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数学、英語、国語、理科、社会のうち、AI時代に人間の教師が生き残れる科目、いらなくなる科目はどれか

プレジデントオンライン / 2024年3月17日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imaginima

日本の学校教育の機能不全を指摘する声は多い。新著『ChatGPT「超」勉強法』が話題の野口悠紀雄さんは「ChatGPTを利用することで、学校教育で不十分だった点を補完できる可能性がある」という――。(第2回/全4回)

※本稿は、野口悠紀雄『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■ChatGPTは学校教育を補完する

学校教育はいくつかの点で不十分な教育しかしていないと、拙著『超「超」勉強法』で指摘した。そして、これを補完するには、独学で勉強するしかないと述べた。

いま、ChatGPTという強力な手段が現れた。これを用いれば、学校教育で不十分だった点を補完できる。

学校などの教育機関や政府は、こうした変化をどのように捉え、対応していくかを、真剣に考える必要がある。

ChatGPTを用いた勉強は、独学をする場合にとりわけ便利だ。家庭教師に教えてもらうのと同じようなことになるからだ。

独学をする場合に難しいのはカリキュラムの作成だが、それを示してもらうことができる。自分が現時点でどんなことを知っているかを説明し、目標を指し示す。そして、これらの間隙を埋めるにはどのようなことを勉強すればよいかを教えてもらう。

また、標準的な教科書を教えてもらうこともできるだろう。

■ChatGPTの有効性は教科ごとに大きく異なる

ただし、どの科目においてもChatGPTが同じように有効であるわけではない。ChatGPTの有効性は、科目によって大きな違いがある。

まず、外国語や国語の勉強にはたいへん有効だ。しかし、数学については、ChatGPTだけでは勉強できない。それは、ChatGPTは数学の問題に誤った答えを出す場合が多いからだ。

これは、多くの人々がChatGPTについて漠然と抱いているイメージとは違うものだろう。

理科や社会では、ChatGPTによる誤った答えにどのように対処して勉強を進めていくかが重要なポイントになる。

■ChatGPTを活用した個別教育の可能性

学校での伝統的な教育方法は一律であり、すべての学生に同じ教材や方法で指導を行なっている。しかし、学生は多様であり、一律の教育は最適とはいえない。

まず、学生の学習スタイルや能力に合わせた教材や問題を作成する必要がある。また、学生の成績、興味、学習方法などの情報に基づいて、個別化された教材や問題を用意する必要がある。要するに、一人一人の学生が最も効果的な方法で学習を進められるようにする必要がある。

しかし、これまでは、そうしたことを実行するのは難しかった。何よりも、人手が足りない。ところが、ChatGPTを利用することによって、これが可能になる。具体的には、つぎのとおりだ。

■ChatGPTが家庭教師になる

まず、学生の学習進度や理解度に合わせて、学ぶべき内容や難易度を調整できる。また、学生の弱点に合わせて問題集を生成できる。

さらに、学生の興味や趣味に関連する情報を取り入れた教材を提供できるようになる。こうして、個々の学生のニーズやペースに合わせた学習が可能となり、学習の効果が高まる。

個々の学生の興味やニーズに対応した教材や問題を提供することによって、学習のモチベーションを向上させられるだろう。

この点で、ChatGPTは強力なツールとしての潜在能力を持っている。これによって、教育の手法が変わるだろう。ChatGPTは、教師というより、チューター、つまり家庭教師のような存在になる。

■API接続が可能性を拓く

現在のところ、ChatGPTの能力は十分ではないが、今後、改善されていくだろう。とくに、ChatGPTとのAPI接続を利用した様々な教育アプリが登場するはずだ。

野口悠紀雄『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)
野口悠紀雄『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)

API接続とは、外部のアプリケーションをAPI(Application Programming Interface:ソフトウェアやプログラム、ウェブサービスの間をつなぐインターフェース)を使って連携させ、機能の拡張を図ることだ。開発者は、ChatGPTが公開しているAPIを利用することによって、自らが開発するアプリやサービスにChatGPTの機能を組み込むことができる。

これによって、世界中のすべての子供たちが家庭教師のような丁寧な指導を受けることが可能になる。その効果はきわめて大きい。

開発途上国の子供たちも、この方式で学べるようになるかもしれない。また、日本でも所得による制限がなくなる。こうした新しい教育方式に適応する社会を形成できるかどうかが、問われることになる。

また、学校教育だけでなく、社会人教育、リスキリング、高齢者の生涯学習、資格試験のための学習などにも大きな影響を与えるだろう。政府は、リスキリングに補助金を出すのではなく、むしろ、こういったアプリを無料で利用できるようにすべきだ。

■ChatGPTの時代に人間の教師は生き残れるか

ChatGPTが勉強の在り方を大きく変える時代に、人間の教師の役割は残るだろうか? 人間の教師は依然として必要か?

この答えは、教科によってかなり違う。

まず外国語については、『ChatGPT「超」勉強法』で詳しく述べるが、基本的にはChatGPTのほうが優れている。だから、人間の教師の必要性は大きく減少するだろう。

国語についても似たことがいえる。ChatGPTは論理の進め方を誤ることがある。だから、正しい論理を教えるのは、人間の教師の役割だ。

数学については、人間の教師の役割は大きい。したがって、学校での教育も、これまでとほとんど変わらない形で続くだろう。なぜなら、数学については、「シンボル・グラウンディング問題(*)」のために、ChatGPTの能力に大きな疑問があるからだ。

*人間やAIがシンボル(言葉、数字、画像など)を実世界の具体的な対象や概念にどのように結びつけて理解しているか、という問題のこと。

理科・社会科については、ハルシネーション(幻覚)(*)に注意しつつ、教師の指導のもとにChatGPTを活用することができる。

*AIが間違った回答をすること。

■何を勉強したらよいかを示すのは、教師の役割

英語や国語は言葉の勉強である。これらは、細かい方針がなくても、勉強を進めることができる。文章を書いて、それをChatGPTに直してもらうことを続けていけばよい。

そうであっても、学ぶべき本当に重要なことが何であるかは、教師が教えることだ。

ChatGPTを用いると興味が尽きないので、面白い小説を読むようにどんどん進んでしまうことがある。しかし、興味の赴(おもむ)くままに進んでよいというわけではない。方向づけを誤ってはならない。

とりわけ数学や理科がそうだ。これらは、理論の体系である。これらを学ぶには、どうしても教師が必要だ。社会科についても同じことがいえる。

こうしたことがあるので、どの教科においても、「何をどのように学ぶか」というカリキュラムは教師が作る必要がある。これは、ChatGPTが準備することもできるが、最終的には人間の教師が判断することが必要だ(*)

*ただし、社会人の場合には、ChatGPTに学習のカリキュラムを作ってもらって、独学することが有効だ。

■ChatGPTの使い方を教える必要

何の指針もなしにただChatGPTを与えられても、生徒や学生は、何をどうやって勉強したらよいのか分からず、途方にくれるだろう。だから、「ChatGPTをどう使うか? どのような質問をしたらよいのか?」ということを教える必要がある。

ある程度ChatGPTに慣れれば、使い方そのものをChatGPTに教えてもらうことができる。しかし、少なくとも最初の段階では、ChatGPTの使い方を教えるのは、人間の教師の役割だ。

どのように質問したらよいのかを教えることは、とりわけ重要だ。

■教師を雑務から解放する可能性

また、学校教育においては、個々の生徒や学生の成績評価をする必要がある。

これについても、ChatGPTにかなりのことができるが、その範囲は限られている。総合的な判断は、人間の教師が行なう必要がある。

なお、様々な調査によれば、学校の教師の業務の大半は、教えることというよりは、雑務だという結果になっている。こうしたことを効率的に処理するために、ChatGPTの果たす役割は大きい。

ビジネスマンとロボットの握手
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■人間の教師の役割は指針を示し、採点すること

以上で述べたように、ChatGPTがいくら性能を高めても、人間の教師がまったく必要なくなるといった事態は考えられない。

ChatGPTの時代における教師の役割は、カリキュラムを作り、何をどのように勉強すべきかを示し、採点をする。そして、ChatGPTの使い方を教えるということが中心になるだろう。

これらは、現在の教師の役割とはかなり違ったものになる。こうした変化に対応できるかどうかが重要な課題だ。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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