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アルコールに強い人が糖尿病になりやすいメカニズムを明らかに

PR TIMES / 2021年6月9日 13時45分

~ 飲酒量が多いと肝臓でのインスリン感受性が低下する ~

順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史 先任准教授、河盛隆造 特任教授、綿田裕孝 教授らの研究グループは、正常体重の日本人男性約100名を対象にした調査を行い、アルコールに強い遺伝子型を持った人は、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きが悪くなり、空腹時血糖値が高くなる可能性を世界で初めて明らかにしました。糖尿病の発症のしやすさは遺伝因子や環境因子に影響を受けますが、東アジア人ではアルコールへの耐性(強さ)を規定するアルデヒドデヒドロゲナーゼ2 遺伝子多型 (ALDH2 rs671)*1 が、アルコールに強い遺伝子型であると糖尿病になりやすいことが近年明らかになっています。本研究成果は、その新規メカニズムを世界で初めて示したものであり、予防医学の観点からも、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 」のオンライン版で公開されました。



本研究成果のポイント


東アジア人でアルコールに強い遺伝子型であると糖尿病になりやすいが、そのメカニズムは不明であった。
アルコールに強い遺伝子型を持った日本人男性では、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きとグルコースクリアランスが低下し、空腹時血糖値が高くなる可能性を明らかにした。
日本人男性の糖尿病発症につながるメカニズムの一端の解明から、アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に重要あり、飲める人ほど特に注意が必要であることが示された。


背景
日本人を含む東アジア人は肥満でなくても糖尿病になりやすいことが知られています。実際、東アジア各国の2型糖尿病患者の平均体格指数(body mass index; BMI)は25kg/平方メートル 未満であることが多く、その原因の一部は、東アジア人の遺伝的素因が関係していると考えられています。この点に関して、近年、東アジア人433,540人のゲノムワイド関連研究が行われ、アルコールへの耐性(強さ)を規定する遺伝子型として知られているALDH2遺伝子多型が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として新たに同定され、アルコールに強いタイプの遺伝子型を有する男性は糖尿病になりやすいことが報告されました(Nature 2020)。しかしながら、アルコールに強い遺伝子型であるとなぜ糖尿病が発症しやすいのかは、不明な点が多く残されているため、その機序の解明を目指した研究を行いました。

内容
本研究では、BMIが正常範囲内(21~25 kg/平方メートル )の日本人男性94人を対象に、ALDH2遺伝子型と、インスリン感受性や代謝における各パラメーターとの関連性を評価しました。インスリン感受性の測定には10時間以上を要する2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法(*2)と呼ばれる特別な検査法を用いました。本検査法による正常体重の男性を対象にした100人規模の調査は、世界でも本研究グループ以外に前例がありません。その後、参加者の代謝的特徴をアルコールに強い遺伝多型(ALDH2 rs671G/G)を持つハイリスクグループ(53名)とその他の遺伝子型(ALDH2 rs671G/A またはA/A)のローリスクグループ(41名)に分けて比較しました(図1 上段)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/308/resize/d21495-308-638231-1.jpg ]

その結果、ハイリスクグループでは1日に18.4g(中央値)のアルコール(ビール370ml程度)を摂取し、ローリスクグループの摂取量12.1g(ビール240ml程度)の約1.5倍となっていましたが、体脂肪量、肝脂肪量や肝機能などにはグループ間で有意な差は認められませんでした。しかしながら、空腹時血糖値はハイリスクグループでは97.5±7.9mg/dLで、ローリスクグループの93.5±6.2mg/dLに比べ有意に高いことが明らかとなり、ハイリスクグループでは、太ってはいないものの、飲酒量が多く、空腹時血糖値が高いことが分かりました。そこで、ハイリスクグループで血糖値が高くなるメカニズムを解析した所、ハイリスクグループでは肝インスリン感受性(*3)と、グルコースクリアランス(*4)が低下しており、その一部は飲酒量の多いことが関連していました(図1 下段)。実際に、ハイリスクグループであっても、飲酒量が1日30g未満であると30g以上の人に比べて空腹時血糖値が低く、肝臓のインスリン抵抗性も比較的良好であることも明らかとなりました。

以上の結果から、アルコールに強い遺伝子型の男性では飲酒量が多いことにより、肝臓でのインスリンの効きやグルコースクリアランスが低下し、血糖値上昇を引き起こす可能性があることが世界で初めて明らかとなり、これがアルコールに強い遺伝子多型 (ALDH2 rs671G/G)の人で糖尿病発症リスクが高くなる原因の一つであると考えられました(図2)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/308/resize/d21495-308-963006-0.jpg ]

今後の展開
日本人では、特にBMIが22 kg/平方メートル 以下の男性において、適量の飲酒でも糖尿病のリスクが高まることが指摘されていますが、当研究グループでは、飲酒習慣のある男性において1週間の禁酒が、肝臓のインスリン抵抗性の改善と空腹時血糖値の低下をもたらすことも明らかにしています (Funayama et al. 2017)。
以上のことから、アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に効果があると考えられます。アルコールに強いから沢山飲んでも大丈夫というわけではなく、飲める人では飲酒量に特に注意が必要です。
本研究グループでは今後もアジア人が太っていなくても糖尿病をはじめとした生活習慣病になりやすい体質の解明と適切な予防法の開発に向けて取り組んでいきます。

用語解説
*1 アルデヒドデヒドロゲナーゼ2 (ALDH2) 遺伝子多型 (rs671)
ヒトが飲酒するとアルコールは、アセトアルデヒドに分解された後、肝臓のALDH2を中心にして酢酸に分解されて無毒化されます。白人のほとんど(99%)は、ALDH2がアルコールに強いタイプ(rs671G/G)ですが、日本人を含めアジア人では50%程度しかそのタイプがいません。そのため、アルコールが健康に与える影響は、病気や人種、さらには遺伝子のタイプによって異なることが示されて来ています。自分のALDH2遺伝子型はエタノールパッチテストという方法で簡易的に知ることが出来ます。

*2 2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法
肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を精密に計測する方法です。参加者の方に、安定同位体でラベルされたブドウ糖とインスリンを点滴で持続的に投与することにより、肝臓と骨格筋でのインスリンの効き具合をそれぞれ別個に計測することが出来ます。

*3 肝インスリン感受性
肝臓は蓄えられているグリコーゲンの分解や、新たな糖の合成(糖新生)により出来たブドウ糖を放出し、血糖値を高める作用があります。インスリンはこの肝臓からの糖放出を抑制し、血糖値を低下させます。インスリンによる肝糖放出の抑制度合いをクランプ法で測定し、それを肝インスリン感受性の指標とします。一般的に肝インスリン感受性が低下すると、肝臓からの糖放出が高まり、それによって空腹時血糖値が高くなると考えられています。本研究では、アルコール摂取量が多いと肝インスリン感受性が低下するという関連性を認めました。

*4 グルコースクリアランス
空腹時の血糖値は全身でグルコース(糖)がどの程度取り込まれる(クリアランス)かで一部規定されますが、この生理作用をグルコースクリアランスと呼びます。本研究では、アルコール摂取量が多いとグルコースクリアランスが低下している関連性を認めました。

原著論文
本研究成果は米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版(2021年5月11日付 )で公開されました。
英文タイトル: ALDH2 rs671 is associated with elevated FPG, reduced glucose clearance and hepatic insulin resistance in Japanese men
タイトル(日本語訳):ALDH2 rs671は、日本人男性の空腹時血漿グルコースの上昇、グルコースクリアランスの低下、および肝臓のインスリン抵抗性に関連する
著者:Kageumi Takeno, Yoshifumi Tamura, Saori Kakehi , Hideyoshi Kaga , Ryuzo Kawamori, Hirotaka Watada
著者(日本語表記):竹野景海、田村好史、筧佐織、加賀英義、河盛隆造、綿田裕孝
著者所属:順天堂大学
https://doi.org/10.1210/clinem/dgab324

なお本研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 (文部科学省), ハイテクリサーチセンター整備事業(文部科学省)、JSPS科研費(文部科学省)(JP23680069, JP26282197, JP17K19929)、日本糖尿病財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団、三越厚生事業団、Diabetes Masters Conference研究助成等の支援を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。

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