「このままだと死者が出ます」と言われるほどの行列ができた仙台の超人気ラーメン店が閉店「オープン初日は上手く作れず、看板を見上げて泣いていました」
集英社オンライン / 2024年3月30日 11時0分
〈火事で閉店するもラーメン作りをやめなかった理由「師匠、地域のラーメン店、常連さんに支えられて」ひたすら帰りを待つ兄の存在〉から続く
道路拡幅工事に伴い、32年続いた営業を終了することを決めた宮城・仙台の人気ラーメン店「五福星(うーふーしん)」。1992年創業の名店の突然の閉店発表にお客からのショックの声が集まっているが、店主の早坂雅晶さんはこのままでは終わらない。(前後編の後編)
情けなくて看板を見上げて泣いた開店初日
「五福星」の店主・早坂さんは16歳の頃からレストランやパーラー、喫茶店でアルバイトを始め、その後、山形交通の契約社員としてスキー場でコックの仕事をしていた。やがて妻・てる子さんと結婚し、将来の生き方を考えていた頃、郡山にある遠い親戚がやっている喜多方ラーメンの名店「北方らーめん」に食べに行った。洋食出身の早坂さんに店主の一言が刺さったという。
「洋食はいろんなものを作らないといけないけど、ラーメンは鍋と釜二つあれば作れるぞと言われ、安直にこれはいいなと思ってしまったんです」(早坂さん、以下同)
喜多方の名店「源来軒」出身の「北方らーめん」は郡山でも伝説の店と言われ、店主は10年間で“ラーメン御殿”といわれる大きな家を建てた。それに憧れた早坂さんは仙台でラーメン店をやることを前提に「北方らーめん」で修行を始めた。
その後、1992年に仙台市青葉区で「五福星」をオープン。「北方らーめん」の喜多方ラーメンをベースに、太麺に背脂を合わせた仙台では画期的な一杯を提供しはじめる。
「オープンの前は完全に舐めていました。周りにたいしたお店もなかったので、チョロいと思っていたんです。
しかし、初日が始まってみるとまったく上手く作れませんでした。情けなくて看板を見上げて泣いていました。
お客さんには『醤油の色をしてるけど塩の味しかしねえ。喉が渇いてしょうがねえ』と言われました」(早坂さん)
郡山で売れているラーメンをそのまま仙台に持ってきても売れない。
地方の人気店がそのままの味で東京に進出してもなかなかうまくいかないのと同じで、都市部で売れるラーメンを作るのはなかなか難しいのだ。しかし、早坂さんは研究を進め、ラーメンをブラッシュアップすることで、だんだんとお客さんが増えてきた。
「一番になるなら都会に出ろ。一流なら田舎でもできる」
オープンから1年後、雑誌『dancyu(ダンチュウ)』で紹介され、その後行列の絶えないお店になる。
2002年には大晦日に日本テレビ系で放送された「史上最大 全国民が選ぶ美味しいラーメン屋ベスト99」で65位にランクイン。とんでもない数のお客さんが毎日行列を作るようになった
「『このままだと死者が出ます』と言われるぐらいの行列になってしまったんです。わずか6.5坪の店でこれはキツいと言いながら一年が経ち、翌年の同じ特番では18位に上がりました。常連さんが奥さんと子どもを連れてきてくれたときにお店に入れないということがあり、それが決定打となりました」
当時のお店では寸胴が一本で、チャーシューを煮ながらスープを作ることすらできなかった。
もう少し広い場所に移り、しっかりお客さんを入れられるお店にしようと移転を決断した。
こうして「五福星」は2006年に泉区へ移転した。お店の周りには何もなく、「五福星」はわざわざラーメンを食べに来る場所になった。
「お世話になっている和食屋の親父さんに『一番になるなら都会に出ろ。一流なら田舎でもできる』と教えてもらいました。田舎でだっていいものを作っていればお客さんが来てくれるんです」
移転後は念願の自家製麺をスタート。スープや具材だけでなく、これですべて手作りのラーメンが作れると意気込んでいた頃、2008年に事件は起こる。
製麺中、事故に遭い、早坂さんは利き手の右腕をすべて失ってしまうのである。懸命のリハビリで早坂さんは復活。右腕を失い隻腕となってから早坂さんの考えは一気に変わっていく
「命を落としかけたことで、体が求めるものこそが美味しいんだということに気づいたんです。それからというもの、味のこだわりよりも本質を追求しようと思うようになりました」
この頃出会ったのが“命の塩”と呼ばれる「ぬちまーす」という塩だ。
商売の鉄則は「食券機を置かず、必ずレジでお客さんと会話」
「ぬちまーす」はマイナスイオンのまま結晶化された伝説の塩で、ミネラル分が豊富。これを使ってミネラルたっぷりの「ぬち麺」を作るプロジェクトが始まった。
原産地・沖縄を訪れ、徹底的に「ぬちまーす」を研究し、早坂さんは麺にシルク=絹を練りこんだ極上の「シルク麺」を完成させた。その後、早坂さんの影響で「飯田商店」「とみ田」「蔦」などの名店が「ぬちまーす」を使うようになり、一気に話題となる。
「また食べたくなるけどよそでは食べられない完全オリジナルな一杯を目指して作りました。金華豚を使ったとびきり美味しいチャーシューや、ここでしか食べられない気仙沼産の生ワカメなど、具材に引き寄せる一杯を構築しました」
早坂さんはこだわりの押しつけではなく、商売のあるべき姿を大事にしている。来てくれるお客さんとのふれあいこそ、商売。
「五福星」では「いかがでした?」と聞くのはNG。必ず「お腹いっぱいになりました?」と聞くようにしている。するとお客さんは「お腹いっぱいになりました」と言って、また来てくれるのだ。食券機を置かず、必ずレジでお客さんと会話をする。これこそが商売の鉄則だ。
2011年には東日本大震災で宮城県は被災。その頃の恩を忘れず、現在早坂さんは能登地震の被災地に定期的に炊き出しに行っている。
「一番被害のひどい珠洲市などのエリアは、未だカーテンで仕切られた中でアルファ米をずっと食べています。
あったかいおいしいものを出してみんなで食べるだけで楽しいもの。東日本大震災のときは石川からもたくさん支援に来てくれました。絆返しだと思って動いています」(早坂さん)
店の前の道路拡張で来年には閉店が決まっている「五福星」。次なる場所は県内の温泉地に決めている。ここで奥さんのてる子さんと二人で新しい一歩を踏み出す。
取材・撮影・文/井手隊長
〈ラーメン「1000円の壁」に挑み続けた仙台の超人気店店主が目指す次のステージ「温泉入ってラーメン食べて3000円、の遊び場を作ります」〉へ続く
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