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松本人志は、革新的クリエイターにして天才的ヒットメーカー。『エンタの神様』演出家が脱帽した『すべらない話』、ありそうでなかった大発明『笑ってはいけない』の真髄とは

集英社オンライン / 2024年5月8日 17時0分

史上初めてシュールな笑いで天下統一した、〝カリスマ〟松本人志の影響力…「テレビの現場がお笑いの論理で動くようになり、お笑いがわかっている人が売れる時代に」〉から続く

『マジカル頭脳パワー!!』(最高視聴率31・6%)、『エンタの神様』(同22・0%)など、日本テレビで数々の番組を高視聴率に導き、〝平成の視聴率キング〟と呼ばれた演出家の五味一男氏。大衆の気持ちを察知することに注力し、最大公約数を意識した五味氏にとって、〝孤高の存在〟松本人志はどのように見えていたのか。

【画像】『エンタの神様』総合演出が脱帽した松本人志氏の企画力

本記事は、書籍『松本人志は日本の笑いをどう変えたのか』(宝島社) より、一部抜粋、再構成してお届けする。

クリエイターでありながらヒットメーカーでもある松本人志

まず大前提として、私のスタンスは松本人志のファンであるということです。その上で、個人的な思いも含め松本さんについて語りたいと思います。

ビジネスの世界では、クリエイターとヒットメーカーはなかなか両立しないと言われています。クリエイターは自分の感覚が命。運良くその感覚が時代を射抜いているうちはよいのですが、少しでもその感覚が時代の求めるものとズレるとヒットは望めません。
そのため私は、「視聴率はテレビマンがどんなに欲しくても、自分自身で取りにいけるものではなく、最終的にお客さん(視聴者)が決めるもの」「自分がやりたいことを優先させるのではなく、人々が潜在的かつ普遍的に求めているものを彼らの代弁者となり見つけ出し具現化する」といったロジックを掲げ、数々のテレビ番組を手掛けてきました。

なので、今回私が「松本人志」を語るのはちょっと違うんじゃないかととらえる人は多いかもしれません。たしかに私が「客観的にヒットを計算するタイプ」に対して、松本さんは「自らの笑いをとことん追求するクリエイタータイプ」だというのはその通りかもしれません。
ただ、ヒットメーカーとクリエイターはまったく異なるものではないとも思えるのです。複数の当たりを生み出すヒットメーカーは、視聴者が潜在的に求めていることを察知する力が必要だと言われています。

でも、松本さんはそんな理屈など超越して『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ)、『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』(ともにフジテレビ)といった大人気コンテンツを生み出した天才的ヒットメーカーでもあるのです。私と松本さんは一見、相容れないように思われるかもしれませんが、少なくとも私はクリエイターでありながらヒットメーカーでもある松本さんに対して大いなるリスペクトを感じている「視聴者としてひとりのファン」なんですね。

ダウンタウンは自分たちの感覚を大切にしつつも、一般の人々が面白いというものを経験則のなかで掌握しながらどんどん進化していったコンビだと思います。例えばそれは、音楽なら松任谷由実さんやサザンオールスターズがそうでしょうし、映画なら宮崎駿監督やスティーブン・スピルバーグ監督がそうだと思います。

アートの世界はとことん自分のやりたいことを追求すればいいかもしれません。しかし、いわゆるエンタメと言われる世界においては、お客さんのことを考えなければいけません。大衆の気持ちと波長が合わなければ支持されることはない。

松本さんが根を下ろす笑いの世界はその最たる例で、ウケなければ人気者になることはできません。「ウケる」というのは文字通り、大衆から支持を受けているということでもあると思います。センスがいいとか、カリスマ性があるとか、前衛的だとか、それだけで大衆から支持を受けることは決してできないのです。

『笑ってはいけない』シリーズという大発明

松本さんのコンテンツをつくる発想力は天才と言わざるを得ません。ソフトもハードもつくることができる。『IPPONグランプリ』や『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)などは、企画者として天才だと思います。とりわけ私が脱帽するのが、『笑ってはいけない』(日本テレビ)シリーズです。

人間には共感力の神経とでも形容すべきミラーニューロンという神経細胞があると言われています。事故の映像などを見て、こちらまで「痛い!」と感じてしまう現象はミラーニューロンによるもので、笑いにも同じ心理が働くと考えられています。
実際に私は『エンタの神様』で何回かこの共感力の実験をしたことがありました。芸人さんの後ろにカメラをセットし、客席が映るように回したのですが、不思議なほどに全員が同じタイミングで笑っていた。みんなが笑っているからシンパシーを感じ、つられるように笑ってしまうのです。

松本さんが発明した『笑ってはいけない』シリーズは、こうしたミラーニューロンを理解した上で、あえて「笑ってはいけない」と釘を刺す。笑いをこらえることにシンパシーを覚えさせ、より面白さを演出する。笑いをこらえる姿を見て面白いと感じさせ、思わず吹き出してしまう姿を見て、視聴者もつられて笑ってしまう。笑いの二重構造とも言える、ありそうでなかった大発明です。自身が面白いコメントを発するだけではなく、こうしたハードまでつくってしまうわけですから、やはり特別な存在だと思います。

前述したように私とダウンタウンの直接的な接点は数えるほどしかありません。ですが、もしかしたら一緒に番組をつくっていた――かもしれなかった。
私が『投稿!特ホウ王国』を手掛けていた1997年だったと思います。当時のマネジャーだった、現・吉本興業ホールディングス株式会社代表取締役社長である岡本昭彦さんから、「ダウンタウンを起用して何か番組を企画してくれませんか?」と相談されたことがありました。

繰り返しますが、私はダウンタウンが大好きで、このときの数年前にラブコールを送ったほどでしたから一緒に仕事をしたかった。しかし、そのとき私は『投稿!特ホウ王国』に加え『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』、さらには年間15本を超える特番などを抱えていたため、まったく時間がなくお受けすることができませんでした。

当時のダウンタウンは、『ガキの使いやあらへんで!』こそ人気番組として確立されていましたが、そのほかの日テレの番組ではなかなか思うような数字を記録することができませんでした。一方、『投稿!特ホウ王国』は笑福亭鶴瓶師匠とウッチャンナンチャンが出演し高視聴率を記録していましたので、私にお鉢が回ってきたのだと思います。

五味一男が考えていたダウンタウン番組案

多忙を極めていた私に余裕がないため実現することはありませんでしたが、もしもダウンタウンと一緒に仕事ができるなら、どんなコンセプトがよいか……を岡本さんとのお話のあと、妄想のように思い浮かべていました。
その概略は、全国から面白い話を募集し、そのなかからとくに面白いと思った話を選別し、そのエピソードを芸人がしゃべるというもの。ラジオの深夜放送にリスナーから送られて来た爆笑エピソードを漫画チックに可視化するイメージです。そのMCをダウンタウンがしたら面白くなるんじゃないのかと空想しました。

そうです。私が考えていた企画は『人志松本のすべらない話』に少し近いコンセプトで、『投稿!特ホウ王国』+『テレビ三面記事 ウィークエンダー』(日本テレビ。全国ニュースで伝えられることが少ないB級事件を、リポーターがフリップボードを使って解説する番組)のような番組だったんです。

『マジカル頭脳パワー!!』が終了すると1999年から後番組として、私は『週刊ストーリーランド』という番組をスタートさせます。実はこの番組こそ、そのアイデアから派生したものでした。「全国から集められたノンフィクションの爆笑話」を「全国から集められたフィクションの面白話」に変えたんです。

『明石家サンタ史上最大のクリスマスプレゼントショー』(フジテレビ)は、笑えるエピソードなのに、話者である素人さんの間が悪いため、面白さが半減してしまうケースが珍しくありません。私はその頃、珠玉の面白いエピソードを腕のある芸人さんにしゃべらせたら、どれだけ笑えるのかを見てみたかったんだと思います。
さらに、天才的なひらめきを持つ松本さんが舵を取っていたら、きっと面白くなっていたのかもしれない。今となっては、そんな妄想を懐かしく感じます。ただ、私は映画監督タイプなので自分の言うことを聞いてくれる人ではないとうまくタッグを組めない。自身も監督気質である松本さんとうまくできたかどうかはわかりません。

ただ、後年、『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)の放送が始まったとき、私は「やられた!」という思いと「やっぱり松ちゃんってすごいな!」という相反する感情を抱きました。『人志松本のすべらない話』は、土曜21時から放送されていたため、奇しくも数年前から放送していた『エンタの神様』の裏番組になってしまいました。流派はまったく違う。だけど、私は『人志松本のすべらない話』をとても面白いと雑誌などで公言していました。

松ちゃんも『エンタの神様』を意識していてくれたという話を間接的に耳にすることもありました。もしそれが事実ならば私はとてもうれしく感じます。そして、今後どこかで御一緒する機会があったら、仲良くではなく喧嘩しながらでもいいので(笑)、画期的なコンテンツをつくれたらいいな……と密かに期待しています。

文/五味一男

松本人志は日本の笑いをどう変えたのか

五味一男(『エンタの神様』プロデューサー) 水道橋博士 デーブ・スペクター 岩橋良昌(元プラス・マイナス)ほか
松本人志は日本の笑いをどう変えたのか
2024/4/26
1,320円(税込)
218ページ
ISBN: 978-4299054296
ダウンタウン・松本人志の「笑い」はいったい何がすごかったのか?

この30年間、お笑い業界の頂点に君臨し続けた松本人志。
本人が望むと望まざるとにかかわらず、お笑い=松本人志的価値観となっていたのは間違いない事実だ。
テレビマン、評論家、芸人など8人の論客が現代の「笑い神」の革新性と天才性を忖度なしに論じる、禁断の書!

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