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触媒技術を応用した新しいレドックスフロー電池

PR TIMES / 2023年10月6日 19時40分

二酸化炭素を活物質にして充放電の実証に成功

・安定な二酸化炭素を触媒により活物質として利用可能に
・レドックスフロー電池の性能向上に向けた基盤技術
・活物質の選択肢を広げ、新しい材料開発への活用が期待



[画像1: https://prtimes.jp/i/113674/45/resize/d113674-45-63ab4dc88d9bb0145e58-0.png ]

概 要


国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)省エネルギー研究部門 エネルギー貯蔵システムグループ 兼賀 量一 主任研究員、大平 昭博 研究グループ長らは、京都大学 人間・環境学研究科 山本 旭 助教らと共同で、触媒を介した二酸化炭素とギ酸塩のレドックスを利用した新しいレドックスフロー電池を開発しました。

定置用大型蓄電池として特徴があるレドックスフロー電池は、再生可能エネルギーの導入時の電力系統安定化の候補として期待されています。一方で、活物質の選択肢は、可逆的に酸化還元する金属イオンや有機分子に限られていました。今回開発された技術では、安定かつシンプルな化合物の代表である二酸化炭素をモデル化合物に選択し、触媒により活物質として利用できることを実証しました。これらの成果は、触媒技術の応用であり、活物質の選択肢を広げ、レドックスフロー電池の性能向上に向けた新しい活物質開発につながります。

なお、この技術の詳細は、2023年8月31日に「Angewandte Chemie International Edition」によりオンライン公開されました。


下線部は【用語解説】参照

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
PR TIMESのシステムでは特殊文字は使用できないため、正式な表記とは異なることご留意ください。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20231004/pr20231004.html)をご覧ください。

開発の社会的背景


太陽光や風力に代表される再生可能エネルギーは気象変化の影響を受け発電量が変動するため、エネルギーの供給と需要を調整する仕組みを導入することが必要です。課題解決に向けて定置用大型蓄電の利用検討が進められています。レドックスフロー電池は出力部と容量部が独立し、出力/容量設計の柔軟性が高く、大型化が容易である特徴があり定置用大型蓄電池の候補として期待されています。一方で、活物質は可逆的に酸化還元する金属イオンや有機分子に限られており、電解液コストやエネルギー密度に課題があります。

研究の経緯


産総研では、レドックスフロー電池の開発に取り組み、活物資の開発を進めてきました。また、二酸化炭素をギ酸塩やメタノールなどに変換するための触媒技術開発にも取り組んでおり、世界でもトップレベルの触媒性能を持つイリジウム錯体を開発してきました(2012年3月19日[1]、2021年1月14日 産総研プレス発表[2])。今回の技術開発では、これまで活物質に利用できなかった化合物でも、錯体触媒を介して酸化還元できれば活物質に利用できると着想しました。そこでモデル化合物として、安定かつシンプルな化合物の代表である二酸化炭素を選択し、触媒を介したレドックスフロー電池を実証することを目指しました。

本研究開発は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050「遷移金属触媒を基盤としたCO2変換に関する技術開発」(研究代表者:兼賀 量一)の支援を受けています。

[1]https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120319/pr20120319.html
[2]https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210114/pr20210114.html

研究の内容


実際に、イリジウム触媒を介した二酸化炭素とギ酸塩のレドックスを負極、マンガンの2価と3価のレドックスを正極に採用してレドックスフロー電池を構築することで、その充放電の実証に成功しました(図1左)。充電時には、負極で錯体触媒を介して二酸化炭素がギ酸塩へと還元され、正極でマンガンが2価から3価へと酸化されます。放電時には、負極で錯体触媒を介してギ酸塩が二酸化炭素へと酸化され、正極でマンガンが3価から2価へと還元されます。
[画像2: https://prtimes.jp/i/113674/45/resize/d113674-45-c4141fbca5481ca6838e-1.png ]

触媒構造や充放電条件の最適化を進めることで、少なくとも50回の充放電が可能となりました(図1右)。また、電池性能を示すクーロン効率は安定的に90%を超え、最大で1.5 Ah L-1の比放電容量が得られました。

今回の開発では、充放電中の錯体触媒の電子状態をin-situでのX線吸収分光測定を利用して解析し、錯体触媒が特異的に4価の高原子価状態で作用していることを明らかにしました。充電時には、錯体触媒が還元され、活性種として4価のヒドリド種が生成します(図2上段)。ヒドリド種が二酸化炭素を還元しギ酸塩が生成し、錯体触媒は再生されます。放電時にはギ酸塩からヒドリド種が生成し、ヒドリド種が酸化されることで、錯体触媒が再生されます(図2下段)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/113674/45/resize/d113674-45-78a9fc35cdc177fb5787-2.png ]

今回の成果は、これまで活物質に利用できなった化合物でも、触媒を応用して活物質化できる可能性を示しました。このような触媒技術をさまざまな化合物へと適用することで、レドックスフロー電池の性能向上に向けた新しい活物質開発が期待されます。

今後の予定


本研究では実証した原理に基づき、さまざまな化合物について活物質の可能性を探索します。また、レドックスフロー電池の大型化と実用化に必要な研究開発に取り組みます。

論文情報


掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:An Aqueous Redox Flow Battery Using CO2 as an Active Material with a Homogeneous Ir Catalyst
著者:Ryoichi Kanega, Erika Ishida, Takaaki Sakai, Naoya Onishi, Akira Yamamoto, Hiroki Yasumura, Hisao Yoshida, Hajime Kawanami, Yuichiro Himeda, Yukari Sato, Akihiro Ohira
DOI:10.1002/anie.202310976

用語解説


ギ酸塩
ギ酸(HCO2H)のプロトン(H+)が金属イオンや他のカチオンに置き換えられたものを指す。

レドックス
酸化還元反応のことを指し、reduction(還元)とoxidation(酸化)を縮めた略語。

レドックスフロー電池
液循環型の2次電池であり、電解セル、その外部に活物質を含む電解液を蓄えるタンク、および電解液を電解セルに流動させるポンプで構成される。出力部(電解セル)と蓄電容量部(電解液タンク)が独立しているため、電池セルの設計自由度が高い特徴がある。バナジウム系や有機系レドックスフロー電池の比放電容量は~15 Ah L-1。

活物質
電池は電気化学的な酸化還元反応を利用して、化学エネルギーと電気エネルギーの変換をするデバイスである。このエネルギー変換のための酸化還元反応を担う物質のことを活物質と呼ぶ。

錯体触媒
反応活性点となる金属とそれを取り囲む有機配位子からなる化合物(錯体)で触媒機能を有するものを指す。

クーロン効率
充電に要した電気量に対する放電電気量の比で、充電した時に供給される電気量に対して、放電時に実際に取り出せる電気量の割合を示す指標。以下の式より算出される。
クーロン効率=放電電気量/充電電気量

比放電容量
放電容量とは蓄電池の性能を示す指標の一つで、蓄電池が完全に充電された状態から放電されるまでの電気量を指す。比放電容量は単位体積当たり換算した値。

X線吸収分光測定
物質にX線を照射し、その吸収の特性を調べることで、物質の構造や化学的な状態を調べる非破壊的な測定技術。

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