高齢者は「焼き魚よりも煮魚」「煮魚よりも刺身」が体にいい…医師が「避けなさい」と説く調理法の種類
プレジデントオンライン / 2024年4月24日 15時15分
※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■健康寿命を延ばすのにタンパク質は必要不可欠
年を取ると脂っこい肉よりも魚や野菜中心のあっさりしたものを好む傾向になってきますが、意外なことに、「長生きしている高齢者は肉を多めに食べている」という報告があります。
高齢者の方は健康寿命を延ばすためにしっかりタンパク質を摂る必要があるということのようです。
牛肉、豚肉、鶏肉などの肉には、人の体の中で作り出すことができない9つのアミノ酸(必須アミノ酸)を含め、人が健康に生きるために必要な20種類のアミノ酸からなるタンパク質(動物性タンパク質)が豊富に含まれています。
よく、大豆などの植物性タンパク質のほうが健康によいといわれますが、必須アミノ酸のバランスから考えると動物性タンパク質のほうが優れているといえます。
動物性タンパク質は、筋肉や血液をつくるだけでなく、骨の形成促進、ホルモンのバランスを整える効果、脳血管疾患の予防、感染症に対する免疫力を高める作用があります。
日本が長寿国になったのは、動物性タンパク質の摂取量が増えたことに起因するともいわれています。
■牛肉ステーキに含まれる老化を促進する終末糖化産物
70歳以上の高齢者になると血液中のアルブミン量が低下(低アルブミン血症)している人の割合が急増します。
アルブミンは肝臓で産生され、血液中のタンパク質の約6割を占めています。血清アルブミン値は、栄養状態の評価において低栄養に陥っていないかどうかの指標となるものです。
したがって、高齢者の低アルブミン血症は低栄養状態で、もっと栄養を摂る(もっと肉を食べる?)必要があるということを示しています。
脳卒中の発症と肉の摂取との関連を示したイギリスの調査があります。
肉を普通に摂取するグループ、魚は食べるが肉は食べないグループ、完全菜食主義者のグループの3グループ間において、菜食主義者グループで有意に脳出血が多いという結果が報告されています。
この結果は、正常な血管の柔軟性を維持するためには適度な動物性タンパク質の摂取が必要であることを示唆しています。
しかし、焼いた肉、たとえば牛肉ステーキには終末糖化産物(タンパク質と糖を同時に加熱したときにできる物質。強い毒性があり、老化を促進する元凶)が多く含まれており、一概に「肉の摂取は脳にいい」とは断言できません。
昨今の「ステーキを好きなだけ食べてOK」という考え方には、終末糖化物質のことは考慮されているのでしょうか。
■「コゲ」ができない料理法が体にいい
前述のように終末糖化産物(Advanced Glycation End products=AGE)は、タンパク質と糖を同時に加熱したときに発生する物質で、老化を促進する元凶といわれています。
終末糖化物質が多く含まれる食べ物は、具体的にどんなものがあるのでしょうか。
たとえば、ホットケーキです。ホットケーキの土台は、卵と牛乳(タンパク質)を混ぜ合わせた液に小麦粉(糖質)を入れ、それをバターなどの脂を溶かしたフライパンで焼いてつくります。
そのときできるカリッとしたきつね色の焦げ目がなんともいえぬおいしさですが、じつはこのきつね色の焦げ目こそが終末糖化産物です。トーストの焦げ目も同じく終末糖化産物です。
トンカツ、チキンカツ、唐揚げ、ステーキ、焼き鳥もそうですが、要するにお肉を焼いたり、油で揚げたりしてできたおいしそうな焦げ目は終末糖化産物だと考えていいです。
その他、鮭や鮪の焼き物、揚げ物、ハンバーガー、フライドポテト、フランクフルトなどにも終末糖化産物が含まれています。
同じ食材でも料理の仕方で終末糖化産物を減らすことができます。
たとえば、魚を食べる場合、「刺身、煮魚、焼き魚」といった調理方法がありますが、「焼き魚よりも煮魚」、「煮魚よりも刺身」のほうが終末糖化産物を低く抑えることができます。
調理方法で、生→蒸す(茹でる)→煮る→炒める→焼く→揚げる、の順で終末糖化産物が増加していきます。要するに「コゲ」ができない料理法が体にいいということです。
■炭水化物の食べすぎによる終末糖化物質にも注意
しかし、そもそも終末糖化産物を食べて、そのまま腸で吸収されて本当に悪さをするのでしょうか。
食べたものは大部分消化、分解されてそのままの形では吸収されません。たとえば、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβをいくら食べても毒となって脳に溜まることはありません。
終末糖化産物をいくら食べても大丈夫と推奨するつもりはありませんが、極端に神経質になる必要はないのではないでしょうか。
とはいっても、高齢者の方は「コゲ」がついた肉や魚は避けるようにしたほうが体にいいかもしれません。
終末糖化物質で注意すべきは、食べ物からの摂取よりもむしろ、体内でつくられるものです。
ご飯、麺、パンなどの炭水化物は分解されてエネルギー源であるブドウ糖になります。体内でエネルギーとして消費されずに余ってしまったブドウ糖は、備蓄用として肝臓や脂肪細胞などに蓄えられます。
それでもなお余ったブドウ糖は体内のタンパク質と結びつき、体温で熱せられて終末糖化産物ができます。この体内でできた終末糖化物質が蓄積すると老化を促進する要因となるのです。
体内で終末糖化物質ができるのを抑えるには、ご飯、麺、パンなどの炭水化物を食べすぎないことが最も重要です。それとブドウ糖を十分に消費するために毎日、散歩や適度な運動をすることが大切です。
脳はたくさんのエネルギーを必要としています。したがって、身体だけでなく、できるだけ脳を活動させることが終末糖化物質の生成予防に非常に重要といえます。要するに、脳を働かせることは老化予防にもなるということです。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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医師、医学博士
1954年生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と一貫して生体内情報伝達機構を専門に研究している。特に脂質シグナルと関連づけた新規の認知症治療薬、糖尿病治療薬、がん治療薬の開発に従事している。現在、上海中医薬大学附属日本校、ベトナム国家大学ハノイ校の客員教授を務め、後進の研究指導に当たるとともに新しい研究分野にも挑戦している。著書に『認知症はもう怖くない』『私は「認知症」を死語にしたい』『脳の非凡なる現象』(以上、三五館)、『ボケるボケないは「この習慣」で決まる』(廣済堂出版)がある。共著に『あと20年! おだやかに元気に80歳に向かう方法』(明日香出版社)がある。
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(精神科医 保坂 隆、医師、医学博士 西崎 知之)
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