“天の川銀河の恒星” だと思われていた天体、実は史上最も明るいクエーサーだったと判明!
sorae.jp / 2024年3月8日 21時20分
「クエーサー」は中心部に巨大なブラックホール(超大質量ブラックホール)を抱えており、100億光年以上離れていても観測可能なほど明るく輝いています。クエーサーはこれまでに約100万個発見されていますが、極めて明るいクエーサーの発見はごく少数に留まります。
オーストラリア国立大学のChristian Wolf氏などの研究チームは、「J0529-4351」という天体がクエーサーであり、その明るさは太陽の約500兆倍、典型的なクエーサーの約200倍と、観測史上最も明るいクエーサーであることを突き止めました。J0529-4351は天体カタログの上では「99.98%、天の川銀河にある恒星」と誤ってラベル付けをされていたことから、既に観測されているのに極端に明るいクエーサーだとは気付かれていないものが他にも多数存在するとWolf氏らは考えています。
【▲図1: 非常に明るいクエーサー「J0529-4351」の想像図(Credit: ESO & M. Kornmesser)】 ■極端に明るい「クエーサー」を見つけるのは難しい宇宙にある様々な天体の中でも「クエーサー」は驚異的です。その中心部には超大質量ブラックホールがあり、大量の物質を吸い込む過程でエネルギーを放出すると考えられています。その明るさは太陽の数兆倍、典型的な銀河の数千倍にもなります。クエーサーはしばしば遠方の宇宙で見つかりますが、遠い宇宙を見ることは昔の宇宙を見ることと同じなので、クエーサーは若い宇宙に存在する天体であるということになります。このため、クエーサーは銀河の初期形態を表しているのではないかと考えられています。
1963年に初めてクエーサーという天体が認識されて以来、天文学者はクエーサーを約100万個発見しています。ただし、その大半は1つ1つに望遠鏡を向けて発見したものではありません。現在の天文学は、夜空の広い領域を観察して得られた膨大な観測データの中から探している天体を見つけ出す手法が一般的です。観測データに含まれる天体は文字通り “星の数ほど” あるため、天体の分類は機械学習によって自動的にラベル付けされています。
この手法は、膨大な天体カタログを整理する上では便利ですが、問題もあります。ラベル付けの根拠となる機械学習は、分類元となる天体の一般的な性質を元にトレーニングが行われます。このため、あまりにも極端な性質を示す天体の場合、正しい種類を認識できずに誤ったラベル付けを行ってしまうことがあります。そのような誤りは全体から見ればごく少数ですが、極端な性質の天体を見つける上では障害になり得ます。
■「天の川銀河の恒星」と思われていた天体は史上最も明るいクエーサーだった! 【▲図2: J0529-4351の実際の天体写真 (拡大部で線が付けられた青白い天体) 。当初この天体は天の川銀河にある恒星と分類されていました(Credit: ESO, Digitized Sky Survey 2 & Dark Energy Survey)】Wolf氏らの研究チームは「J0529-4351」という天体に着目して研究を行いました。この天体はESA (欧州宇宙機関) が打ち上げた宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データによって作成された天体カタログ「Gaia DR3」に掲載されていましたが、そのカタログ上では「天の川銀河にある恒星である可能性が99.98%」とラベル付けされていました。
しかし、J0529-4351のスペクトルデータを見たWolf氏らは、それが恒星ではなく強い赤方偏移を示すクエーサーであると考えました。どれほど特徴的であったかと言えば、Wolf氏らが論文中で「ガイアのスペクトルに見慣れた天文学者なら、一目でクエーサーであると分かる」と表現したほどです。そして、サイディング・スプリング天文台(オーストラリア、クーナバラブラン)に設置された2.3m望遠鏡で観測を行った結果、J0529-4351が地球から約238億光年離れた位置にあり、今から約122億年前の時代に存在するクエーサーであることを確かめました(赤方偏移z=3.962)(※)。また、「超大型望遠鏡 (VLT) 」(チリ、パラナル天文台)による追加の観測データにより、クエーサーとしてのJ0529-4351の正確な性質が明らかになりました。
※…この距離は、光が進んだ宇宙空間が、宇宙の膨張によって引き延ばされたことを考慮した「共動距離」での値です。これに対し、光が進んだ時間を単純に掛け算したものは「光行距離(または光路距離)」と呼ばれます。
J0529-4351はクエーサーとしても異常に明るい天体です。その明るさは2×10の41乗ワット(20正ワット)であり、太陽の約500兆倍、天の川銀河の約4万倍、典型的なクエーサーの約200倍も明るいことになります。これは、知られている中で最も明るいクエーサーです。余りにも明るすぎるために非常に遠くにある天体と認識できず、ガイアの自動ラベル付けが間違ってしまうのも仕方のないことです。同じような見逃しは数十年前から続いており、最も古い記録としては1980年に作成された別の掃天観測記録(SSS)にも写っていたものの、今まで見逃されていました。
この明るさは、J0529-4351が持つ超大質量ブラックホールの活動によって、その周りに作られた物質の円盤である降着円盤が熱せられることで生じていると考えられています。J0529-4351の降着円盤は直径約7光年もあると考えられており、知られているものとしては最大の降着円盤です。中心部にある超大質量ブラックホールは太陽の約170億倍もの質量を持つとされており、これはブラックホールの質量ランキングで上位に位置することになります。この明るさを説明するためには、そのエネルギー源として1日あたり太陽ほぼ1個分の質量の物質を吸い込んでいると考えられます。この物質の吸い込み量 (降着率) も、知られているクエーサーの中では最大です。
■異様に明るいクエーサーは他にもあるかもしれない?今回の研究で、J0529-4351は「観測史上最も明るいクエーサー」の座を保持することになりましたが、トップの座を維持するのは短期間だけかもしれません。なぜなら、今回の発見を踏まえると、J0529-4351の他にも異様に明るいために誤ったラベル付けをされたクエーサーが多数眠っている可能性があるからです。膨大な天体を記録した掃天観測カタログは複数あります。こうしたカタログに対して
J0529-4351のような外れ値を持つ天体を見つける手法で探索すれば、明るいクエーサーがもっとたくさん見つかるかもしれません。
J0529-4351は既に天体カタログにデータ付きで掲載されており、かつ人の目で見ても異常な性質を持つことから、クエーサーと確定するための研究がスタートしました。今回の研究が将来的に参照される際には、単に特別明るいクエーサーを1個発見しただけではなく、さらに多くの明るいクエーサーを見つけるきっかけになった、という評価がされるかもしれません。
Source
Christian Wolf, et al. “The accretion of a solar mass per day by a 17-billion solar mass black hole”. (Nature Astronomy) Christian Wolf, et al. “Brightest and fastest-growing: astronomers identify record-breaking quasar”. (ESO)文/彩恵りり
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