元気に長生きしたいなら「腹八分目」では多すぎる…医師が「お腹が空いてもすぐ食べてはいけない」と説く理由
プレジデントオンライン / 2024年4月19日 15時15分
※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■朝食をとらないと起こる生産性低下の種類
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(平成26年)によると、全国で11.6%の人が朝食を食べないとか。この数字だけ見ると、たいした数には見えないかもしれませんが、日本の人口の1割強、人数にするとなんと1700万人にも及びます。
そのなかで最も多いのが20代で29.5%、次いで30代で23.5%となっています。働き盛りでもあるこの世代は、前夜遅くまで働いて、食を犠牲にしても寝ることを優先しているのかもしれません。
高齢者になると、さすがにその数は減ってきますが、それでも60代でも7.9%とそれほど少ないわけではありません。目立つのがひとり暮らしの人たちで14.5%に及んでいます。
ここからは、長年の仕事から解放され、しかも文句を言う人もいないので、寝たいときに好きなだけ寝る姿が浮き彫りになります。
では朝食を抜くと、どんなことが起こるのでしょうか。
朝食をとることを推奨している農林水産省の「めざましごはん」では、
・脳のエネルギーが不足して集中力の低下などが発生しがち。
・昼頃にはお腹がすきすぎて、つい、ドカ食いしがち。
などを挙げています。
■脳がフル回転するのは、食事をとってから2時間以上
実際、朝食をとらないと、脳の働きは驚くほど悪くなります。血中ブドウ糖濃度と体温が低いままだからです。
要するに朝食をとらない限りは、起き抜けのボーッとした状態のままなのです。脳を活性化させるには、糖分と良質のタンパク質を摂取する必要があります。
しかも、脳がフル回転するのは、食事をとってから2時間以上経過してからです。
「べつに仕事に出るわけではないのだから、朝っぱらから頭が働かなくてもかまわないさ」
そう思っている高齢者の方もいるのではないでしょうか。
しかし、午前中に投資詐欺の電話がかかってくることもあり得ます。知らないうちに銀行のカードの暗証番号を教えていた、といった面倒が起こってしまうかもしれないのです。
「早起きは三文の得」という諺は、朝食をとってこそ、その教訓が生きてくるのかもしれません。
■「腹八分目の空腹感」こそ脳へのごちそう
脳のことを考えると、毎回毎回満腹になるまで食べるのはあまり好ましくはないようです。
米国イェール大学のホーバース博士は、それを実験で証明しました。
お腹がすくと、食べ物がほしくなります。この行動を促しているのがグレリンというホルモンです。胃から分泌されたグレリンは、下垂体と視床下部に働きかけ、食欲を増進させます。
ホーバース博士は、このグレリンというホルモンを生成できないマウスを作り出し、脳の働きを調べました。すると、記憶力に関係する海馬のシナプス数が通常のマウスよりも25%も低いとわかったそうです。
しかも、この状態のマウスにグレリンを注射したところ、シナプス数が急激に増加したというのです。
グレリンが作り出せないということは、空腹を感じないわけで、つねに満腹状態と同じになります。
実際、私たち人間の血中グレリン濃度を調べたところ、太っている人よりも、やせている人のほうが高いことがわかっています。
もちろん、ホーバース博士の得た実験結果をそのまま人間に当てはめるわけにはいきませんが、つねに満腹状態でいたり、肥満体型になると、海馬の働きが悪くなる可能性があるといえるのではないでしょうか。
江戸時代には何度となく全国各地で大飢饉が起きました。じつは私たち日本人が十分な食糧を得られるようになったのは、つい最近のことです。つまり、空腹のほうがふつうの状態だったわけです。
いつまでもボケないためには、腹八分程度で抑えておいたほうがよさそうです。
■肥満や生活習慣病、ボケてしまうリスクがどんどん高くなる
前項で「腹八分」をおすすめしましたが、アンチエイジングという視点からは腹八分目は食べすぎといえるかもしれません。
今の日本は“飽食の時代”の真っただ中。いつでもどこでもおいしい食べ物が手に入ります。ほとんどの人が知らず知らずのうちに食べすぎているといっても過言ではありません。
そういえば最近、ハードなダイエットをしている人を除けば、「腹ペコで倒れそうだ」「お腹がすいて目が回った」といった経験がある人は少ないのではないでしょうか。
人間が地球に生まれてから数十万年、ずっと飢餓に苦しんできた人類が十分な食糧を得られるようになったのは、ここ数百年のことです。
人間の遺伝子には飢餓を生き抜くために脂肪を体内に溜め込むという防衛システムが組み込まれているので、必要以上に食べたものはしっかり蓄積されていくのです。
いくら食糧の豊かな時代になっても体のシステムはそのままで、せっせと脂肪を溜め込みますから、メタボの中高年が増えるのも当たり前の話ですね。
若いうちは新陳代謝が活発で過食の影響も出にくいのですが、年齢を重ねて代謝が悪くなってからも節度なく食べ続けていると、肥満や生活習慣病、ひいてはボケてしまうリスクはどんどん高くなります。
■「若返りには腹六分目がいい」という根拠
「だったら、いつもお腹をすかせていれば健康にいいのですか?」
という声も聞こえてきそうですが、医学的な立場での答えは「イエス」です。
どうしてイエスなのかわかりますか。
人間には空腹時にだけ働く「若返り遺伝子」があり、老化を抑制し、さらに寿命を延ばす働きがあるからです。
ただ、この遺伝子は、ふだんは眠っている状態で、その効果を発揮させるには遺伝子のスイッチをオンにする必要があります。
その起動方法が空腹状態をつくることなのです。
「若返りには腹六分目がいい」という根拠はここにあります。
若返り遺伝子をうまく働かせるには、次の3つのポイントに留意してください。
②一日の摂取カロリーは1800キロカロリー程度に抑え、1回の食事量を腹六~七分にすること。
③栄養バランスのいい食事を心がけ、量は控えめにすること。
若返り遺伝子は老化を防ぐだけでなく、美容や病気の予防にも効果があります。たとえば、シミやシワの予防、脂肪の燃焼、動脈硬化の抑制、がんや生活習慣病の予防など、あらゆる老化要因を抑制する働きがあるといわれています。
また、この遺伝子はうれしいことに、どの年代の人でも活用できます。70代でも80代でもOKです。
「元気で長生きしたい」と願うなら、食事は腹八分ならぬ腹六分を目安としましょう。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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医師、医学博士
1954年生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と一貫して生体内情報伝達機構を専門に研究している。特に脂質シグナルと関連づけた新規の認知症治療薬、糖尿病治療薬、がん治療薬の開発に従事している。現在、上海中医薬大学附属日本校、ベトナム国家大学ハノイ校の客員教授を務め、後進の研究指導に当たるとともに新しい研究分野にも挑戦している。著書に『認知症はもう怖くない』『私は「認知症」を死語にしたい』『脳の非凡なる現象』(以上、三五館)、『ボケるボケないは「この習慣」で決まる』(廣済堂出版)がある。共著に『あと20年! おだやかに元気に80歳に向かう方法』(明日香出版社)がある。
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(精神科医 保坂 隆、医師、医学博士 西崎 知之)
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