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先輩の男性器を触ることを強要されたり、練習中に暴行を受け…早稲田大の名門体育会から大手企業勤務エリートがホストクラブ内勤に転身した理由「夜職にはあって一般企業にはないものが…」

集英社オンライン / 2024年5月4日 12時0分

早稲田大学の名門の体育会から大手印刷会社に就職し、今はホストクラブの内勤という異色の経歴を持つ佐々木洋宣さん。「今が幸せ」と語る彼が歩んできたエリート内での閉鎖的な“いじり”と、ホワイトカラー特有の“欺瞞”とは。

【画像】今も184センチ116キロという体育会時代の体型を維持

“いじられキャラ”に苦悩した学生時代

待ち合わせのお店に身をかがめて低姿勢で入ってきたのは、184センチ116キロの巨漢男性だった。ベンチプレス140キロを上げるというその強靭な肉体と裏腹に、どこかオドオドして、落ち着かない様子をしている。

佐々木洋宣さん、29歳。早稲田大学時代は体育会の部活に所属し、卒業後は誰もが知る大手印刷会社に勤務した秀才だ。紆余曲折を経て、現在彼は新宿歌舞伎町のホストクラブ「ユグドラシル本店」の内勤として働いている。

「どこへ行ってもナメられるんですよね」

開口一番、佐々木さんはそうつぶやいた。学生時代はずっと”いじられキャラ”だったという。

「地元・足立区の公立中学校が荒れていて、『民度の低い場所にはいきたくない』と中学受験して、私立足立学園に進学しました。中学生くらいのときは“KY(空気読めない)”という言葉がまさに流行していた時期で、私はその代表格だとみなされていました。

確かに、私は『右向け右』みたいな”雰囲気”で人に操られるようなことに抵抗を覚える人間では当時からありました。加えて、人の発言の裏側などがあまり読み取れず、私の言動が人をいらつかせてしまうことがあったみたいです」

猛烈な受験勉強の末、晴れて希望の早稲田大学への進学が叶った佐々木さんだが、入学早々つまづいてしまう。

「早稲田大学に合格した翌日から、私はとある体育会の部活の練習に参加していました。すると、そこでの行動が同期や先輩の”いじり”の対象になってしまったんです。部活では、”いじり”の標的になる人が各学年に一人いました。

“いじり”はどんどんエスカレートして、先輩の男性器を触ることを強要されたり、練習中のどさくさに紛れて殴られる、蹴られる、転ばされる――などの暴行にも遭ったりしました」

日常的かつ執拗な”いじり”を受けることによって、佐々木さんの精神は限界に追い込まれていった。もちろん、監督に相談もしたが、取り付く島もなかったという。

「身の危険を感じた私は監督に相談しましたが、監督は悪しき”いじり”の文化を知っていながら黙認を貫きました。まるで訴えた私が悪いかのように、『加害者だって、(暴行を)やりたくてやっているんじゃないんだ』と言われたこともあります。

監督は頼りにならないことがわかり、その競技部が所属する協会や早稲田大学のハラスメント相談窓口に対して、私は受けたハラスメントを一つひとつ証拠とともに報告しました。10件以上提出し、そのうちのいくつかは正式に認定されました」

その後、理由はあきらかにされていないものの、監督は退任している。

ハラスメントと戦うなかで佐々木さんは過呼吸などの急性ストレス反応が出るようになり、心療内科にも通ったが、完治には至らなかった。新卒で入社した大手印刷会社においても、過呼吸発作を再発して5年ほどで退職した。

ホワイトカラーの欺瞞に気がつく

人から小馬鹿にされやすく、尊重されにくい。だがこれほど恵まれた体躯なら、その実力で相手を屈服させることもできただろう。

「力によって相手をねじ伏せるのは理性的な行動ではありませんし、それをしたいとは思いません。おそらく、生育歴とも関連するかもしれません。

父は中卒でマグロ漁船などに乗っており、言語化能力が低いためにすぐに手が出る人でした。見知らぬ人に絡んでいるのを何度も見かけたことがあります。話が合うと感じたことは一度もありません。回数は多くないものの、私も体罰を受けたことがあります。

父はある日、薬物事犯のテレビ報道を見ていて、『俺も昔、麻薬やってたけど、肌に合わなかったな』とさらりと言ったんです。心底軽蔑しました」

荒くれ者の父と距離を取り、熱心に勉学に励むことで佐々木さんは学歴と教養を得た。しかし、いわゆるホワイトカラーの職場をいくつか転々としたのち、落ち着いたのは水商売。本人はその結末を嬉々として「それ以前に比べれば幸せです」と断言する。なぜなのか。

「ホワイトカラーに蔓延っている、”建前文化”が嫌いなんです。ホストクラブをはじめとする夜職は、なかには直情径行の人もいます。でも自分たちが人間の欲望に対して、忠実に生きていることを自覚しています。

翻ってホワイトカラーはさまざまな誤魔化しを用いて、自らさえも欺いていると思うんです。一例ですが、大手チョコレートメーカーは企業イメージこそいいですけれど、その裏には発展途上国で児童労働が起きていたりするわけですよね。しかしそのことを自分たちとは関係ないと本気で思って生きている。それは欺瞞ではないでしょうか」

自身のサラリーマン時代の体験から”建前文化”への嫌悪感が募っていったという佐々木さんは、取材開始当初とは見違えるほど雄弁にこう語る。

「サラリーマン時代には、役員におもねるためだけに存在するような会議がありました。招集した本人が『今日の議題はなににしましょうか?』などとのたまう馬鹿らしい会議です。

私はのちに行われたアンケートで『この会議は意味があると考えますか?』と聞かれたので、迷わず『いいえ』を選択したんです。すると後日呼び出され、『無駄なことをするのがサラリーマンなんだ!』と叱責されました。無駄という自覚があったんですね。

現代のサラリーマンの仕事は資料作成、会議、アポが基本だと思いますが、やっている当人すら思ってもいない『SDGsが〜』とか『ダイバーシティが〜』とか美辞麗句を並べ立てるだけの茶番だと思います」

「夜の歌舞伎町にはさまざまな人を受け入れてくれる度量があります」

佐々木さんがここまであらゆる状況を俯瞰的に見られるようになった背景には、「空気を読めない」と言われ続けた学生時代の読書体験があるのだという。

「かつて、人と足並みの揃わない学生時代はそれなりに辛く、私はさまざまな書籍を読んで今自分の身に起きている事象を説明しようと試みました。そのおかげで、こうして言語化できるようになりました。

たとえば昔よく言われた『お前は空気が読めない』という言葉に関しても、一見そういう状況が本当にあるかのようですが、言った側の一方的な評価に過ぎないんですよね。言う側と言われる側の間には明確な権力格差があって、しかもそれはローカルな空間だけで通じる役割にすぎません。

大学時代の部活動でも『一発芸をやれ』と無茶ぶりをしてきて、応じないと私のノリが悪いと批判してくる先輩がいましたが、それも同様の構造になっているわけです。常に一方通行の力関係のなかで、安全地帯にいる人間がそうじゃない人間を”いじって”いるんです。そうしたことが分析できたとき、周囲に合わせない自分を責める必要がなくなって、一気に楽になりました」

最後に夜職にあって、ホワイトカラーにない魅力を聞いた。

「ホワイトカラーは分業制が進んでいて、それゆえに無駄な仕事があるのにそれを誰も指摘しません。自分の仕事がエンドクライアントにどう届くのかが見えづらい構造があります。

しかし夜職の場合、お客様の喜怒哀楽がすべて見えます。たとえそれがネガティブな反応だとしても、むき出しの感情に触れていられるだけで、私は心地よいと感じるんです。

このまま内勤を続けて裏方で成果を上げていくか、それともキャストに転向して”ホストっぽくないホスト”がどれだけ通じるか試してみるか、はたまた資格試験に合格して夜職に詳しい士業となるか――自分自身もとても楽しみです。そして、夜の歌舞伎町にはさまざまな人を受け入れてくれる度量があります。

歌舞伎町という街の持つそうした部分が好きだから、きっと私はこれからも歌舞伎町で生きていくんだと思います」

取材を終えると、佐々木さんは「これから自転車で出勤です」と晴れやかに言った。仕事へ向かうそのまっすぐな背中は大きく、歌舞伎町を目指して迷いなく進みだしていった。

取材・文・写真/黒島 暁生

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