペニシリンが開発されて、投与されたのですが、ペニシリンに耐性を示す株ができ、世界中に広がっていきました。
これに対応するべく開発されたのが、メチシリンです。1960年ごろから使用されるようになりましたが、それに耐性を示す、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が出てきたのです。
■ニワトリやブタ、ウシなどの薬剤耐性菌が人間に感染する可能性
医療現場で検出される黄色ブドウ球菌のほとんどが、メチシリン耐性株なのです。薬剤耐性菌によって、感染した場合、別の薬を使わなければならず、とても面倒な状態になってしまうのです。
この事例のように抗生物質をむやみに使うと、細菌が抗生物質に耐性化して効かなくなるのです。新たに耐性化した細菌ができないようにするためにも抗生物質は必要な時だけに使用をとどめる必要があります。
また、薬剤耐性菌は別のルートで蔓延(まんえん)する可能性もあります。
農産業や畜産業で使われている抗生物質は、医療用を上回る量が使われているとされます。
日本でも動物用の抗生物質は人間用の抗生物質の倍以上使われているので問題になっています。そのため、ニワトリやブタ、ウシなどの薬剤耐性菌が人間に感染するのではないかという可能性が指摘されているのです。
■本当は恐ろしい「睡眠薬」
2017年の厚生労働省の調査によると、躁うつ病を含む気分(感情)障害を患っている人は127万6000人に上るとされています。
この数は年々増えており、こうした気分障害が自殺の原因の一つになっていることも指摘されています。
このような気分障害をすぐに解消したいと悩んでいる人が、心療内科などに行って処方される薬は、催眠鎮静薬、そして抗不安薬です。
これらの薬に含まれているのが、短時間で強く作用するベンゾジアゼピンです。
この薬は、脳の興奮を抑えることで、不安や緊張、そして不眠などを改善する薬です。
脳の中にある神経細胞(ニューロン)同士がやり取りするための通信媒体である、神経伝達物質というのがあります。
興奮を抑えるというシグナルを発する神経伝達物質に、GABA受容体というのがあります。このGABA受容体とくっついているのが、ベンゾジアゼピン受容体といいます。
ベンゾジアゼピン系の薬を使うと、ベンゾジアゼピン受容体にくっついて刺激します。これによって、脳内の興奮が抑えられ、不安や緊張が緩和、不眠の改善が行われるというわけです。
■薬が切れるとイライラしたり、怒りっぽくなってしまう
この薬は大量に服用しても命に関わらないということから、安全な治療薬として、不安症状の治療に用いられてきました。
ところが、この物質はアルコールと同じように脳の報酬系に抑制的に作用し、短時間で強力な効果があるため、薬が切れるとイライライしたり、怒りっぽくなったりして、依存症によく見られる離脱症状が起きることが指摘されています。
こうした離脱症状を回避するために、症状が良くなっているのにもかかわらず、止めるのが不安で止められなくなるという依存状態になってしまうのです。
■「常用量依存」が薬物依存を蔓延させている
服薬量が増えるわけではなく、薬をやめられないという依存状態を「常用量依存」と呼んでいます。
実はこのような状態が薬物依存を蔓延させている原因にもなっているのです。
国立精神・神経医療研究センターの2010年の調査によれば、薬物依存の原因の1位は、覚醒剤ですが、2位に睡眠薬や抗不安薬が挙げられているのです。
このような薬物を常用的に使っている人の割合は全体の約4%にも上っています。
しかも、その薬の入手先は精神科医からの処方が約3割を占めているのです。
■「錠剤のカフェイン」たった3箱で致死量
ビジネスマンの中には、眠気覚ましのためにカフェインが大量に含まれているエナジードリンクを何本も飲む人がいます。しかし、これは非常に危険なのでやめましょう。
カフェインは過剰に摂取すると、心臓に負担がかかり、心室頻拍や心室細動を起こす危険性があります。これによって死に至る不整脈を発生させてしまう危険性があるのです。
エナジードリンクの過剰摂取は、カフェインに耐性ができる過程で起きます。
最初は1本で心拍数が上昇し、眠気が和らぐ効果を実感することができます。
しかし、慢性的にエナジードリンクを飲用していると、カフェインに耐性がついていきます。1本では物足りなくなり、2本、3本と本数を増やすことで、眠気を覚まそうとします。
さらに耐性ができて、次第にエナジードリンクでは足りなくなり、よりカフェインの多い錠剤を服用したりします。
カフェインは短時間に約1グラム以上摂取すると、中毒になり、6グラム以上だと死に至ると言われています。
エナジードリンクに含まれるカフェインは、1本当たり100ミリグラムから160ミリグラムです。カフェインの錠剤はその量をたった1錠で摂取できます。
1箱20錠に2グラムのカフェインが含まれているとすると、たった3箱で致死量に至ってしまいます。
実は10代から20代の人がカフェインの錠剤の服用で死亡する例が跡を絶ちません。
カフェインはやめようとすると離脱症状を伴うので、なかなかやめることができません。
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薬剤師、経営学修士(MBA)
1980年生まれ、千葉県出身。東京大学、慶應義塾大学など32大学の教壇に立ち、3万人以上の薬剤師を世に送り出す。また、武田薬品工業、ファイザー製薬など大手製薬企業20社以上から研修依頼なども受け、論理的でありながらユーモラスな講義で人気を集める。祖父が創業した不動産管理会社の3代目社長として、薬局経営を指導している。著書に『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)がある。
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(薬剤師、経営学修士(MBA) 鈴木 素邦)
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